38.メイド男爵、お風呂を作るも逆襲される。私は中の上なんだけどっ!




「マツ、あんたすごいよ! あんたを初めて誇りに思った!」


「く、苦しいですよっ!? 初めてってどういうことですか!?」


 とびきり上等なお風呂ができてしまい、マツに抱き着く私である。

 彼女は手際よくレンガを積み上げると、それに防水処理を施し、さらには魔石か何かのパワーでお湯まで出るようにしてしまった。

 排水についてもばっちりらしい。


 お風呂は数人入っても大丈夫な大きさ。

 なんだかわかんないけど、すっごい!


 私も家事魔法でお湯の扱いができるけど、こっちの方が楽そうだ。


「これがお風呂ですか! ふぅむ、生まれて初めて見ました!」


 メイメイは完成したお風呂をみてはしゃぎまわる。

 完全なる子供である。

 うふふ、あんたをキレイにしてあげるからね。


「それじゃあ、私はこの辺で……」


 一番頑張ったというのに、マツはよそよそしくも部屋から出て行こうとする。


「ちょぉっと、待った! 今から三人で入ろうよ!」


「ひぇ、な、なんでですかぁ!?」


「楽しいからに決まってるでしょ!」


 もちろん、マツを引き留める私。

 お風呂ができたんなら、お風呂に入るしかないじゃない!

 それに大きな湯船って言うのは、それだけでテンション上がる。


「メイメイは入りますよっ! ぬははっ!」


 そう言うや否やメイメイはばばっと服を脱ぎちらかす。

 お行儀悪いなぁ、本当に。

 メイドたるもの、衣類の扱いは慎重にしなきゃいかんのだ。

 そこら辺もしっかり教え込まなきゃ。


「メイメイ、服を脱いだら丁寧にたたむのよ。ほら、こうやって」


「は、はいっ!」


 とはいえ、メイメイは拳の道に生きる女。

 頭ごなしに言ってもしょうがない。


 私は彼女にお手本を見せることにした。

 すなわち、私もそそくさと服を脱いだのである。

 だって、お風呂に入りたいからね。


「それじゃ、マツ、あんたは領主様が脱がせてあげるわ。頑張ったご褒美に!」


「ひ、ひきゃああああ!?」


 私はマツの背後に回りこむと、メイドの得意技の一つ、瞬間早着替えを発動。

 相手の衣類の構造など無視して、ずぱぱぱと衣類をはぎ取っていく。


「ナニコレ!? どういうこと?」


 そして、そこに現れたのは驚愕の光景だった。

 マツが胸元をがっちがちに包帯で固めていたのである。

 

 そして、次の瞬間。


 ばぼん、などという爆発音と共にマツの肌があらわになる。

 空中に舞う包帯の破片。

 呆気にとられる私。


 そして、この目に映ったのは、大きな、いや、とても大きなお胸だった。


「ひぎゃああああ!?」


 マツは胸元を隠してうずくまる。

 いや、下は丸出しなんだけど、そっちはいいのか。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、私、へんな体型なんです。ちんちくりんで恥ずかしいんですよぉおおお」


 彼女はもはや泣きそうである。

 だが、ちんちくりん、ではない。

 私の知っているそれとは断じて違う。

 少なくとも私より大きい、それもかなり。

 

「わぁ、マツさんって、おっぱい大きいんですね! お母さまみたいです! すごい、おっぱい!」


 メイメイはマツに駆け寄って、すごいすごいと大喜び。

 思ったことを即座に言ってしまうあたり、恐るべし、思春期前の女。

 お胸の大小は人のコンプレックスに大いに関わることだ。

 あんまり大声で言うべきことじゃない。


「あ、お師匠様は小さいんですね! それでも、お師匠様はお師匠様であることに変わりはありませんよ!」


「ぬが!?」


 そして、メイメイは言ってはいけないことを口にする。

 私は別に小さい方ではない。

 そう、どちらかというと大きい、少なくとも中の中から、中の上ぐらいの感じであるはずだ。

 胸元が見えるメイド服だって着こなしちゃう女子なのだ。

 断じて小さくはない。


「マツのが大きいんだよっ!? いや、大きすぎるのっ! わ、私は普通ぐらいなんだからねっ!? 上の下ぐらいあるんだよ!?」


 これには弁明をせざるを得ない。

 メイメイには常識というものを身に着けて欲しい。

 そして、思ったことを口にしないという習慣も。


「いや、大きさと言うのは相対的なものですので、小さいというのは正しいのでは?」


 先ほどまで派手に恥ずかしがっていたマツであるが、いきなり冷静になってやがる。

 なんなのこいつ。


「あぁもう、議論は終わり! とりあえず、一人ずつ洗ってあげるから!」


 ここで小さいだの大きいだの言っていてもしょうがない。


 私は二人を洗ってあげることにした。

 いや、別に戦いから逃げたわけじゃないよ、不毛だと感じて大人になっただけ。

 そう、体型についてあーだこーだ言うのはマナー違反ですっ!


「うひひひひひ、くすぐったいですよぉおお」


「ひぇえ、何で私まで、うひゃひゃひゃ」


 石鹸を用意すると家事スキルで一気に泡立てる。

 そして、その泡を使ってメイメイとマツをダブル洗浄である。


 メイド時代に実際に行うことはなかったが、ご主人様を洗ってあげるのもメイドの仕事の一つとされていた。

 そのため、一通りの訓練は受けているのだ。


 私の洗浄能力はものすごく、メイド魔法を駆使することでつやっつやでさらっさらの洗いあがりになるのである。

 もし、私がメイドとして努め続けていたら、洗体屋としても大成功を収めていたに違いない。



「あれ? なにこれ?」


 メイメイを洗っている時にあることに気が付く。

 彼女の背中にヘンテコなできものを発見する。

 別に目立つわけじゃないけど、ちょっとウロコっぽい雰囲気。


「できものですかねぇ? 不思議ですねぇ」


 マツが何気なく、そのウロコ的なものを触った時だった。


「へ? ふ? だわーっ!」


 メイメイ不意に立ち上がり、その口から炎を吐く。

 長さ2メートルほどのオレンジ色の炎が砦の窓から外に出て行く。

 

「な、なに、今の?」


「口から火を噴きましたよ!?」


 当然、驚いて顔を見合わせる私とマツ。

 一方のメイメイは「あはは、私、またやっちゃいましたぁ?」などと涼しい顔である。

 いや、あんた、一度もこんなことやってないよ?


「昔から、背中を触られると火を吐くんですっ! 理由はわかんないですけどっ! お母さまには絶対に触らせるなと言われていたのでしたっ!」


 メイメイはそんなことを言うも、炎を吐く幼女がいるか。

 まぁ、これ以上詮索しても何の情報も出てこなさそうだけどさ。


 私はメイメイの背中はウロコを避けて洗ってあげることにしたのだった。




「うぃ~」


「お湯はいいですねぇ」


「お師匠様、いい香りです!」


 体を磨き終わったら、あとはお湯に入るのみだ。

 実をいうとマツがお風呂を作っている間に私は入浴用のハーブを摘んでいたのだ。


 お湯からふわぁっと立ち上る、ハーブの香り。

 すべすべの肌になった私たちはとびきり気持ちよく、お風呂からあがるのだった。



「あれ? 砦の表示が変わってるじゃん!」


 そして、発見したのである。

 

『プリンパフェをご用意できます。召し上がりますか?』


 その文字を。

 プリンパフェがいったい何なのかは分からない。

 ただし、プリンの関係している何者かであることは確かだ。


 私たちは一目散にキッチンへとダッシュするのだった。


「わぁああっ! すごいじゃん!」


「美味しそうですねぇ!」


「ぬふふ、お師匠様! メイメイの分もありますよっ!」


 そして、私たちが目にしたのは、まさにお菓子の塔のような食べ物だった。

 三角錐の形をした美しいガラスの器に、プリンがどどんと座っているのだ。

 イチゴがプリンの周りを囲んでいるのも可愛らしい。

 しかも、プリンの下にも何かが入っている。


「うひぃいい、もう待ちきれないですよっ!」


「よ、よだれでちゃいますぅうう!」


 マツもメイメイも大興奮である。

 無理もない、私だって涎が出そうなんだから。

 

「それじゃあ、どうぞ、召し上がれっ!」


 そんなわけで私たちはプリンパフェなるものに挑みかかるのだった。

 それは一言で表すならば、プリンの宝石箱。


「なにこれ、美味しい!」


「し、幸せですううううっ!」


「メイメイ、死んじゃいます!」


 プリンの美味しさもさることながら、フルーツとの相性が抜群なのだ。

 さらにはプリンを、その周囲にあるクリームと一緒に食べた時の感激を私は一生忘れないだろう。

 口の中に美味しい感覚が広がっていき、自然と涙さえ出てくる。

 しかも、驚いたことにそのクリーム、冷たいのだ。

 まるで冷凍魔法で作った氷クリームのようだが、味はもっと濃い。


 レシピを探ろうにも、こりゃあもう素材からして違うやつだよ!


 とまぁ、こんな感じで私たちはプリンパフェを完食するのだった。

 砦ちゃん、ありがとう。

 あなたといられて、私、本当に幸せだよ。

 私を砦にしてくれたのは、正直、困ってるけどね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る