第6話 ご馳走
もう、ずっと昔のこと。
「近くの別荘にマイカちゃんって言う子が、引っ越してきたみたいなんだけど一緒に挨拶に行きましょ」
とほとんど強制的に母親にその別荘に連れてこられた。
俺の家は別荘というよりは小さな小屋というか……小屋ではないが、まぁそんな感じの家だ。別荘だとは言っても良かったが、なんだか別荘に申し訳ないくらいの小さな家だった。
一方のマイカの家は完璧な別荘だった。学校の通学路で通っている道だったが、気付かない小道を歩いてその別荘があったものだからびっくりした。ニューズト大陸のもっと上、北半球あたりから来た移民の人が作ったのであろう。洋館という言葉の方が正しいのかもしれない。
玄関前には白い雪が降り積もっている。ドアノブを回しても動かないので、母親が窓をコンコンと叩いた。すると、家の中のカーテンが開いて女の子が顔をのぞかせた。濃い青い瞳で金髪でスタイルが良い。その子が俺達の方を見つめて、待っててというジェスチャーをしていたので、しばらく待っていると
「あ、ごめんなさいね、わざわざ」
マイカの母親であろう人が出てきた。マイカも出てくる。二人とも温かい格好をしていた。マイカの母親も美人で、且つ出来る女という感じがする人だった。
「ここら辺で一番近い家は私たちの家になると思うので、どうぞよろしくお願いします」
母親が挨拶をすると向こうも挨拶をする。それから
「私、マイカっていうの。どうぞよろしく」
活発な印象を持つ声だった。
「俺は、ジュン。こちらこそ」
一匹狼の気質が若干あった俺は、どう接したらいいのか分からず、マイカの目を見れずにいると
「ね、好きなことは?私はね、料理を食べるのが好き!作るのも得意なのよ!」
「ほう、すごいな。俺はミートパイしか作れない」
「今度、ご馳走作ってあげるわ!」
マイカを見た。本当に可愛らしい子。一緒にいて元気になりそうだと思った。
「じゃ、俺のミートパイも食べてくれよ。美味しく出来るか分かんないけど」
するとマイカはニコっと笑って返事をした。
次にあったのは、ご馳走をマイカの家に食べに行った時。俺とマイカの二人でテーブルを囲んだ。マイカの両親は仕事をしてたため、今日は帰ってこないとのことだった。成人していない子供のマイカが夜一人ではと心配した母親が、夕ご飯は俺の家に行って食べて、マイカには部屋を貸すからとマイカに言ってほしいと言われたので、そのまま伝えると
「ほんとごめんねー!お願いするかも!」
「いや、『かも』だと俺も心配だからお願いでお願い」
俺はそれを言って何を言ってるのか分からなくなってしまったが
「お願い!」
彼女は下手くそなウインクをしてキッチンに向かったので、俺はそれについて行く。
「よくキッチンの使い方わかったね。そのコンロとかさ、北半球あたりのだと思うからさ、ここらじゃ見ないというか」
俺がゴニョゴニョして言うと、マイカは目をキラッとさせて
「ふっふーん。勉強したもん。料理って面白いよね」
マイカのエプロン姿はとても新鮮で思わず写真を撮りたくなってしまうほどに魅力的だった。
マイカの手料理を食べさせてもらったのは初めてだが、すごく美味しかった。
テーブルには、パスティとソーセージロールと俺が持ってきたミートパイが並んでいる。飲み物はホットワインなどのお酒はまだ子供なので飲めないからジュース。そして、チーズケーキ。俺達は、それらを食べたり話したりしながら過ごした。
マイカは、寂しい思いをしていたと思う。料理を覚えたのも自分が両親が帰ってこない時のために飢え死にしないようにと叩き込まれたのだろうと想像がつく。
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