第5話 無邪気な子供のように

 ケイマは少しずつ食に対して興味が出てきたらしい。俺の部屋もちゃんと綺麗になって、俺も料理もほんのすこーしだが出来るようになった。作れる料理は母親が教えてくれたミートパイか冷凍食品くらいだけど。

 ニューズト大陸の都心の街中を覗いてみると、様々な国の料理店があると言うことをケイマと一緒に歩くことで気付くようになった。移民により数多くの食文化が持ち込まれた歴史から、世界各国の料理に慣れ親しんでいる自分に納得が出来た。

 俺は肉料理を沢山食べて育っていたからなのか、子供の頃はラム肉やソーセージが好きではあったが、都心は港に近い位置にあり仕事仲間達とシーフードや魚料理を食べることも多くなった。

 年末年始に冷やした牡蠣や海老をオーロラソースで食べる習慣がある。水揚げ後、すぐに海水でボイルされるキングプローン海老は甘さが凝縮されとても味わい深い。フィッシュマーケットではサーモンやマグロなど刺身の柵も取り扱われ、醤油やワサビとともに切り分けて提供してくれるので、ケイマを連れて買いに行くこともあった。

「美味しいですか?」

ケイマのその言葉が楽しみで、いつも買ってしまう。


 冬のニューズト各地では期間限定のスケートリンクが貼られる。初恋相手のマイカとも一度だけ一緒に滑ったなと思い、ケイマを誘ってみた。ケイマは少し興味があったのか、テレビで見たことがあるのか

「行きます」

と言うので行くことになった。

ただ、寒いところは嫌いみたいだったので、スケート場は室内にして防寒着を着たままでも遊べる場所にした。俺自身はスケートをしたのは新社員の時の数年前だったから、上手く滑れるかは分からないがケイマの滑りを見て笑ってしまった。なんというか、不器用でよちよちしていて……滑れていないわけではないのだが、なんだか可愛いと思ってしまった。俺も子供の頃はこんな感じだったんだろうな。

帰り道に、ケイマが俺に聞いた。

「どうして、僕を引き取ってくれたのですか?楽しいをもらってばかりで」

まるで子供と話しているような感じがしない。六歳でもこんな会話が成立するのかってくらい。

「もう少し子供らしく、無邪気でいなよ。そっちの方が楽しいと思うよ」

俺はケイマに言ってみた。ケイマは何にも反応しなかった。何か気に障るようなことを言ってしまったかな……。

ケイマの本当の両親が誰か分からないが、どこかの金持ちの息子で育てられなかったのではないか。そう思っているが、それを聞いたらこの関係が終わるように感じた。もしかしたら授かってしまった子供だったのかもしれないし、俺はどうすることも出来ない。ただ、ケイマが大人すぎて、子供なのに子供のフリをする理由を知りたかっただけなのに、それは地雷だったらしい。俺は謝っておいた。

俺はケイマの過去について聞かなかった。知りたいが聞けなくなってしまった。

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