第6話
個人的な気分でダンジョンに潜ろうと思っていたら、いつも通り探索者協会から依頼が来て、結局ダンジョンに潜ることになった如月司です。探索者登録名は「UNKNOWN」です、よろしくお願いします。
因みに、登録名称が「UNKNOWN」なのは、高校入学してすぐに4月に探索者資格を取って登録名称を書く欄を空白のまま出したからです。あほかな? 普通は空白で出したらそのまま本名にされるはずなのに、なんと当時の係員さんが気を利かせて「UNKNOWN」にしてくれました。恥ずかしいので改名したいですけど、職員さんみんなから呼ばれているので変えるに変えられないです。
「どうも」
「UNKNOWNさん、早かったですね」
「まぁ……学校から帰って着替えただけですから」
渋谷ダンジョンなんて駅の一番奥にあるけど、電車で登校してるから滅茶苦茶近く感じるのよね。
「依頼の内容ですが」
「フロストワイバーンって聞いてます」
「そ、そうです。42階層にフロストワイバーンが2体以上発見されたんです」
「珍しいですね……フロストワイバーンなんて60階層以降でもあんまり見かけないんですけど」
フロストワイバーンは一応下層のモンスターとして扱われているけど、深層以降の方が見かける頻度は高いと思う。まぁ、元々珍しいモンスターだから深層でもそうそう見かけないんだけども。
名前の通り中型の竜であるフロストワイバーンだけど、単体の強さ的に言うとBランク探索者がソロで挑んで勝てるかどうか、って感じだと思う。氷を自在に操る能力を持っていて、身体が氷点下の温度なせいで簡単に触れられない。どうやって氷点下の身体で生きているんだよと思うが、実際にそうなんだから仕方がない。
「それじゃあ、さっさと行ってきます」
「お、お気をつけて」
協会の職員に見送られながらダンジョンに入ると、相も変わらずに最上層はモンスターと探索者、半々ぐらいの確率で出会う。恐らく、日本で一番挑む人が多いダンジョンではあるが、探索者人口の半数が最上層にいると言われているだけあって、渋谷ダンジョンの最上層は人だらけだ。
俺の式神も、モンスターと見間違えられやすいから最上層みたいに人が多い所ではあんまり呼び出したくない。なので、中層ぐらいまでは刀一本で行く。
「ゲギャァ!」
階段を降りた先で、黒色の体色をしたゴブリンがこちらに向かって走ってきた。手に持っている鉈、ようなものを振り回している。
ゲームなんかでは最弱として出てきたりするゴブリンだけど、実際にこの目で見ると案外気持ち悪いな、という感想しか出てこない。血走った眼をギョロつかせながら鉈を振り回す姿は、普通に怖い。まぁ、探索者の身体能力は一般人のそれとはまるで違うので、適当に刀を振るうだけでゴブリンぐらいなら殺せる。
「ギィッ!?」
俺の身長の半分くらいしかない身体が、真っ二つに割れた。一応、深層で手に入れた素材から鍛えられた刀なのでゴブリン程度を真っ二つにするのは訳ない。
普段なら、ゴブリンがもう数体ぐらい襲ってくるのだが、今はダンジョンに人が多いから殆どゴブリンは狩りつくされてしまったかな。憐れ最弱種。
ゴブリンの死体が灰になって消えていく。ダンジョンのモンスターは倒されると何故か灰のようになって消えていくようになっている。モンスターによっては一部分が残ったりもするのだが、ゴブリンに残るのは魔力の結晶である魔石だけだ。
「ゴブリンの魔石ってこんな小さいんだっけ?」
久しぶりにゴブリンなんてまともに斬ったので、魔石の大きさにびっくりしてしまった。魔石は国の資源になるだけあって、国はグラム単位で値段を付けて買い取ってくれる。因みに、常に一定の価格ではなく、供給量によってグラム当たりの値段が変動する。当たり前だけど、ゴブリンの小さな魔石ぐらいでは大量に集めても生活ができるレベルの収入にはならない。正直、最上層でゴブリンだけ狩るぐらいなら、普通にバイトした方がいいと思う。命の危険もあるし。
まぁ、ゴブリンを安定して狩れるぐらいの実力があったら、探索者ランクはFになって上層に行けるようになるから、そうすればある程度は稼げると思うけどな。
「はぁ!」
「そっち行った!」
「ゴブリン3体来たよ!」
こうして最上層をじっくり見ながら歩いていると、やっぱり俺と同年代ぐらいの少年少女が多い。まぁ、高校生なら集団でゴブリンと戦うのがやっとみたいな人も多いだろう。魔力だって、使えば使うほどに鍛えられるなんて言われてるしな。
実際、魔力は急激に上昇する人もいれば緩やかに成長し続ける人もいるらしい。生まれつき魔力が低くて、高校生の時には探索者資格が取れるラインまで達していなかったと人が、30代になる頃にはCランクを超える魔力を持っていた、みたいな話があるぐらいだ。だからと言って、高校生で才能に溢れた人がそれ以上成長しない早熟型かと言うと、そうでもないのが現実なんだけどね。
最上層には殆どゴブリンしか出てこないけど、上層との境目付近である10階層には、ゴブリン以外のモンスターも出現する。スチールアントと名付けられた巨大な蟻が出てくる。巨大と言ってもゴブリンより小さい40センチぐらいの蟻だけど、とにかく殻が硬い。ただ、硬いだけで顎の力もそんなに強くないから、精々がちょっと血が出る程度で、蟻酸を吐いてきたりもするがこちらも少し肌がかぶれるぐらい。ただし、探索者のように魔力を一定以上持っている奴は、だが。
単純に、魔力を多く持っていると生物としての硬度が上昇する。どういう理屈か分からない人も多いけど、下層まで潜るような探索者はその硬度を自在に変化させることができる。まぁ、身体に魔力を纏わせているだけなんだけども。
「お、蟻」
10階層を歩いていると、前から2匹のスチールアントがいた。まだこちらに気が付いていないが、10メートルぐらいまで近づけばすぐに気が付くぐらいの気配察知能力はある。ただ、俺にとって10メートルなんてのはコンマ1秒以内に詰められる距離だ。
並みの武器では刃が通らないスチールアントの殻も、豆腐のように切断できるのが俺の愛刀。因みに銘は無し。
スチールアントは硬い癖に殻の胸部分しか残らないので大した金にならない。その殻も二束三文だしな。持ってきた袋に魔石と殻を適当に放り込んで、中層を目指して行こう。
上層まではダンジョン探索者としてまだ未熟な人間も多いので、あんまりモンスターは狩らない方がいいだろう。俺がその気になれば、数分以内にその階層のモンスターを全滅できてしまうからな。まぁ、それをするには式神を召喚する必要があるんだが。
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