ドロシイと不思議な冒険
弥生
第1話 泥椎名、不思議な世界に迷い混む
「
はじめての小学校。
珍しい名字だからとなんでそんな事をいわれないといけないのだろう。
どろじゃないもん。……なずみだもん。
泣いちゃダメだ。傷ついているってわかると、よけい他の子たちも面白がる。
ぐっと唇に力を入れて涙が溢れない様にする。
泣くな。泣くな。
おじさんたちに心配かけたくない。
重いランドセルを持つ手に力を入れる。
「名字は、大切な両親からの贈り物だもの! 聞いたことがないからって、存在しない事にはならないわ!」
わたしを笑っていた同じ小学6年生の女の子たちは言い返されたのに驚いたのだろう。もう知らない! と掛けていった。
あーあ、またやっちゃった。
読んだ本に書いてあった『存在しない事を証明するのはむずかしい』って事をつい言ってしまった。
『椎名は小さな学者さんだね』
言い返さないと気がすまない性格は、あまり可愛くないとはわかっている。
でも、譲れないものがあると、つい話してしまう。
『私たちのドロシイ。ほらオズの魔法使いのお話をしましょう』
昔名前にどろがつくのがイヤだと両親に言ったら、それなら名前の文字と合わせてドロシイなんてどうかしら? とお母さんが付けてくれた。
とぼとぼと歩いて行く。もうおじさんの家に帰らないと、心配を掛けてしまう。
椎名はオズの魔法使いという物語が大好きだ。
それぞれ大切なものが掛けている仲間たちと一緒に冒険に出かける物語。勇気や知識、心だって旅の途中で育てていくのだ。
ランドセルにつけたイヌのキーホルダー、トトを撫でる。
私は大丈夫。だって両親が愛してくれたドロシィだもの。
歩き始めた所で強い強い風が吹いた。
椎名はビックリしてしゃがみこむけれど、風が髪を揺らしてくるくると椎名を中心に強く巻き上がる。
はげしく揺れていたキーホルダーのトトが、ランドセルから外れて空に舞う。
椎名は慌てて手を伸ばしたけれど、その時にはすでにどこにも見えなくなっていた。
風が
椎名はきょとりとして周りをみわたす。
さっきまで歩いていた帰り道、車がたくさん通る大通りや、電信柱。お店や自販機も何もない。
風が終わると林のようなところにポツリとひとり立っていた。
「どういう事?」
目を擦っても、草や木がたくさん生えたままだ。
どうやら椎名は、不思議な世界に迷いこんでしまったようだ。
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