第17話

「じゃあ、私が下層に通用する為の方法を考えよう!」

「……それ、学校じゃ無理じゃないですか?」

「そ、そうかな?」

「まずはそれ以前の問題ですよね」


 下層に通用するかどうかは、結局は朝川さんがどこまで戦えるかどうかの話。ダンジョン内でモンスターと戦っている様子を見れるなら早いけど、理論的な話を学校の教室でしたって意味はない。

 正直、朝川さんが下層に通用するかどうかの話をする前に、まず下層に対する知識が全く足りないと思う。

 中層までのダンジョンは、はっきり言って楽園みたいなところだ。モンスターを倒せば環境的な要因は全くと言っていいほどに脅威にならず、そのモンスターも適当に攻撃を繰り返せば勝手に死んでいくようなモンスターばかり。だが、下層はそんな甘い場所ではない。


「体験したと思いますけど、下層の41層から先は薄暗い迷路のような洞窟です」

「丁寧語、やめていいよ?」

「……朝川さんが最初に死にかけた半透明の骸骨騎士ですが、あれは特定の攻撃以外の全てを透過して回避する厄介極まりないモンスターです」


 朝川さんが何か言っていたけど、全部無視してやる。


 最初に雷獣が助けに行った時に朝川さんが殺されそうになっていた半透明の骸骨騎士、スケルトンロードは特定の攻撃以外の全てを無効化するクソである。


「あのアストラル体の身体を攻撃するには、しっかりと魔力で相手を叩く必要があります。言ってしまえば、あの初見殺し骸骨は魔力で身体を薄く伸ばしているだけなので、それをしっかりと捉えればいい訳です」

「……わかんない」

「朝川さんの魔力センスなら簡単に捉えられると思います」


 正直、魔力を感知したりするセンスだけで言うなら、俺なんかより朝川さんの方が圧倒的に優れてる。俺は魔力を知覚する方法なんてないからね。


「あんなのが沢山出てくるのかぁ」

「あの初見殺し骸骨は41層付近で出てくる一番強いモンスターだから大丈夫です」

「大丈夫なの、それ?」

「問題ないです」


 弱点を攻撃しないと永遠に再生したりするカエルとかいるけど、あんなのは頭を消し飛ばせば大体なんとかなるから、そういうのは肌感覚で覚えていくしかない。


「とにかく、下層で生きていくには情報が命です」

「でも、ダンジョン配信とかしてる人もいないから……情報も少ないんだよね」

「……それは、そうですね」


 だからいつまで経っても下層以降の探索が進まないのかもしれない。渋谷ダンジョンなんて攻略が進んでいる方で、深層の74階層まで攻略されているが、名古屋ダンジョンなんて特殊な環境のせいもあって40階層付近までしか攻略されていない。

 ダンジョンが賑わって欲しいとは別に思わないけど、死人が減るならそれに越したことはない。やっぱり、に掛け合って色々と考えてみるか。


「やっぱり、司君が下層以降の攻略配信をすればいいと思うんだ。そうすれば、みんな下層以降をモチベーションにできるかもしれないよ?」

「……まぁ、確かに、ですね」

「そうしたら、やっぱり配信の仕方を色々と教えてあげる。私のアシスタントしながらなら、色々と学べると思うから……それでいい?」


 一石二鳥、かな。

 俺が朝川さんから色々と配信のことを教えて貰いながら、俺が朝川さんに対して下層のアドバイスをすればいい。そうすれば2人が求めることに近づくはずだ。


「わかりました。明日で……明日は無理ですね」

「そうなの?」

「まぁ、EXにも色々とあるんです」


 そう言えば、明日はと協会の方に行く用事があるんだった。


「じゃあ、明日は自由行動ね」

「はい。まぁ、学校には来るんですけど」

「そうなんだ。最近は学校に来れててよかったね」

「…………そう、ですね」


 正直、学校にあんまりいい思い出がない。最近はイケメン君に絡まれたりしているし、朝川さんと関わるようになってからクラスの人たちから向けられる視線も痛い。ダンジョン配信とかよく見てる人は、俺のことを朝川さんを助けた謎の「キサラギ君」だと気が付き始めている人もいる。それでも、笑みを浮かべる朝川さんにとっては、学校は何にも変えられない場所なんだろう。


「それにしても……半年で卒業かー」

「気が早いですね」

「時間が過ぎるなんてあっという間だよ? こんなんなら、もっと早く司君と知り合うんだったなぁ」

「……嬉しいです」


 朝川さんからすれば、俺はダンジョン配信を手伝ってくれるいい人だから、やっぱりもう少し早く出会っていれば、もっと先に進めたという思いもあるんだろうか。


「探索者としても、友達としてもとっても面白い人だから、もっと早く友達になればよかった」

「……え、友達だったんですか!?」

「友達じゃなかったの!?」


 びっくりするのはこっちの方なんですけど! だって、そもそも高校生になるまでだってまともに友達ができたことないのに、高校生になってダンジョン探索者やり始めて更にまともに友達できなくなった真正の陰キャぼっちなんだぞ!?

 今更友達の作り方なんて知る訳もないから、もう一生孤独のまま生きていくんだろうなとか思ってたからいきなり女性の友達ができてびっくりしている。友達って自然にできるものなのか……初めて知った。


「友達……友達……」

「そんなに変?」

「人生初めての、友達です」

「そうなの!?」


 いや、朝川さんみたいにみんなから好かれている人は友達なんて何人もいるかもしれないけど、俺みたいな陰キャぼっち君には生涯友達なんてできないもんだと思ってた。それも、こんな美人で可愛い感じの女性の友達ができるとは。人生、なにがあるかわかったもんじゃない。


「そっか……初めての友達なんだ。なら、もっと友達らしいことしたいね」

「でも、ダンジョンと仕事が友達の俺ですよ?」

「友達いるじゃん」

「いや、人じゃないので」


 なんか……朝川さんと会話してると疲れない。俺は明らかに普段以上に喋っているのに、朝川さんと喋っている時だけ疲れないのは、やっぱり友達だからなんだろうか。他のEXランクの探索者たちは、別に友達って訳ではないから……余計にそう思う。


「ふふ、じゃあダンジョン関係なく、今度はどっか遊びに行こうね」

「頑張り、ます」

「友達なんだから頑張らなくていいんだよ」


 また笑われた。でも、嫌な感じの笑い方じゃない……なんというか、温かく接してくれている笑われ方。本当に、楽しいと思ってくれているからの笑い方って感じ。友達がいなかった奴がなにをって感じだけど……俺もやっぱりちょっと楽しい。


「ふふ」

「あ、司君も笑ってくれた」


 そう言って微笑んでくれた朝川さんの顔は、しばらく忘れられそうにない。

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