44.ジュピター・ロンド伯爵の末路:愛するドラゴンが屠られたのを知って激怒する
「私のドラゴンがまだ見つかってないですって! あなたたち、それでも仕事してるのかしら!?」
屋敷で怒声をあげるのはジュピター・ロンド伯爵である。
彼女は部下たちが虎の子の使役魔獣であるドラゴンを連れ戻すことができず、やきもきしていた。
ドラゴンが戻り次第、彼女は王室転覆のための行動をしなければならないのだ。
こんなところで足踏みをしているわけにはいかない。
ミミンたちの栄光国の部隊を襲わせようと画策したが、彼女たちはドラゴンに遭遇することはなかったらしい。
いったい、あんな巨体がどこをほっつき歩いているのかとジュピターは不思議に思う。
誰かに見つかって、万が一、討伐命令でも下ったら大きな問題になる。
計画のためにも早い所回収しなければならないのだ。
そんな時だった、彼女のもとに部下が声を荒げて駆け込んでくる。
「ジュピター様! 緊急の報告にございますっ! ドラゴンが、ドラゴンの爪や牙が二体分、冒険者ギルドに持ちこまれました! 調査したところ、伯爵さまのドラゴンにそっくりです!」
「な、な、なんですってぇええええ!?」
突然の報告に仰天してしまう。
それもそのはず辺境で生きていると思っていたドラゴンが討伐され、さらには素材として売られているというのだ。
「ドラゴンの皮も持ち込んだそうですが、毒に汚染されていて買い取れなかったとのこと!」
部下の報告はまだまだ続く。
ジュピターは見間違いなのではないかと確認するが、牙の形状や爪の印から間違いないという。
「あ、あれは騎士団さえ吹っ飛ばすドラゴンだったのよ!? それをどうやって!? だ、誰が素材を持ち込んだのよっ!?」
ジュピターの声は動揺に揺れていた。
もしも、あのレベルのドラゴンを討伐できる人間がいるとしたら、自分たちの計画の大きな障害になってしまう。
もしかしたら、ランク上位の化け物のような冒険者がこの国を訪れているのかもしれない。
「そ、それが持ち込んだのはメイドと怪しいツナギの女と子どもだったそうです……。自力で倒したと言っていたとのことで」
しかし、返ってきたのは意外な答えだった。
メイド、それは武器を扱えない存在。
メイド、それは家のことしかできない存在。
メイド、それは非力で無力な存在。
そんなものがどうして自力でドラゴンを討伐できる!?
ジュピターの頭が錯乱する。
「メイドごときがドラゴンを倒せるはずがないでしょ! ふざけるのも大概にしなさい!」
激怒するジュピターは怒りのあまり、手元にあるものを投げつけてしまう。
この女、怒らせると非常に怖いのである。
「いったい、どこのメイドが、私のドラゴンちゃんを……。メイドって、まさか!?」
ここでジュピターは元来の冷静さを取り戻すのだった。
そう、栄光国の部隊を追い返したメイドのことを思い出したのだ。
ミミンの率いる部隊は栄光国のなかでも精強さで知られていたはず。
それを撃退するメイドは尋常のものではない。
つまり、同じメイドが自分のドラゴンを討伐したと考えるのも筋が通る。
栄光国の面々は卑怯な毒使いであると言っていたが、ドラゴンの皮が毒で汚染されていたというのも筋が通る。
「おのれぇえええええ! 私のドラゴンを殺して、素材として売るなんて許せない!」
下品なことこの上ないが、ジュピターは地団太を踏んでしまう。
彼女の思考は、今、「許せない」の一言に塗りつぶされてしまった。
「ロンド伯爵家の精鋭を用意しなさい! ドラゴンの弔い合戦に向かうわよっ!」
ジュピターは部下たちに命令を下す。
彼女は決めたのだ、ドラゴンの仇を討つと。
数億という金も惜しいが、それ以上にドラゴンという最強種を討伐したことへの純粋な怒りがそこにはあった。
もっとも、これは完全なる逆恨みである。
ドラゴンがそんなに大事ならばきちんと躾けておけばよかったし、そもそもドラゴンを使ってモンスターを追い立てなければ良かったのだ。
全ては彼女自身がまいた種だったのである。
しかし、ジュピターにはそんな言葉は届かない。
彼女はぎりりと歯噛みして、辺境へと向かうのだった。
◇
「と、砦がありません! 確かこの辺りのはずなのですが!」
数日後、メイドのいるであろう辺境に到着するジュピターたち。
しかし、彼女たちもまた砦が消失していることに気づくのだった。
「何をバカなことを言ってるの!? ちゃんと探しなさ、ひきゃああああああ!?」
そして、王兄と同様に落とし穴に落ちるジュピター。
彼女の落とし穴には運悪く、キノコが生えていた。
例の笑いの止まらなくなるキノコが。
「あはははははは、ほら、見てないで助けなさいよ、あははははははは!」
大笑いしながら怒声をあげるジュピター。
部下たちは辟易した気持ちでジュピターを助け出す。
一枚岩で知られたロンド伯爵家の騎士団の忠誠が徐々に下がろうとしていた。
「おんのれ、メイドめぇ、あははは、絶対に許さないんだから、あははははははは!」
彼女は顔を笑顔に歪めて誓う。
自分をこんな目にあわせてくれたメイドに復讐することを。
決して、楽な死に方はさせないということを。
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