第45話
『でもさ、UNKNOWNの正体は誰だ! ってみんなでやってたけど……まさか高校生とは思わなかったよね』
:まぁね
:一部では言われてたけど、ありえないって否定されてた
:出てきたのが1年前だから高校生じゃないかみたいな話はあったな
:実際に高校生だとは思わなかった
:才能って、あるんだな
:あの若さで国を背負っているも同然か
『大変だと思うんだよねー……いや、神代ちゃんみたいにふらふらと遊びまくってるEXもいるんだけどさ』
:あれはしゃーない
:自由人だから
:EXの自覚がないから仕方ない
:この間、またメジャーの写真張ってたな
:野球好きだよな
神代璃音……SNSをちゃんとフォローしとこうかな。知らない仲ではないし、殴り合いで仲良くなった奇特な関係だけど、たまに向こうから連絡来るぐらいには親しいから。
それにしても、バーチャル配信者の雑談ってこんな感じなんだな。もっとアイドルのコンサートみたいにコメント欄も盛り上がってるのかと思ったけど、これは鳥桃佐々見さんがこういう配信スタイルなのか、それともバーチャル配信者はみんなこんなもんなのか……アイドル売りしてる配信者とかは雑談枠しないのかな。
『如月君の配信とか見てるとさ、私も久しぶりに探索者目指したいなーとか思うんだよね!』
:わかる
:かっこいいからね
:憧れる気持ちはある
:男なら最強を目指せ
:俺も探索者になりてぇとか思った
:かっこいいよな
:主人公みたいだもん
『それで、久しぶりに魔力量の検査してみたらさ……昔と違ってちょっと上がってたんだよ! やっぱり日々のトレーニングって大事なんだなって』
:筋肉と一緒だからね
:毎日トレーニングしないと変わらないから
:だから探索者は魔力が多くなっていくんだよな
:トレーニング配信しよう
:そのうち探索者になる?
『どうだろう? 配信とか忙しいしなぁ』
鳥桃佐々見さんが何歳か知らないけど、魔力量が目に見えて増えるほど継続的なトレーニングをしていることに驚きだ。コメント欄は特に言及してないが、ダンジョンで無茶な修行をせずに地上で魔力量を上げようと思ったら、それこそフルマラソンをするような感覚で毎日トレーニングを積み重ねないといけないはずだ。それだけ、彼女のダンジョンに対する情熱がすごいのだろう。
「ぐるぅ……」
「……ん? あ、悪い」
すっかり配信の方に意識を集中していたら、雷獣がゆっくりとこちらに戻って来ていた。そう言えば、一応は八王子ダンジョンで魔力異常の対処に当たってたんだったな。
雷獣は戻ってきたけど、まだモンスターは全て片付いていないっぽいな。想像以上に数が多かったのか、それとも単純にそれほど時間が経っていないのか。まぁ後者だろうな。
「俺も少し、頑張るかな」
式神に全部任せてしまってもよかったんだけど、配信であんな風に憧憬の念を見せられてしまうと、自分ももっと頑張らないといけないと思えてきた。ああいった配信でダンジョン探索者が将来的に増えていくと、いいのになと思う。
「お、お疲れ様です」
「全て片付けておきました。これで大丈夫なはずです」
俺も参戦することでモンスターの掃討はすぐに終わった。元々、八王子ダンジョンのモンスターはそれほど強くないし、更に今回は下層でもなく中層だったので苦戦する要素がそもそも存在しなかった。
今の俺の頭にあるのは、さっきの鳥桃佐々見さんの配信と今後の俺の活動方針だけ。起業の準備は今の内から進めておいた方がいいだろうな。学校も夏休みだし、8月が終わって9月になったら急に進路希望調査がどうとか言い始めるぐらいだろう。あれ、社長とか書いていいのかな。
「つーくん! 久しぶり!」
「……」
なんで、この人が八王子ダンジョンにいるんだよ。
考え事しながら歩いていた俺が悪いのかもしれないが、突然現れた茶髪の女に抱きつかれて自分でも顔が強張ったのが理解できた。
「つーくんはやめてくださいって言いましたよね?」
「えー? でもつーくんはつーくんじゃん?」
司からとってつーくんらしい。俺も勝手に婆ちゃん呼びしたりしてるけど、自分がつーくん呼びされるとなんとなく、知らない渾名で呼ばれる気分がわかる。
「なんで、日本にいるんですか? 神代璃音さん」
「えー? アメリカに飽きたから!」
叩いていいか?
八王子ダンジョンの入口で騒ぐのもどうかと思ったので、そのまま一緒に電車で渋谷まで移動した、のだが……道中でも神代さんは相も変わらず五月蠅かった。やれ、彼女はできたのか、ダンジョン配信始めたって本当なの、SNSフォローしてくれたよねありがとう、高校生のうちに恋愛しておかないと大人になって恋愛できなくなるよ……とりあえずありとあらゆるムカつくことを言われた気がする。
しかも、俺も最近は顔が知られるようになったし、神代さんなんて俺なんかより遥かに有名なんだから……そんな奴が電車に乗ってたらどうなるかはすぐにわかる。
「あれ、神代璃音だよね?」
「横にいるのは?」
「如月司だよ! EXのUNKNOWN!」
「じゃあEXが2人!?」
「嘘やばくない?」
「俺、サイン貰ってこようかな」
「俺も」
「私も」
「握手してもらいたいな」
「おー……いつの間にかつーくんも有名人だね! 握手もサインもオッケーだよね?」
「……アイドルじゃないんですから。そんなものは絶対しませんからね」
「えー? 相変わらず真面目だなぁ」
「貴女が不真面目すぎるだけです」
「……だらしない姉とできる弟だ」
「どうみても姉弟だ」
「姉に振り回される弟だ」
誰が弟だ。聞こえないふりしてるけど全部聞こえてるからな。俺はこんな面倒くさいが限界突破した女の弟になるなんて、死んでもごめんだからな。
「ね! 朝川ちゃんってつーくんの彼女?」
「違います。友達です」
「友達! つーくんにも友達できたんだ!」
「しばきますよ?」
「嬉しいよ……私は嬉しい!」
う、うぜぇ……多分鬱陶しい姉って言われる存在はこういう人なんだろうな。
「んふふ……それで、最近なにかあった?」
「……人手不足すぎて疲れてるだけです」
「そっか。いつも通りだね……日本政府もなんで対策しないかなぁ」
「簡単にできたら苦労しませんよ。そもそもダンジョン探索者なんて命かけなきゃいけない仕事を、国がやってくださいとは言えないでしょう」
「戦争で死んで来てくださいは言えたのにね」
「時代が違います」
ダンジョンのせいもあって、ここ100年ぐらいは世界の戦争なんて小さな紛争ぐらいなもんだ。まぁ、探索者という存在が国のパワーバランスを崩したからってのがあるのかもしれないが。だからこそのWDAOなんだけども。
「高校生のつーくんがそんなに頑張ってるなら、私もお姉さんとして頑張らないとな」
「貴女も大学生ですよね?」
「え? 飽きたから中退したよ?」
「……やっぱり叩いていいですか? 多少はそのポンコツが直るかもしれませんよ?」
「酷いっ!?」
酷いのはあんたの頭のできだろう。
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