第2話 ドロシイ、ブリキとカカシとレオンに出会う


 なずみ椎名しいなは周りをキョロキョロと見渡すけれど、今まで知っているものは何一つなく、聞いたことのないような鳥の声や虫の声が聞こえてきて、ますます不安になってしまった。


 しょんぼりとして、とぼとぼと歩いていると、目の前の茂みがざわざわと動く。

 なんだろう……ドキドキとスカートのひだを握っていると、灰色の髪の少年が飛び出してきた。


「あー! ドロシイ、探したんだぞ!」

「待ってよ、ブリキ! いきなり飛び出したら危ないよ!」

「そうだよ! この“小さな森”にはスライムや大ナメクジだっているんだよ!」


 灰色の髪の元気な男の子の後ろから、金色の髪のおどおどした男の子、茶色の髪のメガネをかけている男の子が現れた。


 ドロシイ? 今わたしのことをドロシイって呼んだ?


 泥子どろことか変なあだ名を付けられることがある私の名字。

 どろと椎名のしいでドロシイと愛称を付けてくれたのは大切な――ええと、誰だった?


 やさしく髪を撫でてくれた手、いつも楽しそうに色んな物語を教えてくれた――

 あれ、何か大切な事を忘れているような……?

 

 いきなり茂みから飛び出してきた3人の男の子に驚いていると、一番最初に話しかけてきた“ブリキ”と呼ばれた灰色の髪の男の子が、手を差し出してきた。


「探したんだぞ! 今日ははじめて冒険に出かける日だ! 冒険者ギルドに行ってクエストを受けよう!」

 ブリキのキラキラした瞳はとても楽しそうで、その手を取った。


 そうだ、私はドロシイだ。なんで忘れていたんだろう。

 ブリキとレオンとかカカシの三人で、冒険に出掛けるはずだったのに。


 ドロシイは何か忘れているような、妙な引っ掛かりを“どこか”に忘れたまま、三人の男の子たちと一緒に小さな森から出ていった。



 こうして、“悪い魔女”を退治できなかったドロシイの物語が始まったのだ。




 

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