23.メイド男爵、46センチ砲をぶっ放す!




「あいつ、ブレスを吐こうとしてますよっ!?」


 私たちが何かを行おうとしていることに気づいたのか、ドラゴンは例の態勢に入っていた。

 そう、炎を一気に噴き出す、ブレス攻撃である。


 砦から200メートルは離れていると思うけど、まさか届くのだろうか。

 やばいよ、やばいよ、やられる前にやらなきゃ死ぬ!?


「どおりゃっ!」


「これでどうですか!?」


 二人が器用に棒を操作すると、ドラゴンを照準の真ん中に捉えることができた。

 画面の中央が点滅し、ピコン、ピコンと高い音が鳴る。

 すなわち、射撃のタイミングっていうわけである。


「男爵! 早く、早く!」


「今ですよっ!」


 二人が同時に声を出した瞬間、


「いっけぇえええええ!」


 私はやけくそ気味にボタンを押す。

 

 

 そのボタンは想像以上に安っぽくて、カチッという感触を指先に伝える。


 次の瞬間。


 ちゅどごぉおおおおおおおおおんっ!

 

 筒の先に炎が現れ、耳をつんざく大爆音!

 爆風が辺りの木々を揺らし、目の前が真っ白に変わる。


「ひぃいいいいい!?」


 私は体にぎゅっと力を入れて目をつぶり、とにかく踏ん張る。

 あまりの衝撃に自分まで吹っ飛ばされるんじゃないかと思ったからだ。

 あたりには何か薬を燃やしたようなにおいが立ち込めているらしく、鼻の奥がつんとする。

 煙のせいで視界が悪く、ドラゴンがどうなったのか分からない。


 だって、それどころじゃなかったから!


「ひ、ひ、ひりゅううううう。もうダメ、この衝撃しゅごい……」

 

 体全体を衝撃的な快感が駆け巡っているのだ。

 なんて言うんだろう、体中の血液が沸騰するというか、脳髄がしびれるというか。

   

 ひ、ひ、ひひ、最高。

 体の力がぐにゃあと抜けて、呼吸が荒くなってしまう。

 

「メイド男爵、大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫、ひへへ、すっごいのキマっちゃっただけだよ、あへへへへ」


「不穏なワード出てますけど、本当に大丈夫なんですか!? あへあへ言ってますし、涎出てますよ!? おーい、見えてますかぁ? あ、ダメだ、目の焦点、あってない」


 私の絶頂具合にマツは焦った表情。

 だが、しかし、もはやどうしようもない。


 だってもう、私の内側から何だかよくわかんないけど発射されちゃったのである。

 溜めに溜めた衝動を一撃に込めて、世界に発射したのである。

 これ以上の快感があるかって言うの。うひひ。


「……メイドさんが変態なのは置いといて、メイメイ、今の見ました!? 目の前に魔法陣がばばーっと出てきて、爆風から身を守ってくれましたよっ! この砦、ただの砦じゃありませんよ」


「わ、私もみましたよっ! この砦、すごいですねっ! 領主様の砦、すごい!」


 私が涎を垂らす一方で、マツとメイメイは何かを見たと大騒ぎをする。

 彼女たちいわく、弾を発射したタイミングで魔法か何かが発生し、私たちの操縦席を守ってくれたとのこと。

 砦ちゃん、あんた、すっごいわぁ。大好き。


「この砦、超古代文明の兵器なだけじゃなくて、魔法も組み込まれてるみたいですね! うははは、すごぉおおおい! 大きい! 動く!」


 マツは目をキラキラさせて大喜びである。

 喜びのあまり、操縦席から出ると大きな筒に抱き着く。

 ええい、やめんか、危ないでしょ。


「ちょっと、まずは現状確認でしょ! ……ひえっ」


 そう。

 快感に浸っている場合じゃないのである。

 まずはドラゴンがどうなったのか確認せねば!


 そんなことを殊勝にも伝えようとした矢先、悲劇が起こる。


 私たちの座っていた操縦席が消えたのだ。

 ふわっという感覚のまま、私たちは屋上の床に垂直落下!


「あいたぁっ!?」


 私とメイメイはなんとか着地できたのだが、マツ抱き着いていた姿勢のまま落下。

 大分、危ない感じで落ちたけど大丈夫だろうか。

 頭を打ってまともになってくれたらいいのに。


「……あ、あれ!? 私の、私の46センチ砲がないですよっ!?」


 奴は狼狽して声をあげる。

 だが、あくまでもあれは砦ちゃんが出したものなのである。

 おそらく弾がなくなったら消える運命にあるのだろう。

 初回ログインボーナスの時に私が触った兵器もどこかに行ってしまったものね。


「言っとくけど、砦の武器はあんたのものじゃないからね。所有権は私にあるんだからね」


「何言ってるんですか! ふはは、勇者マツよ、よく来たな、私と手を組めば、この砦の半分をお前にあげようって言ったじゃないですか!」


「言ってない! 言ってないよ!?」


「もう! 冗談ですよっ! うふふふ、一流のエンジニアジョークですよ!」


 マツのわけのわからないノリに頭を抱える私である。

 この子が砦を乗っ取ろうと画策してるのは事実なので、警戒は怠らないようにしよう。


「あのぉ、寸劇中に申し訳ないですが、ちょっといいですか? あれってドラゴンですよね?」


「そ、そうだった!」


 メイメイの言葉で冷静さを取り戻す。

 そうなのだ、私たちの本当の目的は超絶兵器をぶっ放すことじゃない。

 発射の快楽に溺れて敵の所在を見失っていた。

 危ない、危ない、手段と目的を取り違えるところだったじゃん。


 そして、メイメイの指さす方向を見てみると、私は絶句するのだった。


「ドラゴンがぶっ倒れてるじゃんっ!?」


 そう、直前まで火炎を吐こうとしていた、あの忌まわしきドラゴンが倒れているのだ。

 ぴくりとも動かないところを見るに、おそらくは死んでいると見ていいだろう。


「やったぁあああああ! 砦を守れたよねっ!」


「やりましたっ! 友情と努力と超古代兵器の勝利です!」


「世界最強にまた一歩近づきました!」


 三者三様に歓声をあげて、飛び上がって喜ぶ。

 それぞれの思惑はかなりズレているけど、今さら気にしない。


 ドラゴンに恐る恐る近づくも、口からお尻にかけて巨大な穴が開いて絶命していた。

 どうやら真っ正面から弾が貫通したらしい。

 私の腕前、すごいじゃん!


「男爵、大変ですよ! ドラゴンの後ろの森もぼこぼこです!」


 しかもである。

 ドラゴンの後方の森の木もかなりの範囲がなぎ倒され、着弾した辺りは爆発して黒焦げになっている。

 ドラゴンの固い体を貫通するなんて、なんたる破壊力。ごめんね、森の生き物たち。

 でも、これで危機は去った!


 砦ちゃん、本当にありがとう!

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