第24話

 なぜ、こんなことになっているのか。俺にはさっぱり理解することができません。


「殺す」


 俺の目の前には殺気ビンビンのイケメン君で、俺が立っている場所は渋谷ダンジョンの上層。授業が始まる前に殺害予告をされたけど、結局なにもしてこなかったので口だけかなとか思いながら、朝川さんと約束通りダンジョンに潜ったら待ち伏せされてた。


 探索者は基本的にダンジョン外で魔法を使うことが禁止されているし、普通に傷害罪とか殺人未遂とかになる。だからってダンジョン内で故意に人を殺そうとしたら、当然ながら罪になるんだけど……こんなダンジョン内に監視カメラなんてものもある訳がなく、ド派手な魔法で殺そうものならモンスターの被害と見分けがつきにくいので、実際は殺人に使われたりしているなんて言われている。とは言え、ダンジョンに入る時には全員が探索者カードを提示して出入りの記録は取られているので、個人的な恨みがあった人物とかは結構簡単に逮捕されてるらしいから、多分殺人に使われてるとかは嘘だと思う。


「逃げて通報でもした方がいいんじゃ」

「そう、ですね。さっさと通報しておきます」


 そんな世の中だけど、ダンジョン内に入ることができる探索者専用の警察もいる。探索者資格を持ち、ある程度以上の実力を持った人が警察組織にいて、その人たちがダンジョン内の通報案件に対してやって来てくれる訳だ。


「えーっと……ダンジョン通報って何番でしたっけ?」

「……220じゃなかったっけ?」

「ぶっ殺す!」


 うわ、電話かけようと思ったら急に走って殴りかかってきた。

 気が付いてなかったけど、イケメン君の取り巻きの女子2人と男子2人が周りにいた。こんなことやってるのが知られたら普通に退学どころか逮捕される可能性だってあるのに、なんでイケメン君の味方をしているんだろうか。

 とりあえず朝川さんを下がらせて、イケメン君の拳を受け止めて腕を捻り上げる。


「ぐぁっ!?」

「落ち着いてください栗……原君」

「ぶ、ぶっ殺してやる」

「ごめんなさい!」


 今度は間違えてないよ!

 もう片方の腕をぶんぶんと振り回しているので、そっちの腕も抑えてダンジョンの地面に組み伏せると、顔を真っ赤にして怒っているイケメン君の顔が見えた。


「死ね!」


 バチバチと音を鳴らしながらイケメン君の手から雷が出てきたので、手を放して距離を取る。殴りかかってきたりするぐらいならまだ遊びで済むんだけども、魔法を使ってきたとなるともう事件だ。相応の対応はさせてもらおう。

 なんかニヤニヤと笑いながら魔法を発動させて身体をバチバチと帯電させているけど、もしかしてあれで身体能力が上がったりするのだろうか。


「お前みたいな奴がいなきゃ! 俺が! 学校の、トップだったんだ!」

「探索者の実力は、学校のトップには関係ないですよ」

「黙れ!」


 おぉ怖い。確かに、身体をバチバチさせて少し速くなったように見えるけど、元々生まれつき魔力のせいで身体能力以上に動体視力が高い俺には、遅く見えるぐらい。自慢だけど、魔力も使えば音速ぐらいなら目で見切れるからな。それに、これくらいの速度だったら婆ちゃんの方が圧倒的に速い。

 無造作に繰り出された拳を避けて、骨を折らないように気を付けながら脇腹に掌底を叩き込む。弾かれたように壁に向かって吹き飛んでいったけど、これくらいなら骨にひびも入ってないだろう。


「ぐぇっ……な、なんで」

「なにが?」

「お、お前……道具頼りの、カスだって……」


 いや、それどこ情報よ。でも、一発殴られたぐらいで、力量差がきっちりと理解できるぐらいの危機感はちゃんとあったみたいで安心した。流石にランクがCともなると、それぐらいは理解できるか。

 ちなみに、式神術は確かに強力で使い勝手がいいけど、俺は自分の肉体を使って戦う方が得意だ。もっと言えば、召喚した式神と共に戦うのが得意で、後方でずっと見てるのはあんまり好きじゃない。


「なにしてんだよ俊介!」

「……それ、動画撮ってるんですか?」

「い、いや、これは……」


 イケメン君の取り巻き男子の片方が携帯をこっちに向けたまま叫んできたので、なにか撮ってるのかと思ったけど、反応からして……多分リアルタイムで配信かな?

 配信だとすると、ちょっと面倒だな……だって俺はランクEXだから、下手に問題ごとは起こしたくない。それに、弱い者いじめしてると思われたら嫌だし。


「ひっ!?」


 取り巻きからイケメン君へと視線の向きを変更したら、さっきより大分離れた場所まで逃げてたし、視線が向いただけで怯えられてしまった。いや、絡んできたのは君だろ。


「ふ、ふざけんな……こ、こんなこと認めない……絶対に認めない!」

「彼我の差は理解できたのでは?」


 理解できてなお、立ち向かおうとするのだろうか。これ以上やると、本当に骨を数本ぐらい折ってしまいそうだから嫌なんだけど。


「ねぇ、司君」

「なんですか?」

「拘束したりとか、できないの?」


 拘束……魔法とか式神でってことだろうか。


「俺、相手を殺すのは得意ですけど、生け捕りみたいなのは滅茶苦茶苦手なので、そういう細かい作業は無理です」

「……私がやるね」

「ごめんなさい」


 本当にごめんなさい。人との関りが薄かったから、本当にそういうの慣れてないんです。そもそも、モンスターを生け捕りにする理由なんてないし、拘束するぐらいなら式神と一緒に戦った方が楽だしで、そういう時間稼ぎみたいな魔法は使えない。やろうと思えばできるだろうけど、一から勉強しないと駄目だ。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 イケメン君の身体から出ているバチバチが眩しくなったと思ったら、いきなりこちらに向かって走ってきた。さっきより更に速くなったけど、こっちも魔力で身体能力を強化させれば余裕で追い付けるレベル。

 足払いをしてから首を掴んでダンジョンの壁に向かって放り投げれば、潰れたカエルのような声を口から零しながら壁にめり込んでしまった。


「……手がちょっとピリピリする」

「雷にそのまま触れたらそうなると思うよ?」

「服は絶縁体だから大丈夫」


 首に触ってわかったけど、イケメン君のバチバチは自身の魔力を雷に変換してるっぽい。雷で強制的に身体能力を上げているのかな……だからちょっと速くなったのか。

 ダンジョンに潜る際にいつも着ている服は、他の探索者たちみたいな重々しい鎧じゃないけど、深層のモンスターから手に入れた皮を使っているので絶縁体で耐火性もあって俺自身は大丈夫だけど……あれだけの発電をしたイケメン君は結構大変だと思う。


「……それで、いつまで撮ってるんですか?」

「ひっ!?」

「『橋姫』」


 少し睨みつけたら逃げようとしたので、橋姫を召喚して通路を塞いでやれば、その場で座り込んでしまった。後は……警察が来るまで待てばいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る