第23話

「いやぁ、助かったよ」


 正直、かなり面倒な仕事をやらされたなとは思っている。初めてできた友達を助ける為に奔走するのは別にいいのだが、なんとなく今は支部長ののほほんとした態度が気に食わない。普通に殴りたい。


「それにしても、魔力異常+9だとあんなモンスターが出てくるんだね」

「今まで知らなかったんですか?」

「知らなかったとも。依頼に出ていく君たちが厄介なのと戦っているのはわかっていたけど、そんなモンスターを映像で捉えたことはない」


 なるほど。ダンジョン配信はそういうものを映すことには使えるか……別にそれは俺が取り組む必要性がある訳じゃないけども。


「今、協会のホームページに「EX・UNKNOWNが解決しました」と書いたところさ。けど、これを書くと……本当に協会が如月司がUNKNOWNであることを認めることになるんだけどね」

「別にいいです」


 自分から個人情報を登録するつもりなんて全くないけど、周囲に自分がランクEXの探索者であることがバレるのは別に問題ではない。聞き覚えの無い親戚は増えるかもしれないけど、それだって相手にする必要もない。


「そうか……とりあえず、ご苦労様だったね。金はいつも通りの口座に振り込んでおくよ」

「はぁ……ありがとうございます」

「君の可愛い彼女ちゃんが入り口で待っていたよ」

「友達です」


 なんて失礼なこと言うんだ。朝川さんだって付き合う人は自分で選べる。

 誰に言う訳でもない愚痴を心の中で呟きながら歩いていると、壁に寄り掛かりながら携帯を見てなんとなく顔を青褪めている朝川さんが見えた。


「どうしたんですか?」

「つ、司君……私のせいで、皆にバレちゃったよ!」


 彼女が見せてきた携帯の画面には、SNSのトレンド1位にUNKNOWNの名前が堂々と載っていた。更にキサラギツカサという名前や、配信者アサガオの名前が載り、世間的に大きな話題になっているようだ。


「友達からもすごいメッセージが何件も来るし……学校の人たちにもバレちゃったんだ……どうしよう」

「大丈夫ですよ。元々先生は知ってますから」

「そういう問題なの!?」


 いや、クラスメイトにバレたところで俺の日常は変わりはしない。別に、今までクラスの端っこで陰キャやってた人間が、実はとんでもない力を持っていたからって急にモテるようになる訳でもないし、俺のコミュ障が急に直ってくれる訳でもないんだから今までとなにも変わりはしないだろう。


 そう思っている時期が俺にもありました。


「ねぇ、あれが……」

「EXだったんでしょ?」

「学校休みがちだったりしたのは、やっぱり事情があったからなんだ」

「あんだけ休んだら普通は留年してるもんね」


 すっごい噂されてる!

 いや、自分の近くに話題の人間がいたら噂にするのは当たり前なんだけど。


「如月君おはよ!」

「おはよう、今日も学校来たんだ」

「俺はお前と友達だよな!?」

「あ、あはは……」


 なんか友達が男女関係なく何人か増殖しました。何人かの目にはお金のマークが浮かんでいたような気もするのんですけど、多分あれは急に湧いて来るめっちゃ遠縁の親戚と同レベルですね、間違いない。

 今日はまだ朝川さんが登校してきていないので、俺はクラスの端っこで針の筵のように全員から視線を向けられていた。


「前からちょっとかっこいいと思ってたんだよね」

「良い人だと思ってたよ?」

「顔かっこいいよね」


 陰キャの聞き耳能力舐めるなよ、全部聞こえてるからな。そしてつい昨日まで気持ち悪いとか言ってたのも知ってるからな!


「おはよう、司君」

「おはようございます……」

「た、大変だね」


 ようやく現れた俺の救世主……朝川さんは苦笑いを浮かべながら話しかけてきてくれた。朝川さんがやってきたことで視線の半分ぐらいは朝川さんに向けられることになったので、俺の負担も少しは軽くなった。なんでこういう時だけ任務が来て学校休みとかにならないのか、とか1人で考えてたけど、やっぱり朝川さんは優しい……この世の良心全てつぎ込んだのか?


「おはよう七海!」

「お、おはよう!」

「昨日は大丈夫だった? 配信見てたけど、心配したんだからね?」

「ありがとう。でも……助けてもらったから大丈夫だよ」


 朝川さんの友達らしき女子がやってきて軽く話している。でも、そのお友達さんも朝川さんと話しながら俺の方をチラチラと見ている。陰キャは自意識過剰だが、自分に向けられる視線には特に敏感なので絶対に気のせいではない。


「ね、ねぇ」

「……なんですか?」


 なに見てんだよとか心の中だけで思ってたら、普通に喋りかけてきた。


「私も探索者の資格持ってるんだけど、頑張れるかな?」

「……ど、どうでしょうか?」


 それは……俺に聞いても意味がないのでは?

 頑張ると言うのがなにを指すのか俺には理解できないが、個人的な考えとしては資格を取れた人間なら努力すれば誰もが普通に下層ぐらいまでなら行けると思うけど、彼女が求めているのはそんな答えじゃないと思う。


「ちょっと朱里、司君が困ってるじゃん」

「いいじゃないちょっとくらい。私、野々原朱里ののはらあかりって言うの、よろしくね」

「ヨロシク、オネガイシマス」

「んふ……カタコト」


 ちょっと、朝川さんは笑ってないで助けてくれ。


「ちなみに、前からかっこいいと思ってたとか言ってる人は無視した方がいいと思うよ?」

「それはわかってます」

「そっか。思ったより面白そうな人だね、如月君」


 野々原さんの貴重な忠告はありがたく頂いておこう。俺も、そんなことを言ってくる人が地雷だって言うのはわかっている。陰キャオタク舐めるなよ……人に好意を向けられるのに弱くて、好きな人は自分のことを好きになってくれる人とか思ってるのに、向けられる好意には裏があると考えるような悲しい生き物なんだからな。

 真顔で即答したら、野々原さんと朝川さんの両方に笑われてしまった。


「おい」


 巻き込まれるような形で会話していたら、急に机を蹴って大きな音を出しながらイケメン君が近づいてきた。


「調子に乗るなって言ったよな!」


 また机蹴った。学校の備品をそんな風に扱うの、良くないと思います。イケメン君は探索者なんだから、手加減しないと机も粉々にしちゃうので、そういうの駄目だと思います。


「今日、ぶっ殺してやる」


 え、なんか殺害予告されたんですけど……通報した方がいいですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る