第2話 少年
次の日は仕事が休みだったので、実家に帰った。実家はここから車で三十分くらいのところにあるホームタウンだ。
「……引き取り手がないと施設には入れないのか?」
ジュンは施設の知識はあまり知らない。どんな生活をするのかも詳しくは知らなかった。映画でたまに孤児が主人公のやつだとか、孤児が引き取られて生活したりだとかのものは見たことあるが、実際は分からないのだ。
両親は申し訳ないようないようで、俺に何度も頭を下げながら謝る。
「……分かったよ」
両親の困った顔を見ると、ジュンは断れない性格なのだ。
ジュンは車に乗り込んだ。助手席には少年がいる。少年とはいったって、まだ小学生にもなっていない子らしい。
名前を聞くと、子供の独特の高い声で「ケイマ」と呟く。今のところ大人しそうな性格だ。白肌は外に出ていないからなのか、透き通っているように見える。金髪はシルクのようで綺麗。だが、細すぎる。栄養が体に周っていないんじゃないか?と思うくらい。
年齢は「六歳」と本人は言っているが、俺には四つか五つくらいに見える。その年齢がもし本当ならば、春に小学校に入れる必要がある。
近年、この大陸全域で全ての人に教育をという目標を政府が掲げていて、六歳には小学生。つまり小学校に入れなくてはいけない。それは孤児も同じ。ただし、その手続きを俺一人で……。俺はそこまでの面倒を見れる自信もないし、施設の引き取り手がその頃には見つかるだろうと楽観視していた。
車の中で、ケイマはうたた寝をすることもなく前を真っ直ぐ向いていた。まるで将来は軍隊にでも入りそうなほど、しっかりとしている。
車は田舎道を進む。道端では雑草が揺れていた。
「この辺は何も変わってないな」
ふと、懐かしさを感じる。子供の頃はよく遊んでいた場所だ。
初恋の女の子ともこの道を歩いた。
スキップをしながら彼女は今日あったことを色んな表情で話していた。
いつも髪はおろしているか、一つに高い位置で結んでいた。
二十四までは実家で暮らしていたので、俺は今一人で暮らしているんだと改めて気付かされる。
ケイマを見る。初恋の女の子と同じ濃い青い瞳の色をしていた。その瞳は人を吸い込むような魅力がある気がする。髪色もケイマより少し色素がとれた金髪。
不思議に思った。色んな人にたらい回しされて生活されているのだろうかとも考えた。親に捨てられたという理由が一番考えられるのだが……。
俺は車を走らせながらそう思った。
「ケイマ……苗字分かる?」
家に入れるなり、散らかった部屋にケイマを入れた。ケイマは何も言わずに俺が座れと言うまで座らずにリビングで立ち尽くしていた。
「苗字は変わるから、本当のは分かんないけど……この前預かっていた人はケイマのお母さんの友達だったって言ってたから分かるんだろうけど、死んじゃってて」
複雑な子だなと改めて思う。苗字が分からないと役所で手続きができないし、これから先どうしようかと考えてしまう。てか、手続き必要なのだろうか?施設が見つかるまで引き取る場合はどうなのかとかよく知らない。
「何か食べたいか?」
「いえ、お気になさらず」
気になるも何も、ケイマは細くてまともに食事を与えられていないような見た目をしていた。
「言葉とか、丁寧だけどどこで覚えたんだよ」
「えっと……テレビかな」
「へぇー、最近の子供はすげーな」
俺がガキの頃はテレビゲームばっかやってたくせに。
「あ、あと、僕が喋ると変に思われると思うので……あんまり話しかけないでください」
「え?そう?」
「そう、言われていたので」
俺はケイマが言っていることに相槌を軽くして、冷たい部屋を暖かくするために暖房をつけた。
「スナック菓子しかないや、これ食べて」
俺は、スナック菓子三個パックを渡した。あまり散らかっていないキッチンの床に座って食べるように言って、ケイマは大人しくスナック菓子を食べはじめた。
俺はその間に部屋の掃除をする。せめて今日中にでもリビングくらいは人が入れられるように片付けてはおきたかった。
仕事とこの子の面倒を両立出来るか正直不安で、自分の気まぐれを少し恨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます