第25話

「巻き込んでごめんさい」

「いいんだよ……私のせいでもあるんだし」


 警察に色々と事情聴取とかされたけど、配信もあったので簡単に解放された。本当なら朝川さんを鍛えてあげようと思っていたんだけども、今からやっているので流石に夜も遅くなってしまいそうなので後日、ということになった。

 イケメン君……栗原君に絡まれた最初の原因は朝川さんかもしれないけど、その後の度重なる呼び出しの無視が一番の原因だと思うから、普通にいかなかった俺が悪いと思う。一度目は朝川さんに呼び出されて二度目はダンジョンの異常事態だったから仕方ない、では片付けたくない。


「その……配信とか、大丈夫だったの?」

「え? あー……もうバレてるからいいんじゃないですか?」


 この間の朝川さんの配信に数回、そして今回のイケメン君取り巻きがやっていた配信でもう制服も顔も名前も全部バレてしまっただろうけど、別に問題ないと思う。そもそも、素性を隠して有名探索者をやっている奴なんて俺ぐらいだろうから。


「でも、配信で顔と名前出してできるようになった訳ですから、いいことでもあるのかもしれませんよ」

「前向きだね」

「前向きに考えないと、一々落ち込んでられませんから」


 後ろ向きに考えていたって別になんの解決にもならないし、そうやってうじうじとした考え方をするのは探索者になった日に辞めると決めたんだ。良くも悪くも、俺は探索者になってただの陰キャぼっちから変わってしまったから。


「じゃあ、明日また司君の配信練習と、私を鍛えるのしよっか!」

「……急な仕事が来なければ、ですよ」

「わかってるよ!」


 なんか……色々と面倒なことに巻き込まれたなと思ったけど、なんだかんだと言って朝川さんと知り合って、友達になってからダンジョン探索が楽しい気がする。面倒なことも多いけどね。


 約束通り、問題ごとがあった翌日の放課後に俺の配信練習と、朝川さんの修行をすることになった。放課後と言っているが、俺は久しぶりに朝から任務があって『甲府ダンジョン』の方に行き、さっさと解決したその帰りに渋谷ダンジョンにやってきたので、俺にとっては放課後ではない。

 現在は簡単に配信の練習をするということで、上層でカメラの設定とかをしている。


「結構高いの買ったね」

「知り合いのEXの人に、記録用に使っている高いカメラがいいからっておすすめしてもらったんです」

「へ、へぇー……EXは司君含めて4人しかいないんだから、知り合いのEXの人は3択クイズだよね」


 確かに。いや、別にクイズをしている訳じゃないけど……誤魔化しても意味ないよってことかな。

 配信者をやっているだけあって、見ただけでカメラが高いかどうかまでわかるのかー……俺はあんまり違いがわからなかったから、お店の人に値段は気にしないのでダンジョンで使えるカメラをって言ったら驚いた顔された。カードで一括払いしたら更に目が点になってたけど。


「まぁいいや……司君の戦闘スタイルは式神を使っての後方支援、だよね?」

「下層以降は結構自分も戦ったりします。考えるより動いた方が速い場合もありますから」

「そうなんだ……じゃあ、私と同じで完全に追従するんじゃなくて、ある程度の距離から俯瞰的に撮る方がいいかな」


 追従性能がどれくらいかわからないけど、仮にだけど音速で動いてついて来てくれるとは思えないし、万が一についてきたとしても、多分見れるような映像になっていないだろうからね。


「よし、とりあえずはこれでおっけー。後はネットの方で設定をすれば……これで始まったかな?」

「え、人が見れるんですか?」

「ううん。まだ限定公開だから、私と司君しか見れないよ」


 そ、そうなんだ……そういうのもあるのか。

 マジで初心者だから、朝川さんが説明してくれていることも半分ぐらいしか理解できてないけど、ちゃんと覚えて行かないとな。


「取り敢えずいつも通りに戦って見て!」

「あ、はい。『火車』」


 いつも通りと言っても、上層のモンスター相手なんて式神を召喚したら瞬殺だから、俺がそのまま戦おう。火車を召喚して、車から刀を取り出す。今日は使わないと思って火車の中にしまっておいたんだ。


「ゴブリンだね」


 朝川さんの言う通り、通路の先に10体のゴブリンがいた。最上層に出てくる黒色で鉈を持っているゴブリンと違い、赤黒い肌にそれぞれ刀剣や槍などを持っている。ゴブリンの上位種、とでも言えばいいのか。名前は普通にゴブリン(赤)みたいな適当な感じだった気がするけど、探索者の間ではゲーム的にホブゴブリンなんて呼ばれている。


「ギッ!」

「ふぅ……」


 先頭のホブゴブリンがこちらに気が付いたが、これくらいの距離なら余裕で射程圏内。向こうが戦闘態勢を整える前に一振りで3体の首を飛ばし、その勢いのまま集団の中心で一周するように刀を振れば残り7体の上半身と下半身がおさらばする。


「どうですか?」

「……もうちょっと離して俯瞰した方が、いいかな?」


 カメラの調整をしているはずの朝川さんが、手に持っている携帯から顔を上げて苦笑いを浮かべていた。離した方がいいってことは、上手く映ってなかったんだな。まぁ、自分のアーカイブだから後で見返しておこう。


「ホブゴブリンとは言え1秒かぁ……」

「慣れれば簡単ですよ。動きも鈍いですし……朝川さんは槍でしたね」


 槍なら余計にホブゴブリンとの戦闘なんて簡単だろう。それに、朝川さんなんて10個の魔法展開だって余裕なんだから、自動追尾弾でも放てば一瞬だと思う。


「後は細かい調整だけですから、中層に行きましょうか」

「う、うん。さっきの司君を見てると、修行ってどんなことをするのか怖くなってきたよ」

「はい? 大丈夫ですよ……みんな通る道ですから」

「全然安心できないよ!」


 はははは。下層に行こうと思ったら、それ相応の覚悟と準備が必要だから仕方ない。朝川さんが持っている致命的とも言える弱点は配信のアーカイブを暇な時間に見て把握しているので、修行プランもしっかりと考えてあるのだ。同い年だけど、言ってしまえば朝川さんは俺の弟子になる訳だからね。


「とりあえず、現状でどこまでできるのかしっかりと把握しておきたいので、まずはワイバーンですね」

「え」

「ワイバーンと一対一で戦って見ましょうか」


 中層最強と名高いワイバーンなら、朝川さんなら万が一があっても死ぬことはないだろう。だってフロストワイバーンに勝てるんだから。

 なんだか朝川さんが固まったけど、嬉しかったのかな。

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