37.メイド男爵、砦でお風呂! しかも、ボーナス発動!


「いやぁ、変なのが来て大変だったねぇ」


 盗賊団が去った次の日のこと、私は再び立て看板を設置した。

 そう、領民募集の立て看板である。

 メイメイが調子に乗ってぶっ壊してくれたやつである。


「お師匠様、申し訳ございません! メイメイは自分の力を示したかったのです! ついやっちゃいました! てへへっ、またやるかもしれませんっ!」


 メイメイは舌を出して、「てへっ」と笑う。

 言葉と態度の端々に見える舐めた態度。

 この子、再犯するだろうなという疑念が確信に変わる。


「男爵! リボンとヘッドドレス、新しいの作っておきましたよっ! ついでに旗も!」


 マツはというと、あの女に破壊されたものを一式作り直してくれたとのこと。

 旗まで修復してくれたのは、本当にありがたい限り。

 私は思わずマツに抱き着いてしまう。

 

「ねぇねぇ、覚えてますか? メイド男爵があの男にスープを飲ませたら、ごふっとか言って失神したんですよ! デュフフ、思い出しても笑えます!」


 マツは今回のひと悶着について未だに思い出し笑いをしている。

 可愛い顔してわりと笑い方が気持ち悪い。

 どうもあの男の人と過去に何かあったらしいのだが、今では吹っ切れたようだ。


 それにしても、あのミニマムって人にはやりすぎたかなと思っている。

 数滴飲めば失神する、きのこスープをスプーン一杯あげてしまったのだ。

 無事に起き上がることができたんだろうか。

 後遺症が残っていないか、とても心配だ。


「いやぁ、あのマックスってやつは本当に許せないって思ってたんですよぉ、本当に」


 私は過去を詮索することはないとのだが、マツはやたらと話したがっている素振りだ。

 先ほどからこちらをちらちらと見てきて、ちょっと鬱陶しい。


「マツ、もし、よければなんだけど興味あるかもぉ……」


 しょうがないので譲歩することにした。

 彼女の話を聞いてあげようかなと思ったのだ。


「えっ、突然、どうしたんですか? えええ、あの男との関係を知りたいんですか!? いやぁ、困ったなぁ、言っちゃおうかなぁ? デュフフ、どうしても言うんならしょうがないですねぇ! いや、私は話したくないんですよっ、過去のことなんかっ!」


 うっざ。

 そう、マツのリアクションはとことん、うざかった。

 いや、ただならぬ因縁があるのは分かるけど、逆に聞く気が失せるじゃん。


「やっぱ、いいわ」


「でぇえええ!? なんでですかぁ! 聞いてくださいよぉおおおお!」


 私が前言を撤回すると、マツは涙を浮かべて懇願してくる。

 あんまりにもうるさいので、私は彼女の話を聞くのだった。


 一部始終を聞いた私は思う。

 あの男は完全なる悪党であり、やっつけたのは必然だったのだと。

 頭は良かったのかもしれないけど、盗賊団に加わるなんて性根が腐っていたに違いない。

 ふぅ、知らず知らずのうちにまた善行を成してしまった。私の才能が怖い。


「メイド男爵ぅううう、男爵があの男をやっつけてくれて本当に良かったですぅうう。ぐすっ、ぐすっ、おろろぉおおおん」


 マツは私がきのこスープでミニマムを撃退したことに深い感謝を感じているらしい。

 彼女は泣きながら、ありがとうを連呼する。

 笑い声は変だけど、泣き方も変なやつである。




「それじゃあ、砦ちゃんのボーナス行っちゃおうか!」


 とまぁ、泣いたり笑ったりなのであるが、私たちのテンションが高い理由はこれなのであた。

 そう、盗賊団を撃退したことによって、砦からボーナスを得られるのではないかと期待していたのだ。

 

「砦ちゃん、青い画面を見せて!」


 そんなわけで私は砦ちゃんの画面を呼び出す。

 後からわかったことだが、砦ちゃんはあの部屋に入らなくとも、私達の言葉で青い画面を壁に映し出してくれるのだった。


 そこには以下のように表示されていた。


 ---------------------------------------------------------------

【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】 


 ランク:トリデンメイデン(最下級+)

 素材:頑丈な岩

 領主:サラ・クマサーン

 領民:2

 武器:なし

 防具:なし

 特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー

 シンクロ率:5%


 ※ボーナスはただ今、計算中です

 

---------------------------------------------------------------


「け、計算中かぁ」


 画面に現れたのは、何かを計算しているという砦ちゃんのお知らせ。

 つまるところ、お預け。

 ぐぅむ、気になるなぁ。

 さくっと教えてくれればいいのになぁ。


「ふぅむ、やはりシンクロ率が減少してますね」


 マツは目ざとく基本シンクロ率が減少しているのを発見する。

 確かに私が大きくなった時に、「基本シンクロ率を消費して」とか言っていた気がする。

 謎だらけの砦だけど、これはきっと大切な指標なんだろうな。


 とはいえ、今はやることがなくなった次第だ。

 待ってる間に掃除と洗濯でもしようかな。


「お師匠様、メイメイが最強への道をお手伝いします!」


 私が腕まくりしていると、メイメイは嬉しそうな表情だ。

 何か勘違いしていそうな気もするけど。


「ん?」

 

 私はここで気づいたのだ。

 メイメイがひどく汚れていることに。


 思い返せば、この砦では水浴びしかできない。

 しかも最近は忙しくて、水浴びすらままならなかった。


 私のメイド服は浄化魔法が自動で発生するので、衣類も体もキレイなままでいられるのだが、そこら辺の村人だったメイメイはまるで野良犬みたいに泥だらけである。

 当然、においもする、それなりに。


「よぉし、祝勝祝いにお風呂を作るよっ! マツ、あんたも手伝いな!」


 そんなわけで私は決めたのだ。

 この砦にお風呂を作ることを。


 思い返せば、この砦、鉄格子の窓に簡素なベッド、それからキッチンぐらいしか備わっていないのだ。

 人間の住む環境じゃない。


 女の子が住むわけだし、キレイで清潔じゃなきゃいけないよね。


「えぇ、お風呂ですかぁ? 水浴びでいいのでは?」


 マツは予想外に渋る表情。

 話を聞くに彼女のツナギは高性能な浄化魔法を発動できるので問題ないとのこと。

 私のメイド服と似たり寄ったりのものらしい。


 とはいえ、現にメイメイは汚れているわけで洗ってあげなきゃかわいそうでしょ。


「ぐぅむ、わかりましたよぉ」


 私の説得に応じて、渋った表情であるがお風呂づくりを手伝ってくれることになった。

 砦の内側は案外大きいのだ。

 お風呂のスペースぐらいつくれるはず。


 さぁ、頑張ろう!

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