第16話
「司君、おはよ!」
「……おはよう、ございます」
携帯で録画機器を色々と調べながら駅から歩いて学校へと向かっていたら、背後から朝川さんが近寄って来る気配を感じた。急に挨拶されたらびっくりするけど、事前に気配を察知すれば問題ない……いや、気持ち悪いこと以外に問題はない。
周囲の同じ制服を着た人たちからは、朝川さんに挨拶されてるってことで驚いたような表情で見られているが、朝川さんは特に気にしてない様子。俺も携帯でカメラ見るのに忙しいから知らないふりをしておこう。
「あ、カメラ見てるの? って高い!」
「いや、朝川さんが使ってるのも高いでしょ」
「私は色々と頑張って貯金したりしたの。でも……司君、これを一括でひょいっと買おうとしてない?」
してますけど?
どっちにしろ金は有り余っているんだから、ガンガン高いの買っていなかないと。勿論、値段だけじゃなくて性能を見て買わないといけないけど。ダンジョン配信者として本当にしっかりとやっていくなら性能がいいやつを買わないと、深層なんて映せませんなんて言われかねない。
「ダンジョン配信、興味出てきた?」
「はい。深層を映すためにも高性能なのが欲しくて……どうしました?」
「え、深層?」
なにを、驚いているんだろうか。映すなら中層や下層なんかより、深層の方が価値があると思うんだけど。
「本当にやったらすごいことになるよ?」
「はぁ……? よく、わかりませんけど……深層を映してる探索者とかはいないんですか?」
「殆どいない、かな」
そうなんだ。深層は探索者ランクAから入ることを許可されているけど、基本的にはSランクから、なんて言われているから人口は確かに少ないだろうけど、配信者ぐらいいると思ってた。
「深層の配信はね、1人しかやったことがないんだよ?」
「1人?」
「そう。伝説の配信なんて言われてて、海外の人にも注目されてアーカイブの再生数は1憶を超えてるの」
すごい、真剣な顔で教えてくれてる。でも、たまにテレビとかでSランクの人が深層の話をしたりとか、写真とか持ってきたりしてるし……まぁ、彼らだって深層に行くにはそれ相応の準備が必要だとは思うけど。
「その1人が、EXランクなの」
「あ、ダンジョンの人災ですか」
「……なんて?」
「え? EXランクで配信をしてるってことは、彼女ですよね?」
少なくとも、残り2人はダンジョン配信なんてしてないから、絶対にあのお調子者だと思ったんだけど……違うのかな。
「だ、ダンジョンの人災?」
「あの派手な魔法を発動しまくって、ダンジョンを崩落させたりする人ですよ。今は海外に留学してるとかどうとか言ってましたね……元気かな?」
「知り合いなの!?」
びっくりした。急に大きな声を出されるとびっくりするからやめて欲しい。
「EXランクの人たちはみんな知り合いですよ。連絡先も持ってますし」
「そ、そうなんだ……
「そう言えばそんな名前でも呼ばれてましたね」
まぁ、流石に「ダンジョンの人災」をテレビとかで使う訳にもいかないか。綺麗な渾名をつけてもらってよかったね……俺に突っかかってきたことは未だに恨んでるけど。
色々と雑談をしながら学校に入り、そのままクラスまで辿り着いてから気が付いたけど、俺、コミュ障なのによくあんなに喋れたな。もしかして……そろそろ朝川さんには慣れてきたか?
「それで、司君は」
「は?」
え、朝川さんが俺の名前を呼びながらクラスに入ってきただけで空気が凍ったんだけど……もしかして凍結魔法でも使ったのかな。フロストワイバーンもびっくりの速度で教室が凍っちゃったね。
「おい陰キャ野郎、調子に乗るなって言ったよな」
「す、すいません?」
凍結魔法を使った朝川さんではなく、俺の方へとイケメン君がやってきた。
「お前、Cランクに殴られる意味わかったって言ってたよな? わかってやってんなら殴ってもいいんだよなぁ?」
「ご、ごめんなさい……く、栗林君?」
あ、額に青筋……名前間違えたかな、これは。
「ぶっ殺す!」
「わー! 駄目だよ栗原君!」
「あ、栗原君でした。ごめんなさい」
「はぁ!?」
「司君も煽らないで!」
「司君だと!?」
どっちが煽ってるのかもうわからないですよ。
俺に殴りかかろうとするイケメン君を見て、クラスの人たちはみんな顔を真っ青にさせていた。もしかして……イケメン君って身体能力だけで戦うタイプの探索者なのかな。だとしたら一般人への暴力は普通に殺しかねないからやめた方がいいと思うけど。
「なにを暴れている!」
「ちっ!」
俺が戸惑いながら朝川さんとイケメン君のどっちに対応すればいいのかわからなくなっていたら、担任の先生がやってきた。
「お前、放課後に屋上に来い」
「え、屋上って立ち入り禁止じゃ」
「来なかったら殺す」
やば。全然人の話聞かないじゃん。
でも……今日は先に朝川さんと約束してるんだよなぁ……正直に言ったらまた怒られるだろうし、なんとか断れないかな。無理かなぁ……どうしよう。
ずっとイケメン君にどうやって言い訳して逃がしてもらおうと思ってたんだけど、全く解決案は思い浮かばず。結局そのまま放課後がやってきてしまった。イケメン君はわかってるよなと言いたげな視線を向けてきているけど、朝川さんはそんなことお構いなしだった。
「約束通り、作戦会議に行こう!」
「え?」
「は?」
俺とイケメン君のどちらも反応できずに、朝川さんに手を取られてそのまま連れ去られてしまった。イケメン君は咄嗟に教室から廊下に飛び出してこちらを睨みつけて来たけど、俺の意思じゃないからね?
諦めてそのまま連れて行かれた場所は、空き教室の一つだった。
「先生からここなら空いてるから部活の時間ぐらいなら使っていいって言われたんだ」
「どうやって?」
「ダンジョン研究!」
まぁ、嘘ではない……かな?
実際、俺と朝川さんがこれからするのはダンジョンに関する相談だし。
「それで、作戦会議って具体的になにをするんですか?」
「ふっふっふ……まずはどうやったら下層を攻略できるか、色々と教えて欲しいんだ!」
ノートとペンを手に、朝川さんは笑っていた。まぁ、効率よくダンジョンを攻略するには、経験者に聞くのが早いんだろうけど……これは作戦会議と言うのだろうか。
「それと、司君にはダンジョン配信のやり方とか、色々と教えてあげる!」
「是非、お願いします」
それは重要だ。俺が実際に配信するかどうかは知らないけど、ノウハウは聞いておきたい。なにせ、相手はダンジョン配信において人気トップと言っても過言ではない。できる限りの情報は貰っておこう。そして、その対価が下層以降のダンジョンの話なのだとすれば、安いものだ。
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