異世界の扉、開門!

米太郎

開門1

 黒板に書かれた文字は全てが漢字。

 白いチョークで強く書かれているので、くっきりと漢字が浮かび上がっている。


 今日の国語の授業は、漢詩を習っている。

 学ぶにあたって、実際に字を書いてみることで当時人の気持ちを考えてみようと先生は言っていた。


 黒板の前では、先生から指名された志村君が一生懸命漢字を書いている。

 漢字を書いている途中で一瞬こちらを見たが、また黒板の方に体を向けた。


 チョークの音を立てながら次々文字を書いていく。

 気持ちの良い音が教室内に響く。

 私はそれをボーっと眺めていた。




 ――何気なく使っている漢字って、実はすごいんだよね。

 漢字を作っている一つ一つの『部首』が意味を成している。


 例えば、草冠の漢字。

 草に関連する言葉がそれにあたる。

 読み方がわからなくても、何か草に関連することを意味してると分かる。

 逆に考えれば、何か草を表そうとすれば、草冠を付けた漢字を連想すれば正解が導ける。


 他にも、『さんずい』は水に関連しているし、『にすい』は氷に関連している。

『冬』や『寒』という字は、部首こそ違うが、二つの点が氷の意味合いを持っている。――




 そう考えているうちに、角刈りの頭の志村が、漢字を全部書き終わった。

 おそるおそるこちらを向いたと思うと、少し近づいて小声で聞いてきた。


「笹森、間違っているところがあったら教えてくれな」


 私は一番前の席にいるけど、別に志村君と仲が良いわけではない。

 なんで私に聞いてくるかというと、私が漢字得意なことをみんな知っているのだ。

 先日、中学二年生にして漢検一級を取ったと、全校集会で表彰されたのだ。


 ちょっとした私の自慢。

 聞かれるのも悪くないなと思って、間違っているところを指摘してあげる。


「志村君、『孤蓬万里征こほうばんりにいく』。『よもぎ』の漢字が違うよ」



 私がそう言うと、志村は黒板をじっと睨んだ。

 数秒自分の書いた漢字を見ていたが動きが無かった。

 どこが違うのかが分からないようだった。


 しょうがないから、答えを教えてあげるか。


「『よもぎ』は草冠だよ。ヨモギって草知らない? 草だから草冠が必要だよ」


 志村君は目を大きく丸くした。

 こちらを見てお礼を言って、間違えたところを直していた。


「サンキュー! やっぱり笹森だな!」


 お礼を言って、自席へと帰っていった。


 褒められて嬉しくなったけど、ちょっと悲しかった。

 みんな漢字があまり分からないのかな。


 私は草冠、好きなんだけどな。

 なんだか可愛く見えて。

『萌』とか良いし、『藤』だったらカッコいいし。


 漢字の成り立ちが分かれば、漢字ってすごく楽しいのに……。

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