第49話
魔力で空を飛ぶのは常識じゃない。
俺、覚えました。
:本当に飛んでて笑える
:いや笑えないが
:草
:えぇ
:怖いなー
視聴者たちが遠い目をしているような気がするけど、そんなことんどお構いなしに黄土色の龍と神代さんは自由自在に空を飛びながら戦い始めていた。
見た目通り、龍の方は口から炎を吐いたりしながら追ってくる神代さんを迎撃しているが、魔力操作が上手い神代さんの飛行速度は龍を超えていた。
「掴まえ、たっ!」
龍の背中に飛び乗った神代さんは、極大の魔力を手の中に出現させて容赦なくぶっ放した。普通、魔力はちょっとずつ手の中に溜めていって威力を上げていくものなんだけど……あの人はセンスだけでその工程を無視している。ずるくないか?
:大 怪 獣 バ ト ル
:乾いた笑いが出るわ
:うーん
:どっちがモンスター?
:神代璃音だろ
:怪物じゃん
:年齢的にはJDなのになんてことを
:あれが可愛い普通のJDに見えるなら眼科行った方がいいよ
:精神科行け
「おー……派手にやりますね」
EXの中でもぶっちぎりの問題児扱いされるけど、実力は本物だ。どんな場所でもド派手な魔法で攻撃するので、上層や中層だとダンジョンを崩落させたりする問題児なんだけども、1層ごとが滅茶苦茶広い深層ならなんの問題もない。
「あはは! 待て待てー!」
一発では死ななかった龍が、逃れるように上空へと飛び上がっていく中、それを楽しそうに追いかける人間。普通は逃げ惑う人間を追いかけるモンスターになると思うんだが……やっぱりあの人は視聴者の言う通り戦闘民族だ、間違いない。
「あ、やべ」
:どうした?
:なにかあったのか?
:おーい
:大丈夫か?
:もしかして異常事態でも発生した?
:深層の異常事態とか終わりでは?
龍が上空へと向かって逃げて、しかも極大の魔力を叩き込んでも死ななかったということは……神代さんは次の攻撃で、更に強力な魔法を上空へと向かって放つと言うことだ。つまり……深層の天井が崩壊するかもしれない。
「神代さーん?」
「食らえ!」
「『勾陳』」
あ、駄目だあの人……全く気が付いてないわ。
仕方ないから俺はさっさと勾陳を召喚して自分の周囲に結界を張る。これならたとえ上からなにか降って来ても何の問題もない。
俺の心配はそのまま的中した。
「やぁー!」
恐らくなんらかの魔法を圧縮した超威力の魔法は、余裕で空を逃げていた龍を消し飛ばしたが、同時に75階層の天井をぶち抜いて74階層まで到達した。そして、上の階層である74階層は……砂漠地帯だ。
「あ」
:おい
:砂に埋もれたぞ
:天井破壊したんか
:これがEXの姿か
:これ、1階層でやったら渋谷駅崩壊するな
:言うなそんなこと
:死んだろ
:これで死ぬと思うか?
:思わない
超大量の砂が頭上から落ちてきて生き埋めになっているのに、視聴者はなんの心配もしていないようだった。まぁ、俺もあれくらいであの人が死ぬとは微塵も思ってないし、放置でいいかと思ってるけども。
「それにしても……75階層あっさり突破しちゃいましたね。どうしましょう」
:うーん
:EXが2人いればな
:そのうち、最下層まで配信で行こうぜ
:やばくて草
:最高到達階層が更新された歴史的な瞬間(笑)だぞ
:感動のエンディングやん
:やったな名誉俺たち
:長く苦しい戦いだった
おいおい、流石に酷いだろ。色々と調べたけど、探索者は自身の最高到達階層を結構気にしているらしいぞ。EXでそんなこと気にしているの聞いたことないけど。婆ちゃんも大概、いい加減な人だしな。
「重ーい!」
「あ、復活した」
上から落ちてきた砂を吹き飛ばしながら砂山から神代さんが飛び出してきた。さながら映画のような光景だけど、全て自業自得なのでなんとも思わないな。
「むーん……なんでこんな目に」
「周りも気にせずに魔法ぶっ放すからでは? そもそも自分の放った魔法の威力すらまともに計算してないですよね?」
「うん!」
元気に肯定するな。
:これでいいのか?
:こんな奴にEXの資格渡して大丈夫?
:日本のダンジョンでやらなきゃヘーキヘーキ
:ここは渋谷ダンジョンなんだよなぁ
:日本のダンジョンでやってんだから問題だろ
:強いからしょうがない
:特権が与えられるのは強いからだぞ
「でも、毎回そんな細かいこと考えながら魔法使ってたら疲れない?」
「疲れないです。それが普通なんです」
「えー? 視聴者のみんなも何も考えずに魔法撃ってるよね?」
:撃ってねぇよ
:人に当たったらどうするんだよ
:そもそもそんな威力の魔法撃てねぇよ
:知らんわ
:探索者じゃないからわかんないっす
:そんな考えなしじゃないぞ
「……裏切り者!」
「事実でしょう」
馬鹿かこの人は。
本当に適当な生き方をしている人だな……なんでこんなので普通に深層まで潜れてるのか意味わからん。
「ふーんだ! さっさと76階層行くよ!」
「75階層で終わりじゃないんですか?」
「最高到達階層を攻略したぐらいじゃつまんないじゃん! 折角EXが2人揃ってるんだから、いっそのこと行ける所まで行こう!」
「……最下層まで行きそうな勢いですね」
:最下層まで行け
:攻略しろ
:伝説の配信にしろ
:それだけは神代璃音に同意だぞ
:渋谷ダンジョン攻略して国の度肝を抜くんだ
:お前ならできるぞ名誉俺たち
:頑張れ名誉俺たち
「その呼び名を定着させようとするのやめてくれませんか? 普通に嫌なんですけど」
「あはは! うける」
「ぶっ叩きますよ」
クッソ腹立つな。
視聴者に言われるのはまだマシなんだけど、神代さんにそれを言われるとクソムカつくのは、神代さんが口から生まれてきたのかと思うぐらいに軽い人間だからだろうか。
:落ち着くんだ如月君
:Be coolだ如月君
:叩いたら死んじゃう
:相手もEXだから死なないぞ
:怪物が怪物を叩いたら地上に影響が……
:草
「はぁ……なら行ける所まで行きましょうか。どっちにしろ余裕は有り余ってる訳ですし」
「いいね! こうなったら未知の階層を攻略する配信として頑張ろう!」
「…………まぁ、競合相手はいないかもしれないですね」
:いたら怖いよ
:いる訳ねぇだろ
:普通に考えてEXと競合できる奴がいたらやばい
:そいつもEXになるだけさ
:うーんこれは伝説の配信
:毎回伝説の配信してるなこいつ
:それがEXクオリティ
:お前のせいでダンジョン配信減ってるまであるぞ
俺が深層配信してるぐらいでダンジョン配信やめる人は、その程度だったということでは?
そもそも俺は他人のことなんてあんまり気にせずに配信しているだけですし、そこまでのことを考えてやる義理もないんで。
前を歩く神代さんは、もっと他人のことなんて気にしてないと思いますけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます