第44話
モンスターの大量発生が起こって最初に確認されるのは、いつだって足が速いモンスターだ。同じ場所に全てのモンスターが一斉に生まれたら、当然ながら一番足が速い奴からやってくるだろう。だからどうという話ではないんだけども。
どうやら協会側の予想はしっかりと当たったらしく、今回のモンスター大量発生は中層のかなり下の方で起こったらしい。つまり、30層で寝ながらスマホ触っていた俺の所で止まってくれる訳だ。これで、俺が30層で寝てたのに25層で発生しましたーなんてことになったら、俺は奔走する羽目になる。非常に面倒なので、協会はもっと精度を高めるか人員を増やせ。
先頭を走って階段を昇ってきたのは複数種類の犬型のモンスター。やはり犬型は大きさに関わらずどれも動きが素早い。念のために29層へと向かう階段に『橋姫』を召喚しておいて、30層で全部を駆除しておこう。とは言え、八王子ダンジョンの舗装された一面真っ平な場所でモンスターを逃がすことはない。
「『
既に雷獣が飛び出していき、目にも止まらぬ速さでやってくるモンスターを殲滅しているが、流石に最初の犬型モンスターだけならまだしもその後ろからやってくる多くのモンスターには手数が足りないだろう。
召喚するのは最近でも神社仏閣に行けば簡単に姿を見ることができる狛犬。無角の獅子と有角の犬を一対とした守護獣である狛犬は、日本人には馴染み深い存在だと思う。まぁ、俺が召喚する狛犬は神社に飾られている可愛いサイズではなく、虎のような大きさを持っているが。
「雷獣の討ち漏らしを頼むぞ」
それだけ伝えれば、一対の狛犬は阿吽の呼吸で動き出す。
そう言えば、少し前に怖いもの見たさで自分のことを語っている掲示板を覗いたら、妖怪を大量に召喚すればそれだけで百鬼夜行ができると言われていたのを思い出した。普段、そんな数を召喚するほどにモンスターが多くないし、2、3体出して対処できないような奴を相手にするときは迷わず十二天将を召喚するので気にしてなかったけども……そういう考え方もあるのか、と思った。
「『陰摩羅鬼』『鵺』」
これで橋姫、雷獣、狛犬、陰摩羅鬼、鵺とかなりの数を呼び出してみたけど……別に魔力量には全然余裕がある。陰摩羅鬼には飛行するモンスターの相手をしてもらおう。
鵺には特になにか指示を出すこともなく、雷獣と同じ遊撃のような役割を果たしてもらおう。
モンスターの大量発生は相手がどれだけ弱くても、手数が足りない探索者にとっては地獄を見ることになるのだが……俺のように無限に手数を増やすことができる探索者にとっては、なんの苦労もなく協会の依頼を完遂することができる。なにが言いたいかと言うと……全部式神に任せてしまえば片付くので暇なのだ。
暇なので普通に携帯を見よう。絶賛配信者というものについて勉強中の俺にとって、暇な時間は全て配信を見る時間となっている。
「……これ、鳥桃佐々見さん? こんな夜中にLIVEってことは……やっぱり専業なのか」
いや、彼女ぐらい有名な企業所属の人気ライバーともなれば専業が当たり前か。まぁ、なにがあろうとも俺は暇なので普通に開いて見てしまおう。
ちなみに、魔力異常が起きた時にそれも配信しようと思っていたんだけど、式神が中層のモンスターをただ蹂躙しているだけの配信なんてなんにも面白くないのでしないことにした。写真だけ撮ってSNSに上げるのはいいかもしれないけど。
『今日は深夜の雑談枠でーす……一日お疲れ様でーす』
:もも肉きちゃ
:唐揚げ食いたくなってきた
:深夜に唐揚げはやめておけ
:太るぞ
:つまり深夜にもも肉配信を見ると太る
:Q.E.D……証明完了しちゃったね
『勝手に人の配信で太らないでくださーい』
やっぱりこういう距離感の方がいいんだろうな。
流石に人気配信者は参考になることが多い。俺も見習ってもっと多くの人に興味を持ってもらって、もっと多くの人に深層の地獄を提供してあげないと。
『それで、今日の雑談内容なにがいい?』
:如月君で
:この間のゲーム
:ゲームの新作発表会行った?
:ダンジョンの深層について一言
:今からでもダンジョン探索者目指そう
:この間、如月君がもも肉の切り抜き見てたよ
:ダンジョンでしょ
『みんなダンジョン好きだねぇ……え!? 如月君が私の切り抜き見てたって本当!?』
:マジ
:蟹食った後に見てたぞ
:蟹鍋食べてた
:蟹鍋配信の後に見てたぞ
:殆ど雑談しながらだったけどな
『蟹鍋配信はSNSに切り抜き上がってたから見たけど……その後は知らなかったなぁ。なんか有名人に認知してもらったみたいで嬉しくない?』
有名人に認知してもらう?
認知してもらうなんて言葉、子供以外に使うことあったんだ。
:如月君の配信は結構距離感近いから、認知してもらってる感あるぞ
:配信初心者だからね
:鳥桃佐々見って名前に美味そうな名前って反応だったぞ
『……否定はしない。私もマネージャーにいきなりあなたのキャラクターは鳥桃佐々見ですとか言われて、もも肉なのかささ身なのかはっきりしろって思ったから』
:わかる
:はっきりしろ
:鳥人のもも肉は美味いのか?
:どうやろ
:絶対美味い
:死にかけまくれば誰でも探索者になれるって言ってたぞ
『それ、絶対途中で死ぬからやめた方がいいよ。じゃあ今日の雑談内容はダンジョン関係ってことで……特に配信系ね』
:アサガオちゃんやろ
:アサガオちゃん一択
:如月君の方が視聴者数は多いぞ
:海外ニキ多いからな
:海外からのファンが多いぞ
『アサガオちゃんは可愛いし強いし若いしで……眩しいよねぇ。如月君はグローバリズムな人気ですごいよね……まぁ深層を配信する人なんていないから仕方ないけど』
思ったよりダンジョンについて詳しそうだな。この間の切り抜き配信を見ている感じでは、あくまでダンジョンを探索することに憧れがあるだけって感じだったけど……やっぱり諦めきれずに調べ物したりしているのだろうか。
『いやー……でもさ、深層があんな地獄だとは誰も思わなかったじゃん』
:残ってる写真は結構薄暗い洞窟みたいだったしな
:あそこまで鮮明に深層映したの多くないでしょ
:渋谷ダンジョンの深層は少なくとも始めて見た
:海外の深層の写真は教科書に載ってるけどな
:湖がいきなり火山に変わるのは笑った
『笑い事じゃないんだけど、如月君の言ってた地獄って本当だったんだなって』
:あれを見てまだ挑もうと思える根性が凄い
:見ただけで諦めるレベル
:でも如月君は強すぎるのだった
:EXなんて強いってことしかわかってなかったのに
:あんなのが他に3人いるってマジか
いやー……自分の話がリアルタイムで流れているのを見ると、少しばかり恥ずかしい気がする。俺は基本的にエゴサとかしないんだけど、こうも真正面から意見を見かけるとすごい恥ずかしい気がしてきた。
『そのうちさ、通話でもいいから雑談コラボして根掘り葉掘り聞きたくない?』
:いいと思う
:企業所属じゃないしな
:男か
:でも男じゃん
:神代璃音としよう
:男とか以前に深層の話もっと聞きたい感はある
:男とかどうでもいいからダンジョンの話聞きたい
なんか色々言われてるけど、俺は企業所属の人気バーチャル配信者とコラボなんてしたら何言われるかわからないからな。ああいう人たちって、アイドル売りしてなくても必然的に男と関わるなって思われるものだから。
ちなみに、神代璃音とコラボって言ってる奴には助言したい。あいつは話が全く通じないからやめておけ、と。
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