第21話
【配信切った方がいいかな?】
【何処にいるかわかりやすいのでそのままでいいです】
【できるなら、周囲にいる探索者の人たちを集めてもらいたいです】
【わかった!】
麒麟の背に乗りながら貰った資料から、現在渋谷ダンジョンに潜っている探索者たちを確認する。避難し損ねた探索者たちの多くは、中層にいるらしいので、魔力異常の原因と鉢合わせる可能性がある。
朝川さんの配信は続いているが、それは俺が彼女の現在位置を正確に把握するためにやっていることなので無視する。資料を見た限り、現在の渋谷ダンジョンで朝川さんより探索者としての実力が高そうなのはいない。だから、朝川さんに下から冒険者を助けてもらい、俺が上から助けて行けば早く終わる、と思う。
上層でモンスターと戦っている探索者を発見したので、雷獣を召喚して蹴散らすと、驚きながらこっちに視線を向けてきた。
「大丈夫ですか?」
「よ、横取りですよ!」
「渋谷ダンジョン全体に避難警報が出ています」
「え!?」
知らなかったらしい。まぁ、携帯の電源が入ってなければ警報だって響かないだろうしな。
通常時ならば、モンスターの横取りはマナー違反になるんだけど、今は緊急事態なので仕方がない。まずはこの男女4人のパーティーを上に送り届けなければ。とは言え、上層に魔力異常が感知されたのに上まで戻ってくださいと言うのはかえって危険か。
「ついて来てください。上層に魔力異常が感知されているので、上に戻るのは危険です」
「ど、どこに?」
「中層まで行きます。逃げ遅れた探索者たちがいるはずですから」
彼らは見たところまだ上層ですら慣れていない感じの探索者だ。中層に向かうことへの不安はあるだろうけど、今は時間がない。
「『牛頭鬼』『馬頭鬼』この人たちを守れ」
フロストワイバーンすらも圧倒できる牛頭馬頭がいれば、この人たちは大丈夫だろう。念のために、警戒しながら前の敵を掃討して行こう。
『落ち着いてください、渋谷ダンジョンに避難警報が出ていますから』
:アサガオちゃん避難手伝い中
:でも中層ってやばくない?
:問題は上層らしいよ
:中層の方が安全かもね
『今、知り合いの探索者さんが解決に動いているので、まとまって動いてください!』
:知り合いって誰だろう
:コラボしたことあったっけ?
:ない
:普通にリアルの知り合いでしょ
朝川さんの方も配信を使いながらうまく誘導してくれているみたいだ。
上層で更に数人の探索者を拾い、牛頭鬼と馬頭鬼に護衛させながら中層へと入る。
数十分もすれば上層と中層の逃げ遅れた探索者たちを全員保護することもできた。後は朝川さんと合流して、保護した彼らを最上層まで送り届ければ完了だ。
「あ、司君!」
「……これで、全員かな?」
中層の一番上である21層で合流して朝川さんが保護した人も名簿で全員確認したので、さっさと最上層まで戻ろう。
:またキサラギ君きた?
:知り合いってこいつかよ
:いえーい、キサラギ君見てるー?
「……うざ」
おっと、口から本音が零れた。これだからネット民は……悪ふざけが過ぎる。別にノリそのものは嫌いではないけど、いざ自分が煽られる側になると途端にウザく感じるのは何故なのか。
「ご、ごめんね、配信切ろうか?」
「そうですね。もう居場所を把握する必要もないわけですし……」
全員が保護できたならもう朝川さんの配信を見る必要もない。彼らを送り届ければ渋谷ダンジョンに残るのは俺だけになるはず。
そう考えていたら、轟音と共に上層へと上がる階段が粉々に破壊された。
「……どう、しようか」
「下がってください」
帰り道を破壊されたことで全員が唖然としているが、俺は上の階からこっちに向かって放たれる殺気に気が付いていた。どうやら、件のモンスターが最悪のタイミングで出現したらしい。出現してすぐさま階段を破壊するのは、頭がいいと言うべきか。
土煙の中から赤い目を光らせながら出てきたのは、軍隊の将軍のような派手な鎧を身に纏い、ゴテゴテとした装飾がついている大剣を引きずる骨の騎士。朝川さんが下層で殺されかけたスケルトンを、更に強そうにした感じのモンスターだ。
「見たことないモンスターですね」
「だ、大丈夫なの?」
そう言えば、朝川さんは特別目がいいせいで魔力が見えるんだったな。なら、あのスケルトンから発せられる禍々しい魔力で身震いしてしまっているだろう。俺も、久しぶりに感じる強敵の気配に、なんとなく笑ってしまう。
「『
京都に伝わる鬼の妖怪、橋姫。俺はそれに自分の解釈を加えることで、式神として再現して召喚している。俺が加えた解釈は、橋を守護する女神としての側面だ。
召喚した橋姫にそこまで優れた戦闘能力はない。ただし、彼女は指定した地点から先へと、何人も進ませない強力な結界術が使える。そうできるように、俺が生み出したとも言う。
「俺の後ろに誰も通すな」
同時に、スケルトンはその重々しそうな鎧姿からは考えられない速度で接近してきた。引きずっていた大剣も、片手で振り下ろして中層の森林エリアを破壊していく衝撃がある。しかし、速いだけの攻撃に当たるほど、俺も弱くない。
「『
反撃として、2メートルほどありそうなスケルトンよりも更に大きい大百足を召喚したが、あっさりと腕力だけで跳ね返されてしまった。大百足の突進だって下層ぐらいのモンスターなら何もさせずに轢き殺せるだけの力があるんだが……どうやらそうもいかないぐらいの強さらしい。
「骨に腕力って言葉おかしいかもしれないけど、大した腕力だな……なら、こっちも骨だ」
単純な力勝負で戦うには分が悪そうだけど、こっちだって日頃から教室の端っこで神話や妖怪伝説の本ばかり読んでいる訳ではない。式神術は使いこなせれば無限の手数を誇る素晴らしい魔法だ。
「『がしゃどくろ』」
戦死者から生まれたとされるその妖怪は、俺が向かい合うスケルトンと同じく骨の姿をしている。ただし、俺のがしゃどくろは、俺が魔力を籠めるだけどんどんと大きくなっていく。雷獣を小さく召喚したことと逆のことだが、これが意外と難しい。
「叩き潰せ!」
10メートルを超えるサイズになったがしゃどくろは、俺の合図に応じてその巨大な掌をダンジョンの床に向かって叩きつけた。
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