第43話
配信者として活動し始めて、3回目の配信を終えたのが昨日のこと。
1回目は有名配信者である朝川さんとのコラボで下層を映し、2回目の配信では殆ど誰も知らないような深層を映した。3回目は全く毛色が違うこと、ということで雑談配信をしてみたが、思ったより好評だった。
はっきりと言って、俺は数字が伸びようが伸びなかろうが、かなりどうでもよかったのだが、一度配信者として視聴者と戯れてみると案外楽しいもので……もっと多くの人と交流してみたいと思った。
「と、言う訳で……もっと配信の頻度を上げようかなと思ているんです」
「……す、好きにすればいいんじゃないかな?」
朝川さんが若干引いている気がするけど、もしかして想像以上に俺が配信に嵌まっているのを見て呆れているのだろうか。
学校は夏休みに入っているが、俺は朝川さんの師匠となっているので定期的にこうしてカフェなんかで会っている。とは言っても、まだ夏休みに入って一週間も経ってないので一回目の再会だけども。
「朝川さんは最近、やっぱり中層と下層を行ったり来たりで修行中じゃないですか」
「よ、よく知ってるね」
「普通に配信は見てますから」
一応ではあるが、朝川さんの師匠的な立場になったからにはそれなりに様子は見ておかないといけない、と思ったので朝川さんの配信はしっかりと見ている。これは俺が婆ちゃんに放任されたことの反面教師でもある。
「今日も配信するの?」
「……どうしようか迷ってます」
「でも、頻度を上げるって……」
「今日は仕事でして」
なんでも昨日からずっと魔力異常が検知されているのに、全く動きがないらしいので、EXの俺が呼びだされることになったらしい。もしかしたら、明日以降まで仕事が伸びるかもしれない。
「八王子ダンジョンまで、行ってくるんです」
「八王子かぁ……私、行ったことないかも」
「そうなんですか? そこまで危険なダンジョンじゃないので、おすすめですよ」
「司君のおすすめはなぁ……」
え、信用されてない?
渋谷ダンジョンの下層はそこまで危険じゃないからおすすめだって言ったの、もしかして根に持ってる?
「八王子ダンジョンって……どんなところなの?」
「とにかく人気がないダンジョンですね」
「……え?」
「危険性もなければ、珍しいものが資源として生み出せるわけでもないダンジョンです。年中人が少ないので、誰にも見つからないように修行するにはいい場所なんじゃないですかね?」
八王子ダンジョンなんて依頼がなきゃ行く価値もないような場所だと、俺も思ってるからな。だって本当になんもないから。モンスターの数も多くないから魔石を生産する場所としても微妙だし、本当になんの特徴もない場所だと思う。八王子に住んでいる人には申し訳ないけど、八王子ダンジョンはマジで価値がない。
「それでも最下層まで攻略した人がいないんですから、不思議ですよね」
「……それは、人が少ないからじゃないの?」
「まぁ、それもありますね」
まぁ、もっと深い所の話をすると……誰もダンジョンの攻略になんて興味がないのかもしれない。中層で手に入る魔石の値段によって簡単に生活できていくことができるから、結局はみんな前に進もうとしない。渋谷ダンジョンの深層だって、真面目に攻略しようとしているのは俺たちのようなEXや、一部のランクSの探索者だけ。A以上の探索者だって、基本的には下層や中層で満足している訳だ。
人類にとって未知のものでしかなかったはずのダンジョンが、既知のものになろうとしている。資本主義の弊害と一言で済ませれば簡単な話だけど、これはかなり面倒な事態だ。
もし……もしの話だけども、ダンジョンをこのまま攻略せずに放置し続けていたら……深層に溜まっていくであろうモンスターはどうなるのだろうか。深層のモンスターはモンスター同意の共食いで強くなっているという馬鹿げた推論が合っていて……強い奴が延々と強くなり続けたら。そのモンスターは地上に飛び出してこないと本当に保証できるのだろうか。
「はぁ……憂鬱ですね」
「きゅ、急にどうしたの?」
「なんでもないです」
今の朝川さんには、関係のない話だな。
色々とぼろくそに言ったけど、八王子ダンジョンは初心者にはお勧めできるダンジョンの一つだと思う。
「で、問題は何層ですか?」
「中層だそうですけど……詳しい場所はわかりません」
「そうですか。わかったら連絡ください……とりあえず何もなくても3日ぐらいは籠ってますから」
「は、はい……3日!?」
ダンジョンに入る人口は少なく、出現してくるモンスターの数も渋谷ダンジョンと比べて半分ぐらい。強さもそこまでじゃなく、本当に中層かどうか怪しくなるレベル。環境としても舗装されたコンクリートのような綺麗な道が敷かれ、視界を遮るようなものもあまりないシンプルさ。これを見ると、ダンジョンというのは超常的な存在が暇つぶしに作ったものなんじゃないかとすら感じる。
「『
中層の真ん中である30階層の床に、持ってきた寝袋を敷いて横になる。
召喚した式神は十二天将の1柱である勾陳。魔力の身体を持ち、実体を持たない透明な蛇である。勾陳は都の守護を担う特殊な蛇なのだが、俺が召喚する十二天将の勾陳は、結界術を得意とする非常に強力な式神。
寝袋を敷いて横になっている俺の近くに、モンスターが近づいてきても勾陳を召喚している限りは近づくことすらままならない状態になっている。勾陳には一切の攻撃能力が存在しないのだが、結界術だけでお釣りがくるぐらい強力なのでいいだろう。
今回、八王子ダンジョンで起こっているいつまでも続くような魔力異常は、別に初めてと言う訳ではない。基本的に魔力異常が起きるとなにかしらの異常事態が起きるのは確かなんだけども、それがいつ起こるのかは定かじゃないのだ。だからこうして、時間を取られることもある。
八王子ダンジョンで観測された今回の魔力異常の値は、-7だった。魔力異常の数値が高くなる場合は階層に見合わない強さのモンスターの出現だが、数値が低くなる場合の異常は……モンスターの大量発生だ。
仮説段階でしかないが、基本的にダンジョンには魔力が循環していて、その魔力が固まることで魔石を中心にモンスターが生まれるというもの。その理論で行くと、魔力値が異常に高くなるとそれだけ強力なモンスターが生まれ、魔力値が異常に低くなると、それだけ数多くのモンスターが生まれると言う訳だ。
ちなみに、循環している魔力は死んだモンスターから循環してるとか、立ち入った人間が放出する魔力を吸収してるとか言われているが定かではないらしい。まぁ、さっきの説を正しいとするなら、魔石を人間が回収して行ったらダンジョンの魔力は下がっていくはずだからな。
「……ん?」
物思いに耽っていたら、数時間もしないうちに勾陳が生み出した結界の外にそれなりの数のモンスターが集まっていた。渋谷ダンジョンならいつもの光景なんだけども、八王子ダンジョンだと珍しい光景だろう。しかし、こう八王子ダンジョンのモンスターが数が多いということは……本当に魔力異常なんだろうな。
なんて考えてたら電話がかかってきた。
『ダンジョンの魔力値が急激に低下しています!』
「……そろそろ来ますかね」
『お気をつけてください!』
魔力値が低下したってことは、どこかで大量のモンスターが生まれたと言うこと。八王子ダンジョンの中層クラスだったら100匹いようが500匹いようが対して変わらないけどな。
「『雷獣』」
ここは速度にものを言わせて圧殺するとしよう。
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