第18話
朝川さんと作戦会議をした翌日、再び学校へやってきた俺に対してイケメン君が絡んでくることはなかった。まぁ、そもそもイケメン君が学校に来てなかったからなんだけども。彼も探索者なんだから、もしかしたら色々な事情があるのかもしれない……と思ったけど、絡んでくる時のことを考えると性格がクソのクズっぽいので、普通にサボりとかだろう。公欠ばかりの俺が言うのも、なんだけど。
朝川さんとちょこちょこ話しながらも、普通に学校生活を終えて帰宅した俺は、ラフな格好に着替えて渋谷駅前へと向かう。迎えの車で待っていると言う趣旨のメールが、婆ちゃんから携帯に届いていたから。
「婆ちゃん、お久しぶりです」
渋谷駅前でやたら高級そうな車を発見して俺が中に入ると、予想通り先に婆ちゃんが待っていた。
「いつも言っているけどね……私はあんたみたいな生意気な孫を持った覚えはないよ」
「婆ちゃんは婆ちゃん。祖母はおばあちゃんなんです」
「全く……敬っているんだか敬っていないんだかわからない呼称はやめな」
車の中で待っていた婆ちゃんは、俺の恩人にして師匠のような人。年齢は今年で……確か67歳になるはず。頭髪も白髪で真っ白になっているけど、相変わらず背筋がピシっとしていて年齢による腰の曲がりなんて一切ないようで、見るだけで威厳がある。正直、あんな風にかっこいい大人になりたいと、何度も思いました。
「さ、車を出してくれ」
「は、はい!」
「……新人さんですか?」
この車は、探索者協会が出している送迎の車だから、運転手も協会の人間がしているんだけど、婆ちゃんの言葉に対してここまで緊張しているなら多分新人だろう。
「婆ちゃんはそこまで怖くないから、あんまり委縮する必要ありませんよ」
「そ、そう、なんです……ね?」
「無駄話するんじゃないよ。さっさと出しな」
「はい!」
全く……婆ちゃんは言葉だけはきついんだから。後から心配して差し入れとかするなら、最初から優しく話しかけておけばいいのに。とは言え、婆ちゃんはダンジョン黎明期から活躍する人だから、そういう厳しい言葉になってしまうのはわからんでもないけど。
車に揺られながら、ちらりと横にいる婆ちゃんの方へと視線を向けると、既に仮眠状態になっていた。婆ちゃんも普段から引っ張りだこな忙しい人だから仕方ないのかもしれないけど、将来この人みたいなかっこいい大人になりたいと思っても、この人みたいに車内で仮眠を取ることに慣れるような大人にはなりたくないと思う。
車に揺られながら携帯を触っていたら、すぐに揺れが収まる。外から扉をゆっくりと開けられて降りると、探索者協会の本部の前まで来ていた。
「早く降りな」
「あ、起きたんですね」
何故か思い切りため息を吐かれてしまった。
急かされるまま車から降りた俺は、そのまま協会の人を追いかけるように歩き続ける。
協会は国が直々に運営している。正式名称はダンジョン省日本探索者協会……つまり、ダンジョン省庁の管轄下にある一組織と言う訳だ。だからこんな金がかかった大きな本部がある。
「こちらです」
通された場所は大きな会議室。今日は探索者ランクがSの代表者何名かと、探索者ランクEXの全員が揃う会議が開かれるのだ。因みに、婆ちゃんと俺が一緒にやってくるのは、俺がEXになるための推薦を書いてくれたのが婆ちゃんだったからである。
「……ようやく来たか。UNKNOWN」
スクリーンの真ん前、会議室の一番奥側に座っている強面のおっさんが顔を上げてこっちに視線を向けてきた。彼が、日本探索者協会の会長である男、
「いや、学校帰り最速なんですけど」
「それはすまなかったな。いや、本当に感謝しているよ……魔導姫様は今日もお見えにならないそうだからな」
「あ、あはは……」
ダンジョンの人災さんは基本的に自由人で、時間守らないし集合にもやってこない人だから仕方ない。
「君たちで最後だ。探索者ランクEXの3人が揃ったところで……会議を始めさせてもらう」
獅子島さんがそう言うと、背後にあったスクリーンになにかを映し出してから真ん前から移動してどいた。
「まず、忙しい中集まってくれたことに感謝する。特にEXの3人……
ちらりと婆ちゃん……神宮寺さんの方へ視線を向けると、めっちゃ興味なさそうに目を伏せていた。向かい側に座っている疲れ切ったサラリーマンみたいなおっさん風の相沢さんの方へと視線を向けたら、苦笑が返ってきた。
こうやってEXが複数人集まっているのを見るのは久しぶりな気がする。この会議だって定期的に行っている訳ではないし、何回も依頼で会議に未出席になったことがあるから。
「今回の議題は、ダンジョン配信についてだ」
パソコンに触れて資料を映し出した獅子島さんの言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になった。なんで協会で、こんな日本屈指の探索者連中集めてダンジョン配信の話するのか、理解できないからだ。だって、俺の中でのダンジョン配信のイメージは、あくまで娯楽だったから。
「近年、動画配信サイトなどでの広告収入を目的としたダンジョン配信が流行っている。政府としても、ダンジョン配信に関して言えば法に触れている訳でもなく、そして近年減少傾向にあった新規探索者の増加に繋がると考えている」
そっか……娯楽とは言え、ダンジョン配信が流行れば当然ながら、自分も探索者になってみようと思い始める人も少なくないだろう。なにより、それで金を稼いで生きていくこともできるとなれば、目指す人も多い。
「ただ、ダンジョン配信に気を取られて注意力散漫になっていたり、視聴回数を稼ぐために危険な行為を繰り返す配信者も多い」
なんかそんなようなこと、テレビで見たな。
「今回は君たちに意見を求めたい。ダンジョン配信のこれからについて」
それ、協会の職員じゃなくて現場の俺たちに聞くんですか。しかも、ここにいる全員がダンジョン配信なんて全くやってないような人たちなのに。多分、相談する相手間違えてると思いますよ。
「獅子島」
「……なんですか?」
「相談する相手を間違えてるんじゃないのかい? 私はダンジョン配信なんて欠片も知らないよ」
い、言っちゃったぁ……婆ちゃんそんな堂々と言わないであげて。獅子島さんも困惑してるから!
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