第11話

 使ってもそれ以上に増える預金通帳を見ながらため息を吐いた。いや、学校ですることじゃないとは俺も思ってるんだけど、実はこの間マンション買ったばかりなんだよね。流石に使わないまま増えていくのもどうかと思ったから、一括で購入して不動産屋に丸投げしたんだけど……昨日の依頼報酬と、フロストワイバーンの魔石でかなりの金がまた入ってきた。

 いや、フロストワイバーンの魔石でかなりの電力が発電できるだけの価値なのはわかるけど、学生が手にしていい金額じゃないと思う。最初の頃はどこから聞きつけてきたのか、大量に身に覚えのない親戚が増えたもんだけど、今じゃそんなのが湧きもしない。


「ん?」


 待てよ。フロストワイバーンの魔石1つでかなりの金が入ったってことは、1体分の魔石を手にした朝川さんもかなりの金額が手に入ったのでは?

 今度、信頼できる税理士紹介しようかな。多分、普通に労わるよりそれの方が喜ばれる。


 ところで、何故か今日はクラスの中で結構な視線を集めている気がするんだけど……なんでだろうか。なんか、ダンジョン配信なるもので顔が映ったとか言われたけど……それの影響かな。でも、朝川さんってそんなに有名なのかな。


「お、おはよう」

「……え? 俺?」


 考えてもわからないから本でも読もうと思って、預金通帳を鞄にしまって本を取り出したところで、横から声を掛けられてしまった。まさか学校でいきなり喋りかけてくるような人がいるとは思わなかったので、びっくりしてそっちに顔を向けたら、話題の中心人物がいた。

 濡烏色の髪に、それと同じような色で吸い込まれるような瞳を持っているクラスメイト。俺が昨日、依頼を達成する途中でそのまま助けた朝川さんだ。


「昨日は、ありがとうね」

「あ、あぁ……うん……」


 はい無理。

 コミュ障陰キャぼっちにクラスのマドンナと会話できるだけのボキャブラリーがあると思うなよ。あったとしても言葉として口から出てくることはないからな。


「如月君、だよねやっぱり」

「ひ、人違い……かも?」


 冷静になに言ってんだ俺。気持ち悪すぎないか。


「そんなことないよ。昨日学校であった如月君と、ダンジョンで会った如月君の魔力が一緒だもん」

「ま、魔力?」

「そう! すごい静謐って言葉ぴったりで、綺麗な魔力だよ」


 静謐な魔力……か。そんなことを言われても、普通の人間は魔力に個性を見出したりはしない。特別に目がいいとか、特異体質で魔力を感知しやすい人間が、そうやって魔力を見ただけで個人を識別できるとは聞いたことがあるけど、まさか朝川さんは魔力を感知できる人なんだろうか。


「その……色々と話したいことがあるから、放課後に会って話せるかな?」

「え? あ、はい……大丈夫、だと思います」


 連続で依頼をしたから今日は休みにしてあげる、と俺専用担当のお姉さんから言われているから別にいいと思うけど。

 それより、俺が朝川さんに絡まれることで何故かイケメン君に睨まれているんだけど、もしかしてイケメン君と朝川さんって付き合ってるの? 彼女が知らない男に話しかけているのが気に入らない、みたいな目だよあれ。


「じゃあ、渋谷駅の前に集合ね!」

「は、はい」


 でもコミュ障陰キャ君はキラキラ女子の言葉なんて断れないのでした。残念でした……誰か助けて。

 朝川さんは気が付いてないのか、普通に教室から出て行っちゃったし。こうなったら、俺は絶対にイケメン君に絡まれる奴じゃん。


「おい陰キャ、調子乗ってんじゃねぇよ」

「ひぇ」


 本当に絡まれた。

 明らかにブチギレ状態で殴る一歩手前みたいな表情で睨んできてるんだけど。探索者資格持ってたらいいって言ったじゃん!


「お前、何したか知らねぇけど朝川さんに喋りかけられてよ、狙ってんの? 身の程知れよ」

「ね、狙ってない、です」

「は?」

「すいません」


 しまった。反射的に謝罪の言葉が出てきちゃった。話慣れた人相手にはちゃんと喋れるのに、なんでこうも俺はコミュ障陰キャ君なんだ! 俺はダンジョン探索者としての実力よりもコミュニケーション能力が欲しいぞ!


「ちっ! お前、今度朝川さんと絡んだらぶん殴るからな」

「ご、ごめんなさい」

「お前みたいな陰キャが絡んでいい相手じゃねぇんだよ。Cランクに殴られる意味わかってんだろうな」


 えーっと……普通に痛い、とか?

 いや、そういうことじゃないか。となると……多分、死ぬぞって意味かな。

 まぁ、イケメン君がどんな魔法を使うとかも知らないから何とも言えないけど、普通の物理攻撃では負ける気なんて全くないんだけども、それぐらいなにするかわからないぞって意味だろう。ここは無難に首を縦に振っておこう。

 なんとなく満足そうな顔になって、イケメン君は俺から離れていった。よくわからん。でも、イケメン君の周りの連中はまだ俺のことを睨んでた。え、朝川さんモテ過ぎでは?


 絡まれるのが嫌だったので、全授業が終わった瞬間に俺は教室から飛び出るようにして逃げ出した。当然、全力で踏み込むと魔力によって床のタイルを粉々に砕く自信があるので、魔力を抜きにしてだ。自慢ではないが、魔力抜きで考えても俺は結構身体能力が高い方なので、イケメン君にも絡まれることなく学校を飛び出すことができた。

 学校を飛び出したのはいいけどこの後に、朝川さんと約束してるんだよな……なんとなく気乗りしないんだけど、約束してしまったから仕方ない。陰キャには断るということができないのだ。

 渋谷駅近くに持っているマンションに寄って行こう。着替えとダンジョンへ行くための道具はスペアとして置いてあるから、そこから渋谷駅まで歩いて行けばいい。元々は金を使うため、かつ渋谷ダンジョンへの利便性を考えて購入した物件だから丁度いいだろう。

 それにしても、俺に対して朝川さんが話したいことって、もしかしなくてもあのダンジョンのことだよな。命の危険だったから普通に助けたけど、2回目だもんな……それに、式神のこと聞かれて後でって言ったから余計に断れないよな。

 まぁいいや。なるようにしかならないでしょ……別になにか疚しいことがある訳でもないし、普通に喋って普通の解散するでしょう。そうしたら……休日だから普通にダンジョンはやめておこうかな。殆ど仕事かそのストレス発散の為にしかダンジョン行ってないからなぁ……連日でダンジョン行くのは平気だけど、仕事ばっかりなのに趣味でもダンジョン行ったら頭おかしくなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る