第48話

「……相変わらず、魔法の威力は凄まじいですね。威力は」

「なーんか含みが無い?」

「あります」


:ちょっと驚き過ぎてコメントできなかった

:やっぱりEXって人間じゃないでしょ

:実は神様だった?

:国が開発したダンジョン探索用ロボット説

:ロボットだとしたら、勝手にアメリカ行ったりしないだろ


「失礼だね。こんな絶世の美女を見てロボット扱いなんて、この配信の視聴者たちに見る目はないみたいだ……ちゃんとお外出たら?」


:禁止カード

:は?

:言ってはいけないことを……

:戦争だろうが

:それを言ったらもう殺し合いだけだぞ

:許せねぇ

:傷つきました低評価押しました


「ちょっと、俺の配信に低評価が増えるようなこと言わないでくださいよ」

「えー?」


 なんて自由な人だ。陰キャコミュ障の人間に対して、積極的に外に出掛けようは禁止カードだろうが。言ったら後に残るのはキレた陰キャが一人、枕を涙で濡らしている姿だけだぞ。神代さんのような生まれつきの陽キャには理解できないかもしれないけど、陰キャは繊細なのだ。


:やはり如月君は良心

:EXの良心

:EXの良心はリーマンがいるだろ

:社畜な

:やっぱり俺たち

:流石名誉俺たち

:陰キャの擁護が上手いぞ俺たち

:やるじゃないか俺たち


「…………外出してください」


:あ

:裏切ったぞ!

:てめぇ!

:低評価押すぞ?

:許せねぇ

:名誉俺たちの称号剥奪するぞ


 そんな不名誉な称号はいらないので、すぐに剥奪してください。俺は陰キャコミュ障だが、引き籠ってネットばかりしている出不精タイプではない。故に、俺は「名誉俺たち」なんて名称をつけられる屈辱は受けたくない。


「お、見えてきたよ……75階層への階段」


:ここが人類の到達した限界への階段ですか

:限界(公式記録)

:限界(大嘘)

:限界(詐称記録)

:曖昧過ぎないか?

:笑える

:もはや視聴者が疑心暗鬼みたいになってるの笑える

:草

:草も生えない


「75階層が限界ってことは……に勝てなかったんでしょうね」

「まぁそうだよね。75階層ってことはアレだよね」

「攻略方法なんて特に無いですからね」


:アレってなんだよ

:もっと詳しく喋ろうよ

:指示語で喋るな

:EX特有の省略会話

:早くしろ


 コメント欄で色々と急かされているが、踏み込めばすぐに視聴者もわかることを、一々伝わるかどうかも分からない言葉でわざわざ説明するのが面倒くさい、と神代さんも思っているらしい。コメントを華麗にスルーしながら、階段を楽しそうに降りている。


「どっちが戦う?」

「……どっちがいいですか?」


:2人で戦うんじゃないのか(困惑)

:戦闘民族か?

:1対1しか認めないとか野蛮すぎるだろ

:EXは野蛮

:EXへの風評被害が止まらない

:アサガオちゃんは常識人でいい人でしたね(遠い目)

:ひぇー

:怖いぞ

:もう草生えない

:怖すぎ


「じゃあ神代さんで」

「この流れで私が喜んでやったら戦闘民族扱いだよね!? やるけど!」

「やるんじゃないですか」


:合ってた

:戦闘民族だったか

:怖い

:やっぱり探索者って野蛮だ

:探索者は野蛮

:探索者は暴力集団

:風評被害が止まらない


 探索者は野蛮とか暴力集団とか言うのは、未だにダンジョン探索に対して反対の意見を持っているネットの頭がイカレた連中が掲げている意見だな。基本的には陰謀論者と同じ様な扱いをされる可哀そうな人達だけど、まぁ最近の子供は義務教育でダンジョンのことを習うからな。高校生になると更にダンジョンの詳しい歴史とか教えられるけど、中学生でも普通にダンジョン関連の話は経済にも繋がってくるので、普通に出てくる。

 だらだらとコメントの人たちと喋りながら階段を降りていたら、75階層へと辿り着いた。


「着きましたね」

「もういるよ」


:すごく……平ですね

:八王子ダンジョンみたい

:舗装された地面ではないけど、普通に真っ平だね

:深層にもこんな場所があるんだ

:休憩ポイントかな?

:休憩ポイントまで辿り着いたからランクSパーティーは帰ったのかな?


 視聴者の人たちは全く気が付いてないみたいけど、既にこっちは捕捉されてるな。殺気がビンビン伝わってくるし、すぐにでも顔を出してくれそうだ。

 そんなことを考えていたら、地面が揺れてゆっくりと土煙を上げ、黄土色の地面の中から立派な髭を生やした龍が空に向かって飛び出した。どういう理屈で空を飛んでいるのか全くわからないけど、鋭い爪を持った四本の足を動かしながらダンジョンの宙を駆けている。


「……相変わらずゆったりと飛ぶねぇ」

「じゃあ、俺は後ろで見てますから」


:は?

:いや説明して

:誰だよ休憩ポイントとか言ったの

:やっぱり深層じゃないか

:深層に安全な場所はないのか

:深層だからね

:やはり人間が行く場所じゃない


 ふーむ……確かに、冷静に考えてみると地面からクソ長い龍が飛び出してきて、それが空を飛んでいる姿なんてダンジョンに日常的に潜っている人間でも理解できないかもしれない。深層に潜っていると、これくらいは結構慣れるものなんだけど、下層と比べて深層のモンスターは大分頭がおかしい奴が多いからな。

 よく、中層と下層では次元が違うとまことしやかに囁かれていたりするが、そんなことを言ったら下層と深層ではそもそも世界が違うと言えるかもしれない。下層のモンスターはどこまで行っても生物的で、理解ができる動きをする相手の方が多いのだが、深層は既にファンタジーの産物みたいな連中ばかりだ。


「あれは……中国の神話とかによく出てくる龍ですね」


:それは見ればわかる

:口下手か?

:これはコミュ障

:陰キャがよ

:流石、名誉俺たち


「……魔力で空中を泳ぐようにして飛ぶことが可能なモンスターで、地面から飛び出してきたから察している人もいるかもしれませんが、魔法で土を操ったりすることができます。離れた空からこちらの足下にある地面を操って攻撃してくる面倒な奴で、遠距離で超火力の攻撃を叩き込むのが一番早いです」


:怒って早口になっちゃった

:オタク特有の早口説明

:うーんわからん

:考えるな感じろ

:理解不能

:そもそも魔力で空中を泳ぐってなんだよ


 怒ってないが? ちょっとイラっとして視聴者に意地悪してやろうかなと思ったぐらいだが?

 そんなことより、魔力で空中を泳ぐの意味が分からない、か。


「魔力って万能なので、思ったことが結構なんでもできたりするんですよ。たとえば……あの人みたいに空を飛んだり」

「待てー!」


:は?

:は?

:ん?

:はい?

:どういうことだよ

:理解不能なんだが?

:草

:いやダメだろ

:ついに空まで飛んじゃったか


 え、探索者ってみんなそういうことしないんですか?

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