陰キャコミュ障ぼっちで影の薄い俺、世界最強のダンジョン探索者です ～世間ではダンジョン配信なるものが流行ってるらしいので、そういうのはよくわかりませんが、流行りには乗りたいと思います～

第13話

「間違い、ないですね」

「……」

　え、なんで驚かれてるの。確信してるから話したんだよね。

「そ、その……あっさり認めちゃったから、びっくりしちゃって」

「別に、隠している訳じゃない、ですから」

　意図的になにかを隠していることはない。説明が面倒だったり、登録が面倒だったりするから結果的になにも情報を載せてないだけで、俺は普通に探索者をやっているつもりだ。

　説明が面倒なだけだから、こうやって質問されたことには普通に応えるつもりだ。支部長だって俺の本名も、式神についてだってかなり把握しているからな。奥の手があることには、全く言及してこなかったから言ってないけど。

「そうなんだ……隠してる訳じゃ、ないんだね」

「うん？」

「ううん。なんでもない」

　なんか、思いついたって感じだったけど……なんだろう。

「じゃあ、次の質問いい？」

「どうぞ」

　別に隠している訳ではないから、質問攻めされたってなにも思わない。それに、朝川さんだって2回も得体の知れないものに助けられて、知りたくて仕方がないだろう。

「あの、使役？　してるモンスターはなに？」

「式神のこと？　あれは作り出した生物だから、モンスターじゃない、です」

「そうなの！？」

　モンスターじゃないから魔石もないし、死んでも灰になることはない。まぁ、見た目の問題でモンスターと見間違えられるから人目のあるところであんまり召喚しないんだけど、朝川さんを助けた時は緊急だったからね。

「し、式神かぁ……陰陽師！　みたいな？」

「いや、別に陰陽師ではないですけど……」

「え、法術とか使えないの」

「魔法は使えます」

「それは私も使えるよ」

　あくまで、生物を生み出して従える術が式神術と呼ばれているだけで、俺は陰陽師な訳じゃないし、普通に魔法だって使える。まぁ、俺は一般的な人よりも身体能力が優れているから、基本的には魔法じゃなくて剣を使った近接戦闘が多いけど。

「そっか……じゃああれも魔法の一種、なんだね？」

「そう、ですね。魔力で生み出してるので」

　式神術の便利なところは、一度創造してしまえば出したり消したりは自由なところ。細部まで詳しく創造しないと扱うことはできないけど、術者の籠める魔力量によって強さも変動して、きちんと創造すれば自我を持たせることもできる。俺の雷獣が大型犬のように欠伸したりするのも、自我を持たせているから。

「私にも使えるようになるってこと！？　そうしたら可愛い犬として配信で受けると思うんだけど！」

「ちょっと待ってください」

「え？」

　勇気を出して朝川さんの手に触れる。やば……めっちゃすべすべなんだけど、女子ってこんな生き物なのか。いや、そういう話じゃなくて。

「うーん……頑張れば、いけなくはない、かも？」

「ど、どういうこと？」

「式神術には、先天的な才能がいるんです」

　身体に触れることで他人の魔力を感知できる。これは常識的な話なんだけど、俺は朝川さんの魔力から式神術が使用可能かどうかを判断していた。と言っても、明確な基準がある訳ではないので、多分できる程度のものだ。

　魔力の質、とでも言えばいいのだろうか。式神術には先天的な魔力センスが無ければ使いこなせない。通常の魔法とは原理が全く異なるから。

「才能かぁ」

「そうですね。俺みたいに、自由自在には、無理です」

「そっかぁ……残念」

　よほど使えるかもという期待が大きかったんだな。すごい落ち込んでる。

「『雷獣』」

「え？」

　魔力を流して雷獣を召喚する。ただし、大きさは普段とは違って掌サイズ。ぽんっという音と共に召喚された雷獣は、こんな小さな身体で召喚しやがってと言わんばかりにこちらを見つめているが、人形サイズだと全く怖くないぞ。

「か、可愛い！」

「俺には式神術の才能があったみたいで……こういう風に好き勝手に召喚できるんです」

「すごいね！」

「あ、ありがとう、ございます」

　やばい。正直、あんまり褒められ慣れてないから照れてきた。職員の人に褒められても、基本的には耳から耳へと通り抜けていってるけど、流石に面と向かって女の子にすごいと言われると、照れる。だってこんな美少女に微笑まれながらすごいって言われたら嬉しいでしょ！　俺、枯れてないのかもしれない！

「雷獣ちゃん可愛い」

「……嫌そうな顔するな」

　猫可愛がりって言うのかな。すごい撫でながら目をキラキラさせている朝川さんに対して、雷獣は頬を突かれたりする度に、嫌そうな顔をこちらに向けてくる。

「しょうがない」

「あ……」

　雷獣が流石に嫌そうなので、消してやる。朝川さんはまだ足りないと言った表情だったが、俺の顔を見て話しの途中であることを思いだしたのか、頭を左右に振ってから咳払いを1つした。

「つ、次の質問ね」

「あ、はい」

　なかったことにしたな。

「41階層まで助けに来てくれたってことは、探索者ランクがCなの？」

「助けに行った訳じゃなかったんですけど……まぁ、いいか」

　あの時は、雷獣が血の匂いを追っかけてたまたま下層までいっただけで、俺は朝川さんが死にかけてるなんて知りもしなかったからな。

「探索者ランクは……Cじゃないですけど」

「え、Cじゃないのに下層に行ったの！？」

　逆方向に勘違いしてないか。

「朝川さんはランクCなんですよね？」

「そうだよ。この間、ようやくランクがCになったから、下層に行こうと思って2回とも失敗しちゃった」

　配信してるんだったな。

　にしても、高校生で探索者ランクをCまで上げるってかなり苦労すると思うから……やっぱりすごいと思う。俺は探索者ランクなんてEまでしか上げたことが無いから、Cランクまで上げる苦労はわからない。

「探索者カード、これね」

「…………朝川さん、探索者カードは無暗に他人に見せてはいけないって講習で言われませんでしたか？」

「え？　如月君なら大丈夫でしょ？」

　その自信はどこから来るんだ。

　探索者カードには結構大事な情報が書かれていたりする。住所とか探索者のIDとか生年月日とかも書かれているし、身分証明書に使えるぐらいには書かれているんだから、不用意に見せちゃいけないって話なんだけど。

　これを信頼されていると取るべきか、朝川さんがズボラであると取るべきか。いや、絶対後者だろ。

「はぁ……わかりました」

　俺は財布から探索者カードを抜き出して机の上に置いた。探索者協会には登録していない個人情報とかも普通に載ってるから、あんまり見せちゃいけないんだけども、朝川さんが見せているのにこっちが見せない訳にも行かない気がしてきたので、見せる。

「ふむふむ……え、EXって？」

「あー……うん」

「あのEXなの！？」

「それ以外に、ありますかね」

　なんか、とんでもなく驚かれている。

　そう言えば、EXになってからまともに探索者カードを他人に見せるのは初めてだなぁ。だからこんなに驚かれてるのかなぁ。

　一応、EXは日本に4人しかいないもんな……もうちょっと慎重に見せればよかった。