第26話

「うーん、やっぱりですね」

「そ、そうかな……そう、だね」


 朝川さんはランクがCになったばかりということで、中層最強であるワイバーンと一対一で戦えるだけの力を持っていると協会に判断された訳だ。だからそのワイバーンと戦わせてみたんだけど、結構危ない場面が幾つかあった。結果的に見ればワイバーンを単独で倒せるだけの実力を持っているので、ランクCには見合っているとは思うけど……少し火力不足だと思う。


「配信を見ていた時からわかってましたけど、数が多い代わりに一発の威力が低いですね」

「それ、探索者になった時からずっと言われてる」


 やっぱり、指摘する人はいたんだな。

 朝川さんは俺では考えられないほどの数の魔法を、多重で発動することができる才能を持っているけど、その放つ魔法の威力が低い。威力が低いとどうしても数で補う必要が出てくるのだが、そうすると魔力の消費が激しく長期戦ができない。ダンジョン探索において、長期戦ができないのは致命的だ。


「まずは、自分の魔力量を増やすことですね」

「……魔力量ってそこまで増やせるの?」

「できますよ」


 世間的には殆どできないなんて言われているけど、実は魔力量は後天的に増やすことが可能である。ダンジョンに潜れない適正外の人間も、修行すれば潜れるようになるんじゃないかな。


「その、魔力修行ってキツイよね?」

「かなりキツイですね。でも配信しながらやってみたらどうですか?」

「え、魔力修行の配信は地味じゃない?」

「え?」


 魔力修行って地味じゃなくない?


「ちょっと待ってね。司君の言ってる魔力修行って……身体の魔力を常日頃から放出しながら運動することだよね?」

「それ、あんまり意味ないですよ」

「えぇ!?」


 なんかネットとかによくそうやって書いてあるけど、その修行法で増える魔力なんて微々たるものだ。効果を実感できた人なんていないんじゃないかな。そもそも、魔力は筋肉とは違うんだから、そんな簡単に超回復みたいに成長しない。


「つまり、司君は効果がある修行方法を知ってるの!?」

「はい、というか昔は結構日常的にやってましたね」

「教えて!」

「はい」


 いや、それを教えるために一緒にダンジョンにいるんですから。


「方法は簡単です。死線をくぐり抜けること」

「……え?」

「死にかけながら格上と戦い続けることですよ」

「戦闘民族?」


 失礼な。上位の探索者は皆、そうやって強くなってきたんだよ。下層、深層なんてのは地獄みたいな場所だから死にかけるのが当たり前で、それでも挑み続けるから皆強くなっていく訳で。

 ちなみに探索者の上澄みとそれ以外の実力格差がかなりあるのは、才能ではなく死線の数が段違いだからだと俺は思っている。だって強い奴は更に死線を求めて下に潜っていくのに、弱い奴は死ぬのを恐れて上に留まる訳だから。


「ある程度、人間としての枷を破壊しないと下層以降なんて無理ですよ」

「……自分がどういう場所に行こうとしてるのかは、なんとなくわかっちゃった」

「大丈夫です。俺もついてますから!」


 レベル上げするには自分より上の相手をする方が効率がいいのと同じ。ゲーム脳万歳。


「じゃあ、俺が配信しながら朝川さんは修行ということで!」


 手始めに、朝川さんの実力から考えて適正なのは下層のモンスターだろうな。いざとなったらすぐに助けられるように、召喚した雷獣を待機させながら修行を続けよう。なんとなく、朝川さんの笑顔が引き攣っているけど気にしないことにした。




 学校で昨日の非公開配信のアーカイブを眺めていると、数人が俺の席の近くにやってきた。当然と言えば当然だけど、俺には全く見覚えのない女子たちなんだけども、なにか用だろうか。


「一昨日、大丈夫だった?」

「一昨日……あ、栗原君のことですか?」

「そうそう。一昨日の配信、ネット上ですごい拡散されてるよ?」

「本当ですか?」


 それは初めて聞いた。配信されているなとは思ったけど、精々がクラスのグループに流されているぐらいだと思ったんだけど……まさかネットに拡散されているとは思わなかった。いや、多分グループに拡散しても誰かがネットに流しただろうけど。


「でも、やっぱり強いんだね!」

「如月君かっこよかったよ!」

「あー……ありがとうございます?」


 急にどうしたんだろうか。今まで俺のことなんて名前も知らなかったであろう人たちが、急に話しかけてきたらびっくりするんだけど。


「おはよう司君!」

「おはようございます朝川さん」

「あ、七海おはよう!」


 朝川さんがやってきてすぐに俺に挨拶してくれたら、横から野々原さんがすっ飛んできた。朝川さんは俺の周囲にいる女子生徒たちに気が付いて、こちらに視線を向けて首を傾げているが、俺も首を傾げたい気分だ。


「栗原君に酷いことされそうになってたでしょ?」

「前からなんとなく好きじゃなかったんだよねー栗原君」


 おーおー、好き勝手に言ってるな。ついこの間まで栗原君のことイケメンとか言って騒いでたのに。

 話題の栗原君だけど、どうやら学校には昨日から来ていないらしい。まぁ、俺も昨日は甲府の方まで行っていたから栗原君がなんで休みとか全く知らないけど、多分一昨日のことだろうな。


「ね、クラスのグループ入ってる?」

「入ってない、ですね」

「入れてあげるよ! だから連絡先交換しよう?」

「あ、はい」


 急にグイグイと来るな。これが、婆ちゃんの言っていた探索者になったらモテるってやつか。今まで2年間嘘だとずっと思ってたけど、本当だったんだな……嘘吐き呼ばわりしてごめんよ婆ちゃん。

 1人と連絡先を交換したら男女関係なく次々に連絡先が増えていく。今まで個人の携帯にある連絡先なんてダンジョンの関係者だけだったのに、クラスメイトがこんなに増えるなんて思わなかった。


「あ、それ昨日の?」

「そうです。こう見ると、しっかりとしたカメラを買って良かったです」


 朝川さんが俺の携帯を覗き込むために接近してきたので、少しだけドキッとした。黒い艶のある髪を耳にかける仕草がすごい、大人っぽく見えた。


「んふふ……私が綺麗に映ってるよ?」

「そ、そうですね」


 そりゃあ、昨日は朝川さんの修行の為にダンジョンに行ったのが半分だから、綺麗に映ってないと困るだろう。


「これで、司君は私の配信のお手伝いも、配信者としてもいつでもコラボできるね」

「お、お手柔らかに」


 なんだか朝川さんの目が笑っていなかった気がするんだけど、なんでですか。

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