開門2
全ての授業が終わると、それぞれみんな部活へと行く。
ざわざわと騒がしかった教室も、段々と静かになっていった。
今日の日直は私なのだ。
黒板を綺麗に消して、さらに雑巾を使って黒板を綺麗な緑色へと戻すのが日直の仕事。
雑巾で丁寧い黒板を拭いていく。
志村君、筆圧濃いな……。志村君が書いたところだけ全然消えないよ……。
何回も雑巾を濡らしては、黒板を拭いてと繰り返した。
やっとの思いで黒板を綺麗にした時には、教室には誰もいなくなっていた。
「志村君、恩を仇で返すなんて……」
最後に、黒板消しクリーナーでチョークの粉を払う。
黒板の下の部分、粉受のところも雑巾で綺麗にしていく。
これも完璧にして、日直の仕事は完了。
黒板は『字』を書くところだから、私は手を抜かずに綺麗にしてあげたい。
粉受を端の方まで綺麗にしていると、見慣れないチョークがあることに気づいた。
「何だこれ……?」
手に取ってみると、チョークだと思ったがチョークと呼ぶには細かった。
枝の先の部分のようにも見えた。
白色をしているので、白いチョークが細くなっただけかな?
けどこれ、ちゃんと書けるのかな?
書けないチョークは捨てちゃわないと……。
せっかく黒板を綺麗にしたのだが、試しに端っこに書いてみた。
『正』
白いチョークと同じ色でくっきりと書けた。
試し書きするときは『正』って決めている。
綺麗に書けるし、正しいって書くと、正しいことをしているみたいでなんか気持がいい。
よかった。ちゃんと書ける。
正の字が、黒板に白くくっきりと浮かび上がっている。
やっぱりカッコいいな、『正』の字。
少し見とれてしまった。
……あ、消さなきゃ。
そう思って、粉受の逆端においていた雑巾を取りに行く。
雑巾を持って、正の字の前まで来ると正の字が無くなっていた。
「……あれ? おかしいな?」
あんなに綺麗な正の字だったのに……。
私、疲れてるのかな……?
なんだか不思議だな……。
まぁいいか……。
明日の日直を書いて、仕事を終わらせちゃおう。
明日は、志村君が日直だよね。
日直を書く場所が黒板の右下にある。
そこにまず、志村の『志』の字を書いた。
志の部首は『心』。
上の『士』の部分は足を一歩踏み出す様を意味しているらしい。
心に向かって一歩踏み出す。
心が向かうところ。
そんなことから成り立つ漢字。
あいつ、名前はカッコいいんだけどな……。
――助けて。
いきなり頭に声が響いてきた。
「え? なになに……?」
驚いて周りを見渡しても、教室の中には誰もいなかった。
夕暮れ時が近づいてきているようで、オレンジ色の光が教室の中に入ってきていた。
ただただ、静かな教室であった。
……私、やっぱり疲れちゃってるんだ。
金曜日までよく頑張りました、私。お疲れ様。
土日はゆっくり休もう。
――誰か、助けて。
……あれ。やっぱり声が聞こえる。
――門を開けた、すぐ外。
きょろきょろと周りを見ても、やっぱり誰もいない。
どちらかというと、黒板の方から声が聞こえてくるような気がした。
こっちなの……?
黒板の方を見ても、ただ綺麗な緑色のキャンパスが広がっている。
門を開けた外? どうしたんだろう。
困ったときは、私は漢字を書いてみている。
そうしないと、気持が落ち着かないのだ。
紙も何もないか……。
やっぱり書かないと落ち着かない。
綺麗にした黒板に漢字を書くことにした。
門
せっかく綺麗にしたけどまた後で綺麗にしよう……。
どうせ書くならと、黒板を上から下まで大きく使って『門』の字を書いた。
先ほどから手に持っている不思議なチョークは、粉が落ちずに使いやすいかった。
書き終えてみると、『門』の字が白く光り始めた。
『正』とか『志』の時と同じだ。
――お願い。早く誰か来て。
声が段々と大きくなる気がした。
急がないと。
開
大きく書いた門構えの中に付け足して、『開』の字を書いた。
門を開ける。
こういうことだよね。
書き終わると、『開』の字のちょうど真ん中に亀裂が入った。
その間から光がこぼれてくる。
開くの字が、ちょうど門のように開いてく。
門を開くような低い音を立てて、ゆっくりと。
――誰か! 早く!
声が強くなるのを感じた。
きっと、この先だ。
私は迷うことなく黒板の光の中へと飛び込んでいった。
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