第42話

「それで、ですよ。ダンジョン配信については最近ちょっとずつ学んできたんですけど、それ以外の普通の配信者ってなにやってるんですか?」


:今ちょっと蟹の余韻味わってるから待って

:男子高校生ってめちゃ食うな

:見ただけでお腹いっぱいになったよ

:俺もそれぐらい食べるぞ。ちな36

:おはデブ

:デブもいます

:もうそんなに食べられないぞ


「蟹の話しかしないですね?」


 そんなに蟹が好きかお前ら……俺も好きだよ。


「男子高校生だから滅茶苦茶食うんじゃなくて、探索者は魔力を消費するから必然的に食う量が増えるんですよ。探索者はわかると思いますけど」


:まぁわかる

:20代になって食欲落ちたなーとか思ったけど探索者始めたら戻ったもん

:魔力ってカロリー消費するのか

:よくわかってないらしいけどそうらしい

:探索者ダイエット流行る?

:流行らない

:ダイエットできるぐらいに魔力を消費するのは中層以降だけだ


「上層でも数時間ぶっ通しで戦えば余裕で痩せられますよ」


:身体動かしてるからな!

:命の危機感じてるだけでは?

:魔力消費しなくても痩せるだろそれは


 駄目か。

 やっぱりEXの探索者としては、探索者の人口が増えて欲しいと言うのが本音なんだけど、探索者ダイエットは流行らなさそうだ。


「で、普通の配信者ってなにしてるんですか?」


:ぶれねぇなこいつ

:諦め悪いな

:知らん

:ダンジョン配信しか見ない

:バーチャル配信者とか?

:ゲームじゃない?


 バーチャル配信者……確かに今、新しく配信を始める人は基本的にはバーチャル配信の方がメリットが大きい、のか?


「バーチャル配信なんて見たことないんで見ますか」


:動画視聴配信に切り替わるの草

:作戦会議の雑談から調理、そして動画視聴ですか

:なんでもありかな?

:下層も深層もいけるぞ

:なんでもありじゃん


 視聴者の言葉は9割無視していもいい。これが2回の配信で俺が学んだことだ。この人たちは娯楽を求めて見に来てるのだから、やっぱり真面目な回答をしてくれる人と言うのは少ない。それが悪いこととは言わないけど、真剣な回答を求めるならSNSにでも告知した方がいいだろう。


「有名なバーチャル配信者とか、知ってます?」


:知らん

:見ないからなぁ

鳥桃佐々見とりももささみとか?


「……なんですかその美味そうな名前」


 鶏もも肉なのかささ身なのかはっきりしろ。


:お前さっきもっと美味い蟹食べただろ

:早く切り抜きでも見ろ

:もも肉の配信か

:もも肉結構好き


「ファン通称「もも肉」なんですか……やっぱり肉じゃないですか」


:鳥人系バーチャル配信者だぞ

:鳥だぞ


「やっぱり肉じゃないですか!」


:何度も言うな

:鳥桃佐々見、新人ダンジョン配信者に肉扱いされる

:仕方ない

:視聴者にも肉扱いされてるからな


 逆に気になってきたよ……視聴者にも肉扱いされる配信者とか。


「雑談配信の切り抜きでいいですかね」


:雑談内容もお主とは全然ちがうじゃろう

:長老!?

:誰だよ

:雑談の内容は蟹かダンジョンだっただろ

:ダンジョンの話する雑談とかそうないぞ


『私、本当にダンジョンが好きでさ! 本当は探索者になりたかったんだよねー』

「……こういう人って結構多いんですかね?」


:結構いると思うぞ

:俺もそーなの

:俺もなりたかった

:小学生男子のなりたい職業ランキング2位だぞ

:1位は?

:医者

:世知辛いな


 実際、ダンジョン探索者なんて全く人気のない職業だと俺は思っている。だってみんな上層に足を踏み入れる程度で辞めていくのだから。才能がないとか、命の危険が怖いとか色々と理由はあるだろうけど、基本的にはなる人のほうが特殊だと思う。


『でも私、そもそも魔法を使える才能が全くなくてさ、めっちゃ受けるんだけど探索者資格すら取れなかったから諦めたんだ』

「才能、ですか」


:切実

:泣いた

:この配信聞いてた時泣いた

:ちょっとしんみり


「才能なんて幾らでも努力で補える、というのは少し傲慢な言い方ですかね」


:最低限の才能がある奴のセリフやで

:まぁ、才能があると思われてる奴は基本的にその上から努力してるからな

:理解されづらいけど天才は凡人より遥かに努力してるから

:でも才能やろ

:如月君も才能ありきじゃん?


「確かに。俺の式神術は才能ありきの魔法ですから、俺は才能頼りなところありますね」


 別に取り繕う必要もない。だって俺は実際に才能があるから式神術を扱っていて、その力でEXになった訳だから、この世に才能なんてないみたいな気休めの嘘は吐けない。


:でも如月君も死にかけまくったやろ?

:天才と凡人は理解し合えないからしゃーない

:才能がないと死んじゃうような職業だしな

:でもインフラのために身を削ってくれてるからな


『でもさー、最近話題のUNKNOWNいるじゃん? あれぐらいに振り切れてると流石に憧れるよねぇ』

「……」


:お、スルーか?

:結構最近の放送じゃねーか

:まだ如月君が配信始める前ね

:実際どうやったら強くなれる?


「俺は高校1年の時から暇があればひたすらにダンジョン潜ってましたよ……友達いなかったので」


:あ

:あ

:俺たち

:同類じゃん

:親近感湧いて来たぞ

:クラスの端っこで本読んでる?


「読んでて何が悪いんですか? どうせ俺は陰キャコミュ障ぼっちですよ」


:俺たちの希望の星じゃん

:俺たちでもEXになれるのか

:ちょっと生きる希望湧いてきた

:俺たち

:でも俺たちより顔がいいぞ

:やっぱり俺たちじゃない

:裏切ったな


「勝手に仲間認定して勝手に裏切った扱いしないでもらえますか?」


 俺の顔は標準クラスだ。別に良くも悪くもないぞ……俺が自分の容姿で唯一自慢できる部分だ。筋肉は言うほどムキムキじゃないからな。


:身長幾つ?

:探索者だから身体引き締まってるしなぁ

:やっぱり俺たちじゃない

:アサガオちゃんとかいう美人な友達いるから俺たちじゃない

:クソ

:やっぱり世の中金か

:名誉俺たちってことで


「身長は170……1、だったか2ぐらいでしたね」


:普通

:平均

:170ない俺のこと馬鹿にしてるんか?

:お? 158のワイ低めの見物するぞ?

:身長コンプわらわらで草


「いや、知りませんよ。そもそも高校生になってから殆ど伸びてないですし」


:中学で170とか英雄じゃん

:そうでもないだろ

:そうか?


 なんの配信だっけ……いや、俺は普通に鳥桃佐々見さんの配信見てるんだけど、コメント欄はもはや興味なさそうなんだよな。いや、俺のことを注目してくれるのは嬉しいけど、専門の配信者の動画流してるんだからそっち見てやってよ。


 結局、その後も幾つかの配信切り抜きを見ながら色々と雑談してから、そのまま配信が終わった。配信を始めた当初にしようとしていた作戦会議は全くできなかったけど、視聴者との距離感は上手く掴めるようになってきたのでいい傾向だと思う。

 名誉俺たちとかいう、超絶不名誉な称号を与えられた気がしたけど、視聴者と仲良くなれたと思えば、まぁ……いいか。陰キャコミュ障あるある雑談でもすれば、それなりに共感してもらえそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る