第12話
「お待たせ! ごめんね、待たせちゃったみたいで」
「いや……別に待ってない、ですよ?」
なんか…………デートのカップルみたいだな。とか思ってたらイケメン君に殴られてしまう。自重しなければいけないんだったな。
「もー、普通に喋ってくれていいんだよ?」
「か、勘弁してください朝川さん」
「七海、でもいいよ?」
「ひぇ」
イケメン君に襲われた時と同じ声がでちゃった。俺にとってイケメン君に襲われる恐怖と、朝川さんに迫られる恐怖が同じらしい。いや、朝川さんに近づき過ぎたらイケメン君にシバかれるんだから、同じ意味か。
「まぁ、いいや。行こ?」
「は、はい」
取り敢えず、諦めて貰えたらしい。渋谷ダンジョンの職員とかなら顔馴染みばっかりだからちゃんと話せるんだけどなぁ……学校の人は面と向かって話せない。いや、普通は逆だろうと俺も思うんだけど、ダンジョン引きこもりの俺には合ってる。
渋谷駅前に集合したから、どっかお洒落で陽キャがよく居そうな場所にでも連れて行かれるのかと思ったけど、普通に駅地下ダンジョン前のカフェに入店した。
このカフェは俺もよく利用する、ダンジョン探索者が多くたむろってるカフェ。一般客は殆どこないんじゃないかな。なにせ、探索者専用みたいな感じだから値段が結構高い。いや、高級な豆とか使ってるコーヒーとかなんだから高いの当然なんだけど、更に個室が完備されている。カフェなのに。
「このカフェに入るの初めてなんだ」
「えっ……そう、なんですか?」
「そうだよ? だって、稼いだお金だって学費とか、食費とか生活費とか……とにかく色々あるから」
「ひ、一人暮らしなん、ですね」
「うん」
なんか、意外だ。こういう礼儀正しい子は、絶対に実家暮らしで東京近郊に住んでるもんだと思ってたんだけど、朝川さんは一人暮らしらしい。
「住んでるマンションもね、女子高生の一人暮らしだからってお父さんがセキュリティ万全な所を選んでくれたんだけど……やっぱり高いじゃん?」
「まぁ……そう、ですね」
マンション幾つか持ってるからわかるようなわからないような。だって、セキュリティが万全な高いマンションしか買わないし。でも、一応は家賃とかの相場も知っているつもりだから、セキュリティ万全な家の相場も理解している。最近は、駅が近いよりもダンジョンが近い方が地価が高いとかなんとか。
「ふぅ……外暑かったね」
「……はい」
「んふ……あはは! なんか緊張してるでしょ」
「すいません」
そりゃあ7月だからね、と思ったけど口には出ない。そして反射的に謝ってしまった。コミュニケーション能力無さ過ぎて泣きたくなってくる。
朝川さんは笑って許してくれてるけど、普通の人だったら謝ってばかりでコミュ障の人間とは喋りたくないだろうな。まぁ……朝川さんから誘ってきたのにそんなこと言われたらショックで学校休んじゃうけど。
「同年代でしっかりと探索者やってる人がいなくて……なんとなくテンション上がっちゃった」
「……イケメン君は?」
「え、イケメン君って誰?」
「あの……クラスの、茶髪」
「栗原君?」
そうそう、栗原君。
彼だって朝川さんと同じCランク以上の探索者なんだから、普通に話できる人だと思うんだけど。もしかして朝川さんの中では抹消された存在になってる?
「あー……栗原君はね……なんというか、難しい?」
「む、難しい……」
「ごめんなさい。オブラートに包みました……苦手、なんだよね」
イケメン君、ドンマイ。
「探索者ってやっぱり危険だから、みんななりたがらないの」
「でも、資格持ってる人は、多いですよ?」
「持ってるだけだったり、最上層にしかいかない人ばっかりだよ。私や如月君みたいに、中層まで行く人はいないよ」
まぁ……確かに。履歴書に書ける資格だから取っただけで、実際にはダンジョンに潜ったことない人とか沢山いるらしいし。とは言え、探索者資格を取ってくれるだけ国としてはありがたいのかもしれない。しっかり探索者として活動するには毎年の資格更新が必要だから、国はダンジョンに潜っている人の数は把握しているらしい。
クラスの半分くらいの人が探索者資格だけは取っているって状態だけど、バイト感覚で潜る人がいるぐらいで、真面目に探索者やってるのは俺と朝川さん、そしてCランクらしいイケメン君ぐらいだろう。
「だから、探索者として活動してるクラスメイトって本当に貴重だから、連絡先交換しない?」
「…………いい、ですよ」
「なに、その間」
また朝川さんに笑われてしまった。でも、笑顔も可愛いなこの人。
いや、単純に陰キャ君は連絡先交換しようと言われるとしどろもどろになる生き物なんですよ。というか、さっきから同じ探索者だからって心理的な距離が近くないですかね。陰キャぼっち君はそんなことされると、簡単に惚れちゃうからやめたほうがいいですよ。
「ちょっと会話が苦手そうだけど、普通に受け答えできるのに、なんで教室だと1人なの?」
「……陰キャぼっちにそれは禁句ですよ」
「えー? そうなの?」
「そうなんです」
「そっかー」
いや納得するのかよ。自分で言っておいて全く納得できない文言だったんだが、なんでそれで納得できてしまうんだ。
「お待たせいたしました」
朝川さんとの会話に苦労していたら、注文したコーヒーがやってきた。朝川さんは紅茶にしたらしいが、俺はやっぱりなんだかんだ言ってもコーヒー派。いや、紅茶も好きではあるけど、どっちを飲むかと言われたらコーヒー。
砂糖とミルクはコーヒーの豆にもよるけど、基本的には入れない。そのままブラックが一番好き。
「……」
「なん、ですか?」
「ううん……結構高いの頼むんだね」
コーヒーなんて値段気にしてたら飲めないようなものもありますからね。まぁ、だからと言って高いから美味しいって飲んでいる訳じゃないけど。
「金は、俺が……出しますよ」
「え、でも私も結構稼いでるよ?」
「学費とか言ってたじゃないですか」
「同じ学校に通ってるのに?」
そう言われると、そうなんだけど……預金通帳を見て増えていく数字にため息をついている、とは言えないし、どうしたものか。
「うーん……じゃあ質問に応えてくれたら、奢ってもらう」
「……それ、俺に基本的にメリットないですよね」
「本当だ!? ご、ごめんね」
「いや、別にいいですけど……奢りますよ。質問にも応えます」
そもそも、その質問に応えるために一緒にカフェにまで入ってるんだから。奢るのと質問に応えるのは別の話だ。
「あ、ありがとう……じゃあ、質問ね」
「はい」
「昨日、それと一昨日に私を助けてくれたのは如月君で、間違いないんだよね?」
やっぱりその話か。というか、確信を持って聞いて来たんじゃないのか? クラスで話した時はだんていてきだったのに。
まぁ、隠すことでもないから全部話すけども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます