開門3
門の先へと行くと、そこには森が広がっていた。
外は夕方のはずだったのに、昼間のような明るさをしていた。
鳥もさえずり、日本のどこかの原風景といった雰囲気だった。
「助けてーーっ!」
先程呼んでいたのと同じ声がした。
こえの方を見ると、私と同じくらいの歳の少女がいた。
野良犬のように見える、四足歩行の動物と睨み合っている。
少女は私に気づいていないようで、野良犬と自分の足元を交互に見ている。
「この魔法陣が発動しないのーーっ!」
そういう少女が立っている少し前の地面には、何やら文字のようなものが書かれていた。
旧字体の草なのか?
見たことないが、漢字の草のように見えた。
「この魔法が出てきてくれないのーっ!」
女の子は半分泣いている感じだった。
一方、野良犬の方は可愛らしくシッポを振っていた。
なんとなく、じゃれつこうとしてるだけに見える。
撫でてやれば、なつきそうなんだけどな……。
犬はこちらを一瞬チラッと見て、ワンっと吠えた。
そうした後で、また少女を向いてしまった。
やっぱり可愛い犬なんだけどな。
野良犬が私を見たときに、少女も一緒になってこちらを見て私の存在に気づいたらしい。
少女は、犬との膠着状態に困り果てたようで、志村君と同じようにこちらに助けを求めてきた。
「ここに書いてあるのわかる?」
この子、初めて見る子だけど、私のこと知ってるのかな?
漢検一級取った時は、全校集会で表彰されたんだよね。
それが私の自慢だったりして。
私に漢字を聞くって事はそうだよね。
「早くっ!」
助けを求められることで悦に浸ってる場合じゃないね。
人助けと思って答えてあげるよう。
「初めて見る字体だけど、多分草冠が足りないです」
「草かんむり?」
あれ? 志村君と一緒だな……。
漢字は部首から覚えるのが基本だよね……?
漢字の魅力を分かってないのかな?
ちょっと残念に思ったけど、教えてあげよう。
「その字の上の方に草冠っていうのが足りなくて。長い横棒一本と、短い縦棒二本を書くあの部首です」
そう教えると、女の子は志村君と同じく、丸い目をして納得したようだった。
草という字を完成させると、文字が緑色に光った。
色は違うけど、正の字や門、開の時と同じだ。
女の子が手に持ってた杖を草の字に当てて大きい声を出した。
「草よ、生い茂ってくださいーー!」
そう言うと、地面に生えていた草がどんどん背丈を伸ばしていった。
……えぇぇ!! 植物が一瞬にして育つの?
凄い光景だよ、これ!!
私が驚くと、野良犬も一緒に驚いたようで、どこかへ行ってしまった。
「ワオン……」
野良犬の後ろ姿は、もうシッポは振っていなかった。
「ふぅ……」
女の子が一仕事を終えたように息を吐くいて、地面の魔法陣を消していった。
すると、草の背丈は元に戻った。
何のマジックだろう。
凄いものを見せてもらったなぁ。
感心していると、少女がこちらに近づいてきた。
「助けてくれてありがとう! 私はシズクっていいます。水魔法から付けられた名前なの。あなた、魔法陣が得意なのね! 名前は?」
「私は笹森アザナっていいます。名前の由来は、お父さんとお母さんが字が好きな子になるようにって、付けてくれました」
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