第14話

「探索者登録名「UNKNOWN」って……個人情報不明なEX探索者の?」

「え、俺そんなこと言われてるんですね」

「そうだよ! 日本にいる4人のEXランクで唯一正体が不明だったんだから!」


 そう言えば、他の3人は堂々と個人情報載せてたな。俺、探索者の知り合いはEXのその3人しかいないからよく知らないけど、そんな風に世間から捉えられていたなんてちっとも思わなかった。


「……なんで、自分はEXランクの探索者なんだーって言わないの?」


 これは……俺がイケメン君に絡まれた時の話をしているのだろうか。まぁ、朝川さんは優しそうだし、俺が絡まれているのを見てそう言いたくなる気持ちはなんとなくわからなくはない。


「あんまり、探索者のランクになんて興味が無くて……人にはあんまり言ったことないです」

「じゃあ、なんでダンジョンに潜るの? これ以上ランクは上がらないのに」

「……趣味と実益? あと仕事?」


 最初は、ダンジョンに潜れば潜るほどに金が手に入るから楽しかったんだよなぁ。でも、それ以上に仕事が舞い込んできて、使う時間もないのに更に金が増えていけば嫌にもなる。


「そっか……わかった。じゃあ誰にも言わない」

「いいんですか? 別に俺は知られても問題ないんですけど……配信の数字になるのでは?」

「あ、やっぱり私が配信してることは知ってるんだ」

「昨日初めて知りました」

「そ、そっか」


 興味なさそうだなーみたいな目を向けられているけど、実際に興味はない。と言うか、興味が出るか出ないかの場所まで来ていないから、よくわからないが正しいか。


「なんで、探索者名はUNKNOWNなの? 秘密にしたいから、じゃないんだよね?」

「……登録の時に、本名でいいやと思って間違えて空欄で出したら、勝手にこうなりました」

「え、そうなんだ……んふ」

「笑わないでください」

「無理……あはははは!」


 くそったれ。俺としてもマジで黒歴史みたいになってるんだよ。結局変えるに変えられなくてそのまま放置してある。もう大々的にEXランクの探索者UNKNOWNとして広まっているのに変えられる訳がない。


「そっか……うん、色々と如月君のことが知れてよかったよ。今更だけど、私の命を2回も救ってくれてありがとう」

「……たまたま、ですよ」

「それでもだよ」


 あぁ……彼女は善人だ。人並みに嫌いな人がいて、人並みに感謝することができる等身大の人間らしい人間性を持ちながら、しっかりと他人を思いやることができる。ダンジョンに潜って命の奪い合いをする探索者の中では、珍しい善人だと思う。


「そっかそっか……じゃあ、よく協会のホームページに出てる「EX・UNKNOWNが解決しました」って言うのは、如月君が解決してくれてたんだね」

「あー……」


 探索者協会がダンジョンの規制をしなきゃいけないほど、つまり最上層や上層に下層クラスのモンスターが出現した時に出す規制情報の話かな。確かに、EXランクの中では渋谷ダンジョンに一番近い所に住んでいる俺が、よく載っていると思う。先々月、上層でよくわからないワニみたいなのとやった時に、支部長が直々にパソコンに情報を打ち込んでいるのを横で見てた。


「……うーん」

「?」


 なんか朝川さんがストローに口をつけながら唸り始めた。なんかまだ質問したことがあるのだろうか。別に質問に答えたら死ぬ訳でもないから、なんでも聞いてくれていいんだけど。


「ねぇ、ダンジョン配信に、興味ない?」

「ダンジョン配信……」


 それは朝川さんがやっているという配信の名前だろうか。ダンジョン内でどうやって配信するのかと全く知らないけど、どうやら彼女がダンジョン攻略を売りにして配信をしていることぐらいはわかった。


「そもそも、そのダンジョン配信というのがよくわからなくて」

「昨日初めて知ったって言ってたけど……私の配信じゃなくて、ダンジョン配信をってこと? ネットの情報とか疎いの?」

「いやー……SNSは一応やってるんですけどね」


 基本的にやってるゲームの公式アカウントぐらいしかフォローしてないから、そういう世情には詳しくない。


「EXランクなのに?」

「それ、関係あります?」


 そもそも、俺はEXランクになってまだ2年ぐらいしか経ってないんだから、なんでもかんでも詳しい訳じゃない。勿論、ダンジョンには詳しいけど。


「もし、興味があったらでいいんだけど……手伝ってほしいなって」

「……」


 取り敢えずダンジョン配信がよくわからないのでスマホで調べてみる。陰キャは他人の前でスマホを構えるのが得意なんだ。そして人に嫌われるっていうね。

 ちょっと検索してみた感じ、どうやらダンジョン配信は基本的にダンジョン攻略を見せるのが主流だけど、それだけではないらしい。そして、配信者には配信専用の企業に所属している人間もいれば、個人でやっている人間もいる、と。


「企業に所属してるんですか?」

「私はしてないよ。元々、ダンジョン攻略日記、みたいな形で始めたんだ」


 成程。個人の配信なら、配信者である朝川さんの独断で俺と共に攻略することも可能か……確かにそうだろうな。なにより、朝川さんは現在下層に行きたいのに、前に進めなくて困っている。そこで強そうな俺に助っ人を頼みたいのだろう。


「でも、個人で頑張りたいってイケメン君に言ってましたよね」

「あれは断る口実」


 ドンマイ、イケメン君。


「わかりました。別にいいですよ」

「いいんだ!?」

「うわっ!?」


 びっくりした。突然立ち上がって手を取らないでください。惚れますよ?

 そうじゃなくて、朝川さんから誘っておいて乗ったらそんなに驚くってことは、本当は来て欲しくなかったのか、それとも俺は絶対に断ると思われていたのか。絶対後者だな。


「ありがとう如月君!」

「ど、どういたしまして……」


 とはいえ、今までの会話でこちらにも聞きたいことができた。別に今すぐに聞く必要はないけど、個人的には一緒に活動する前にしっかりと聞いておいた方がいいのだろう。


「朝川さんは、ダンジョン配信者として成功しているんだと思います」

「……そう、だね。うーん……嘘でも成功してないとは言えないかな」

「視聴者も多いみたいですし、投げ銭? も結構な額が入っているはずですよね?」

「うん」

「なのに、下層攻略配信に命を懸けるんですか?」


 勿論、配信者としてはマンネリ化などによる視聴者数の低下などを防ぐために、新しい挑戦をしないといけないとかの問題はあると思う。けど、それに命を懸ける意味があるのだろうか。例えば、配信者が少ないであろう名古屋ダンジョンに行ってみるとか、鎌倉ダンジョンに潜ってみるとかでもいいんじゃないだろうか。それを聞かなければ、真の意味では協力できない気がする。


「私が下層に挑むのは、探索者だから。それ以外の理由はないよ」

「……そうですか。納得です」


 なんだ……しっかりとイカレてる部分もあるんじゃないか。納得のCランク、かな。

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