41.メイド男爵、メイド服でもなんとか通してもらう
「さぁ、行くぞっ! 我が、忠臣たち!」
気を取り直して王城へと向かう私たちである。
その目的はしっかりと女王様に面会を果たし、私を領主の一人として認めてもらうこと。
同行者はマツとメイメイ。
正直、迷いに迷ったけど、私の親愛なる忠臣である二人も連れていくことにした。
しかし、である。
懸念事項があるのだ。
私の服装はメイド服のままなのだ。
胸元に飾りをつけてみたけど、エプロンにヘッドドレスを加えた完璧なるメイド服。
どこからどうみてもメイドだよね、これ。
「メイド男爵、このままじゃ、男爵を名乗る痛いメイドみたいになっちゃいますけど、いいんですか?」
「言うなぁあああ! 痛いとかっていうなぁああああ! このツナギ!」
断腸の思いで城に向かっているというのに、マツは相変わらず私をからかってくる。
あんまりにも悔しいのでほっぺたを引っ張る私。
「うふふ、メイメイは嬉しいです! お師匠様と同じ服装です!」
メイメイはそういうと子ども用メイド服をひらひらさせる。
それは私のメイド服よりも高価な一級品。
試着の傍ら髪の毛もキレイに整えてもらったし、この子、なかなかの美少女だったことに気づく。
普段はその物腰があまりにバイオレンスなので見過ごしてたよ。
将来はおしとやかな美人に育ってほしい。
「む、貴様ら、何用だ。まずは身分証を出すように」
王城が近づいてくると、その門の前にいる門番さんに引き留められる。
身分証の提示を促すので、とりあえず、王兄様のメイドとして働いていた時代のものを見せる。
「メイド二人と異国の配管工だな? 使用人はあちらの門から入るように」
「新米メイドか? まったく、こんなことも分からんとは」
彼らは私を下働きの人たちだと思っているらしい。
マツを「配管工だって~」とからかおうとしたら、先手を打たれて脇腹をつつかれた。
気にしてるなら、ドレスを着ればいいのに。
ふふふ、人を見かけで判断しちゃいけないよ、お兄さんたち!
私は懐に手を伸ばし、とある文書を見せつけることにする。
それは王兄様の書いてくれた例の任命書。
私を男爵として認めるという、成り上がり証明書である。
それは私がニヤリと笑い、「ふくく、これを見さらせ」と言いかけた時のことだった。
「どけ、どけぇっ! ロンド伯爵家の前で恐れ多いぞ!」
突然、扉が開いて、勢いよく馬車が走り出していったのだ。
今の言葉はおそらく馬車に乗っていた、お貴族様のものだったのかもしれない。
ひぃいい、なんて危ない!
もう少しで、轢かれるところだったじゃん!
憤慨する私であるが、馬車はとっくにどこかへと消えていた。
なんなの、あの貴族!
ロンド伯爵家とか言ってたけど、ふざけんな!
怒り心頭ではあるのだが、ここで騒いでもしょうがない。
私はもう一度、例の任命書を叩きつけてやろうと身構える。
「ん? なんだ、これは? サラ・クマサーンを男爵に任命する……? サラ・クマサーン?」
だが、しかし。
門番の一人が私の手から証書をひょいと奪い取るではないか。
彼は私の胸元にある、身分証と証書の名前を見比べる。
「は? え? お、お前、いや、あなたが男爵だと?」
「ど、どういうことだ!?」
まさかのお貴族様の出現にうろたえにうろたえる門番の人々。
彼らは上役と相談し、さらにその上役が現れて相談をする。
しまいには鎧姿でやたらと恰幅のある髭のおじさんまで現れる始末である。
うーむ、どこかで見たことのある顔だ。
誰だっけなぁ、どこかで見た味わいの顔。
「男爵を騙る痛いメイドがいると兵士に呼ばれてみたが……、おぬしはまさか……」
彼は私の顔をまじまじと覗き込み、それから目を急に丸くする。
なんだか、急に何かを思い出したかのような表情である。
それにしても、初対面の人に痛いメイドって言われたくないなぁ。
「クマサーン家と言えば、数年前まで我がアッシマ家も懇意にしていた旧伯爵家である。よし、一か八かだ。私が女王様に掛け合ってみろう」
彼はそういうと大急ぎで門の中へと入っていく。
私はポカーンとその後姿を見送るのだが、アッシマ家って言ってたっけ。
……あ、あのおじさん、アッシマ家の人だ!
アッシマ家、それは武勇の名門。
トルカ王国の守護侯爵の一つのはず。
もしかしたら、うちのパパと少しはつながっていたりして。
「男爵、大丈夫ですかね? 日を改めてまた来ます?」
「いや、待つよ。あのおじさんに賭けてみる」
不安そうな顔をするマツであるが、私にはなぜだか確信があった。
あのおじさん、たぶんきっと悪い人じゃないと思うんだよね。
「私も信じます! あのおじさん、いいおじさんですよっ! あの上腕三頭筋は伊達じゃありません!」
メイメイも私と同意見のようで、目をキラキラさせる。
うーむ、彼女のような誰でも純粋に信じてしまう人間にそう言われるとちょっと心配。
とはいえ、今はあの人に賭けてみるしかないのだ。
「お前達、女王陛下が特別に謁見を許すとのことだ」
「俺はまだ信じていないからなっ!」
そして、私の勘は当たることになる。
一時間もたたないうちに、私たちは女王様との謁見を許されるのだった。
アポなし訪問なので、これはものすごいことなのである。
「行くよ、粗相のないようにね」
私は二人の手をぎゅっと握って、一緒に王宮への大きな門をくぐるのだった。
それから石造りの場内へと歩み出す。
さぁ、行こう。
男爵だって認めてもらうために。
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