第46話
「で、なんでいるんですか?」
「えー?」
神代さんと久しぶりに出会った翌日、渋谷ダンジョンで普通に配信をしようとしていたら何故か待ち構えていた神代さんに絡まれた。
「私もつーくんの配信に出て見たくてね!」
「……別にそれはいいですけど、協会からなにか言われてないんですか?」
「毎日言われてるよ?」
「はぁ……」
そりゃあ、突然アメリカに留学してくるとか言って飛び出していったEXだもんな。普通に考えればわかるが、そんな相手に協会がなにも言わない訳がない。絶対に怒られてもいるはずなのに、全く懲りていない。多分だけど、この人のことを本気で怒れるのは婆ちゃんぐらいだろう。
「じゃあ配信しよ?」
下層のモンスターを小さな火球の魔法で消し飛ばしながら、神代さんはこちらに振り返って笑った。相変わらず、魔法の威力はとんでもない人だ。
「えー……今日は普通に深層配信していくつもりだったんですけど……」
:おは
:朝早くからお疲れ
:夏休みの朝活いいぞぉ
:普通ってなんだっけ
:深層配信は普通じゃないって気づけ
なんか色々言われてるけど基本的には無視で。
俺にとってはいつも通りのことで、深層に行くことよりも配信することの方が難しいことなんだから。
「それで、普通にやってくつもりだったんですけど……その……」
:お、どうしたどうした
:珍しく言い淀む
:陰キャ出てるぞ
:やっぱり名誉俺たちじゃないか
:俺 た ち
:不名誉すぎる
「その……突発的にゲスト、が来ることになって……その人のことが滅茶苦茶苦手なんですけど」
「えー!? つーくんってば私のこと苦手なの!?」
「……そういう所が苦手です」
:!?
:誰?
:画面に映ってないぞ
:つーくんって誰よ
:女だ!
:また女とコラボか
:俺たちの癖に
:俺たちの風上にも置けないな
:テンション高くて草
俺の紹介も待たずに、神代さんはカメラを俺の間に飛び出してきて、カメラに向かって笑顔を向けた。
「ダンジョン探索者のアイドル! 神代璃音だよ!」
:は!?
:また伝説の配信か
:伝説の価値観壊れる
:画面内にEX2人は情報量多すぎるぞ
:ガチのもんやんけ
:一応配信経験あるから……コラボだし(震え声)
:行方不明者見つかって草
:この間までアメリカいなかった?
「んー……コメント欄ってどうやって見るんだっけ?」
「もう黙ってていいですよ」
「辛辣!」
:草
:草
:なんとなく関係はわかった
:いや草
:深層配信が無言だったのは残念美人なことを隠すため?
:いや面倒だっただけだろ
:コメント欄見る方法もわからないやつが配信するな
なんか俺も風評被害を受けそうな勢いだけど、配信の盛り上がりは朝川さんとコラボした時以上だ。時間は朝早く、社会人なら普通に出勤している時間のはずなのに、とんでもなく視聴者数が多い。まぁ、神代さんは普通に海外でも有名な人間ではあるけども。
「いやー……つーくんにお友達ができたと思ったら、配信の視聴者さんまで……私は嬉しいよ!」
「俺は貴女に育てられた覚えはないですけどね」
どちらかというと尻拭いをした思い出ばかりなんだが?
:姉弟かな?
:笑う
:グダグダで草
:これこのまま配信できるの?
「配信できるの、と言われても……そもそもこの階段は68階層に向かう階段なんですよね」
:は?
:もう深層じゃん
:草
:いきなりで草
:深層に向かう階段で遊ぶな
遊ぶなと言われても、そもそも遊んでいるのは俺じゃなくて神代さんなので俺に言わないでくれ。そもそも神代璃音と言う人間は、自分の気持ちを最優先に考えるような直情タイプで、後先考えるような人ではないんだから。
「それにしても深層の配信にはこんなに視聴者がつくんだねー……全然知らなかったよ」
「あなた、深層の配信したことありますよね? その時は……もういいです」
「え、なんで?」
:順当
:コメントに反応することすらありませんでしたね
:突発で初めてそのまま無言で終わったからね
:結局あれが何層だったのかは誰も知らなかったからな
「あれは……何層だったかな?」
「雑な人ですね」
「知ってるでしょ?」
「知ってますけど」
そういう問題か?
知ってるからと言って雑でいい訳ではない思うけどな。
:え、なにここは
:なにって砂漠だろ
:えぇ……
:階段を降りたらそこは砂漠だった
:意味不明で草
:なにもわからん
「なにって……68階層ですけど」
「相変わらず暑いねぇ……ここは」
「今日は75まで行きたいと思ってます」
「なんでそんな中途半端なところまで?」
「公式の最高到達階層らしいので」
「でも、私は去年に80階層まで行ったよ?」
:わからん
:は?
:軽々しく最高到達階層まで行くな
:EXはちゃんとどこまで行ったか自己申告しろ
:実際、証拠もなく自己申告で何層まで行ったかとか参考にならないだろ
:だからカメラ回しているのでは?
「別に最高到達階層とかには興味ないんですけど、流石に最高到達階層が数年も更新されていないのは良くないかなと思いまして」
「へー」
:ちょっとは興味を見せろ
:EXがこんなのだから最高到達階層が更新されないのでは?
:それはそう
:常識が一切通じない配信で笑えない
最高到達階層の75層は数年前にランクSの探索者がパーティーのを組んで達成したものらしいので、俺は普通に一人で行こうかと思ってたんだけど、勝手についてきた人がいるから仕方ない。でもこれだけの視聴者ができたなら、神代さんがついてきたのもプラスに考えられるかもしれない。
「この砂漠地帯はかなり長いですからね……さっさと行きましょう」
「麒麟でいかないの?」
「嫌ですよ。折角生配信してるのに、麒麟で砂漠を突っ切るのなんて」
それなら普段となにも変わらないじゃないか。そんなものを配信したって面白くもなんともないでしょ。
「へー」
「そういう細かいところが察せないから、いつまで経ってもダンジョンの破壊者なんですよ」
「関係なくない?」
:如月君の口が普段より悪いの草
:よっぽどなんやろなぁ……
:自由人とは前から言ってたからな
:見た感じそんな人やろ
「あ、サンドフィッシュいるよ」
「……こっちに来てますね」
サンドフィッシュなんて名前がつけられているが、単純に砂を泳ぐ魚の群れだ。ただし、一匹の大きさが人間と同じぐらいなので、普通に脅威になり得るモンスターである。なにより厄介なのは、サンドフィッシュは必ず群れで移動しているモンスターで、数は少ない時には50くらいで、多い時には……100を余裕で超える。
「ざっと何匹くらい?」
「さぁ? 見た感じは150って所じゃないですか?」
「そっかぁ……」
:そっかで済ませるな
:150はとんでもない数では?
:地獄じゃないか(憤慨)
:そりゃあ深層だからな
:砂漠怖すぎ
:普通にやばくないの?
「じゃあ消し飛ばすね」
笑顔でそれだけ言った神代さんは、普段通りに周囲のことなど全く考えもせずに膨大な魔力を使って巨大な魔法陣を眼前に展開する。この人は、誰にも扱えないような難しい魔法を得意としていて、その威力は……俺が放つ魔法とは比べものにならない。
雑に放たれた魔法は、数十メートルの砂丘ごと泳いでいたサンドフィッシュの群れを消し飛ばし、周囲にとんでもない量の砂埃を立ち上げた。この威力なら、討ち漏らしなんてないだろうな。
:EXだもんな
:仕方ない
:うん
:もうなにもわからない
:これがEXかぁ
:如月君がおかしいだけだと思いたかった
:そんなことなかった
:怪物はやっぱり怪物と仲がいいんやなって
:類は友を呼ぶ
コメント欄の意見を見ると、まるで俺も神代さんの同類のような扱いをされているのが気に入らない。俺の魔法はまだかわいい方だって、これを見てわかれ。
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