第七話 棘
俺たちの間に挟まれた瑞希はしびれを切らした。
「二人ともやめて」
瑞希は正面のスクリーンから目をそらさずに言った。
視線を感じて前を見ると、前方から郷田がこちらを
俺は仕方なく口を閉じた。溝口もペロッと舌を出して郷田の視線をやり過ごしている。
瑞希はというとスクリーンに映し出された内容を手元のノートに書き写していた。瑞希が下を向いたとき、はらりと髪が垂れる。彼女はそれを耳にかけ直した。不意にのぞく横顔にドキリと胸が跳ねる。
今話すのはやめておこう。俺も前を向いて委員長の話を聞くことにした。
体育祭当日の段取りについて説明が終わると、各自解散となった。
「陸上部は楽そうでいいね」
「はっ、サッカー部だって当日の朝と夕方に器具の準備するだけじゃねーか。そっちのが楽だろ」
「でも消えかかったライン引くってだけで、当日のほとんどテントの下でしょ? 基本的に一般生徒は炎天下に
いつまでも溝口との口論が
視聴覚室から教室までの間、俺は溝口との睨み合いで終わってしまう。数歩前を歩く瑞希は歩と何やら楽しそうに話していた。
「それじゃあ、また部活でね」
教室前の廊下に到着すると、瑞希はそう言って俺の目を見ることなく教室へ入っていく。少し寂しい気持ちになっていると、溝口がしたり顔で俺を見た。
「じゃ、僕も
そう言って瑞希の後に続く。わざと瑞希のこと名前で呼びやがって。
「町田くん、また部活の時間にグラウンドでね」
今日は陸上部とサッカー部が一緒にグラウンドを使用する日であることを思い出した。陸上部が引いたトラックの内側をサッカー部が使用する。視界の隅に溝口がちらつくと思うと不愉快な気持ちになった。
嫌なことを思い出してしまったことで自然と
「相変わらず犬猿の仲だねぇ」
俺についてきた歩は苦笑いしていた。
◆◆
高二の秋。陸上部の部長に指名された後、生徒会から各部の部長を集めた説明会に召集された。
なんてことはない。部活動に対しての諸注意や、決まりごとについての改めての周知だった。
少し遅れて多目的室に入ると席はほとんど埋まっており、生徒会の役員が書類を配っていた。俺は慌てて席を探し、
「まだ始まってないから大丈夫だよ」
俺の様子に気づき、隣の席にいた男子生徒が声をかけてくれる。
ニコリと笑った彼は俺が見てもイケメンだなと思う顔立ちをしていた。彼の前に置かれた札には『サッカー部』と記載がある。
彼は俺の顔をしっかりととらえていた。初対面なのに俺の目つきにビビらないことに少し驚く。そして彼の面倒見のいい対応に感心した。
うちの学校のサッカー部は県内でも有名な強豪校だった。部員数もけた違いで、陸上部の三倍近くいる。
彼の面倒見の良さは、さすがサッカー部の部長と言ったところだろうか。部員をまとめるコツなどがあれば、聞いてみたい。俺はどうも後輩に距離を置かれている気がするのだ。
説明会が終わった後、俺は溝口に声をかけた。
俺の言葉を聞いて溝口は一瞬目を丸くした。俺の真剣な表情にふっと鼻で笑う。
「へー、真面目じゃん」
俺は有効な方法を教えてくれることを期待して、次の言葉を待った。
「でもそういうのって自分で考えたほうが身になるんじゃない。ただ走るだけじゃなくてもっと頭も使ったら?」
溝口は嘲笑しながら俺を見た。意外な言葉が飛び出したため、俺は虚を突かれた。コイツの甘いマスクはただの
「まあ一つ言えることは、陸上部って部長が恐そうってみんな言ってるから、まずはそこから改善してみたら。とくに表情とか目つきとか」
「これは生まれつきなんだよ」
「生まれつきだからって、努力しないのは違うよね? あんたさ、人間は生まれてから何も変化や成長はしないっていうわけ?」
なにも言い返せない。
溝口はその様子を見て肩をすくめた。
「僕、そういうやつ嫌いなんだよね」
そう言って彼は多目的室を出ていくと、廊下で待っていた後輩に声を掛けられていた。その瞬間にはまたいつものやわらかい表情に戻っている。
溝口が放った言葉は俺の胸に
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