第3話 魔物現る
「草原はここだよ。採取する薬草は分かる?」
掲示板貼ってあった依頼書には名前とイラスト、特徴などが記載されていた。多分、大丈夫だろう。大丈夫じゃなくても、これ以上、レオンに世話をかけられない。
「そっか。ここはあまり魔物も出ないけど、森も近いから気をつけてね」
「ありがとう、ございました」
ペコっと頭を下げると、レオンは爽やかに手を振り森の方へと去っていった。
さて、薬草採取だ。
探すのはチムス草。
「青紫っぽい小さな花をつけるって依頼書には書いてあたけど」
ここはひとつ、鑑定魔法を使ってみよ。どうやるのか分からないけど、とりあえず叫んどく?
やっぱ恥ずかしいから、心ん中で。
チムス草、鑑定!
おお、なんかあちこちに光ってる場所がある。
チムス草ってこれか。
チムス草に触ると、頭の中に情報が流れ込んできた。根本から3センチ上を切ればいいのか。
ハサミもナイフもないのでプチっとちぎる。アイテムボックスへしまい、別の光る場所へ移動。次々に採取する。地味な作業だが、慣れてくると素早くできるようになる。
「結構楽しい……」
20本ほど採取したところで休憩しようと立ち上がった瞬間、腰に痛みが走り、つんのめってこけてしまった。
ださ……
苦笑いで起きあがりかけた時、頭上を大きな影が飛んでいった。
なになに。
転んだ体勢のまま顔だけ上げると、イノシシみたいな大きな獣だった。大型トラックサイズの巨体が地を揺らし、鼻息荒く駆け回っている。幸い、こちらに気がついてない。
何だかわかんないけど、やばいな。逃げたいが、見つかって追いかけられたら逃げきれないだろう。
あ。いつの間にか逃げ遅れた女性冒険者がイノシシに追いかけ回されていた。逃げ回る女性冒険者が疲れてきたのか、追いつかれ体当たりされそうになる。そこへ誰かが飛び出してきて、間髪を入れず、女性冒険者を庇ってイノシシの牙に突かれた。血飛沫が飛ぶ。
助けに入った人が体勢を立て直すのを見ると、冒険者ギルドで世話になったイケメンだった。
立ってはいるが、剣を持つ手に血が滴っている。肩に牙が当たったのか、シャツが破れ、赤い染みができていた。
痛そう……
と思った瞬間、脳内にファンタジー小説御用達の回復魔法が思い浮かんでくる。
「……ヒール?」
ぼそっと呟くと、口元から光が溢れ出し、イケメンの方へ飛んでいく。その光にイノシシが俺に気付いたのか、くるりと向きを変えこっちに向かってきた。
猪突猛進じゃないのか!
逃げたいのに腰が抜けて、立つこともままならない。あわあわしている間にもイノシシはどんどん近づいて来る。
巨体が迫り、恐怖に目をぎゅっとつむる。
もうダメか……やっぱり、 異世界なんて最悪じゃん。こんなところに来なければ、今頃ファンタジー小説読みながらごろ寝できてたのに。
異世界は来るところじゃない。他人ごととして読む方がずっとよかった。
あの神様さえ来なければ……
グチグチ考えていたが、一向に痛みはやって来ない。思い切って目を開けると、風にたなびく金髪と血が染みた背中が目に入る。
「はぇ?」
「イッチ、ケガはない?」
間抜けな俺の声に振り返ったのはイケメン。砂埃を浴びても地に汚れてても美形は美形なんだな。
「イッチ?」
「あ、うん……大丈夫、です。イノシシは、」
「イノシシ?」
首を傾げたイケメンの背後に巨体は転がっていた。イケメンの肩を刺した牙が生えた頭は地面から生え、天を向いている。あんな大きな首が落ちてるっておかしくないか。
「頭……」
「頭を打ったの?」
「違う、あいつの頭が……」
必死で転がるイノシシの頭を指差すとイケメンが納得したように頷いた。
「グレイトボアの頭がどうしたの?」
イノシシじゃないのか。
「首、落ちてる……」
「うん。イッチのお陰で討伐できたよ」
イケメンがにっこり笑ったけど、俺、何もしていませんが。
結果的に囮になった的な感じか?
首を傾げると。
「さっき、治癒魔法をかけてくれたの、イッチでしょう? 助かったよ」
「俺の方こそ、ありがとうございました。助けてくれて」
頭を下げお礼を伝えると、レオンはにっこりと笑顔で手を差し出してきた。
「ねぇ、イッチ、僕とパーティ組まない?」
「は?」
差し伸べられた手を取るか、否か。
獣の返り血さえも彩りでしかない綺麗な微笑みを断ることはできそうにない。
ーー恐る恐る触れた優しいその手が震えていた意味をこの時の俺はまだ知らなかっ
異世界転移も勇者もお断りです〜イッチとイケメン〜 ねこや @alice0507
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