第8話 再会

 仕事で金融機関の課長さんと会話をしていた時に、とある企業の名前を出した時のことだった。その会社では数年前に経営破綻して潰れてしまっているが、その前はそこそこ業績が良く、株価なども上昇傾向にあって、いわゆる優良企業の一つであったようだ。

 その時は、取引先の相手ということもあり、「ああそうなんですか」としか言えなかったのだが、マイカの母親もそこで働いていたため、思い切ってマイカのことを聞いてみた

「分かりませんね」

と言われてしまったが、隣にいた部下の男が

「マイカさんって、金髪の方ですか?」

俺は目を見開く。知っているのか? 男は、マイカとは知り合いで、高校の同級生だと教えてくれた。そして、彼女が今どうなっているのかも。彼女は大学を中退して今は小さなパン屋でパートをしているらしい。それから

「四年前……子供を産んだとか言ってたな」

俺は、目が揺らいだ。息が止まるかと思った。いや止まったかもしれない。

目の前にいる男も驚いており、

「まさかと思いましたよ。あの人がそんなに幸せになってるとは思ってませんでした」

と言って笑っていた。俺は上手く笑えていなかったと思う。そして俺は、

「その子に会いたいです ……マイカに会いたいです。俺の大切な人です」

と言ったのだ。すると彼は

「お子さんは親戚に預けさせられたとか言ってたので……お子さんはどこにいるか分かりませんけど、彼女なら会えますよ。多分ですが。連絡とりますね……久しぶりだからなぁ」

とブツブツ言いながら彼は連絡を入れてくれた。


 数日後に、彼が 今日空いているかと聞いてきたので、ちょうど休日だったので会うことになった。彼と会ったのは喫茶店。フルーツパイが美味しいとのことだった。

 注文をしてすぐに本題に入った。まず、彼から私の子について色々聞いてきた。

 大学生の時の彼氏との間の子供を一人で産んだが、両親が仕事をしていらこと、私も有名な大学に通っていたことも、両親に見放せられるのも怖くて、泣く泣く、産みはしたが、育てるのが怖くなり親戚の方に預けた。私が

「どうして子供のことを聞いてくるの?」

と言うと、彼は目を少し伏せて

「……あい、たい?マイカは……会いたい?その子供……」

私はその言葉に困惑する。

「その、後、親戚にたらい回しにされていたらしい。多分だし、遺伝子鑑定をしたわけじゃないから……でも、会ってみてほしい。すごく、君に似ているんだよ」

私は強く頷く。彼は彼のご両親と違う店にいるという子供を連れてきた。

「ケイマ……って名乗ってて……」

私の前に彼が再び現れた時、子供も一緒にいた。本当に私に似ている。私が産まれたばかりの抱っこしていた赤ちゃんだと、確信してしまうくらいに似ていた。そして、私が名付けた名前と一致していた。

ケイマは私にあまり興味がない様子だった。それに、無口だった。あまり喋らない。でも

「安心する……ような気がする」

私は涙が出てきた。それからジュンが続けて言う

「マイカの遺伝子と一緒か、検査したい」

私は、また強く頷いた。

 雪は溶けたらしい。春らしい光が外を照らしている。

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