22.メイド男爵、46センチ砲を使いこなせるの!?



「あいたたっ!? あれれっ!?」


 屋上でドラゴンを見張っていたはずのメイメイが、天井からすとーんと落ちてきた。

 彼女は尻もちをつくかと思ったが、見事に着地。すごい。。


「メイメイ? どういうこと!?」


「屋上で何か起こるってことですかね?」


 私が首をかしげ、マツも不思議そうな顔をする。

 まったくもって、この砦は謎だらけだ。



 ずしぃいいいん……ごがががががががが……


 そんな疑問が解消されることもなく、砦は盛大に揺れ始める。

 床が揺れ、壁が揺れ、立っていられないほどである。

 その音は屋上の方から響いてくるあたり、そこに何かができているのだろう。

 

「だ、男爵! 表示が変わりましたよ!」

 

 今度はマツが大きな声をあげる。

 彼女が指し示すところには、こんな文字が示されていた。


『46センチ砲、準備できました。操縦席に入りますか?』


 それはすなわち、砦ちゃんからの準備OKの合図。

 操縦席って言うのは、なんだかよく分からないけど、武器を操る場所ってことでいいのだろうか?


「入る! 入ります!」


 もちろん、答えはイエスである。


 ここからじゃ見えないけど、ドラゴンはどんどん近づいてきているはず。

 なんせ砦と同じぐらい大きな化け物なのだ。

 あんなのに攻撃されちゃ死ぬわけで。


「もちろん、私も入りますよっ! ひへへへへ、大きくてっ、動くものっ!! ふひひっ」


「私もです! 最強を目指す以上、なんでもチャレンジします!」


 私の返事の後を追うようにして、マツもメイメイも大きな声を出す。

 変態のマツはいいとして、メイメイも参加するのは、ちょっとびっくり。

 子供に見せていい現場なのだろうか。


『了解。マニュアル操縦モード起動します。座席に座ってシートベルトを締めてください』


 そんな表示が出たかと思うと、がこん、どかん、ぎぃいいん、などと音を立てて、私たちの目の前に椅子が現れる。

 背もたれにクッションのある、なんだか不思議な椅子である。


 私たちは急いで椅子に乗り込む。


「男爵、見てください! ベルトがついてますよっ! これを付けるみたいです!」


 マツはさすがに魔道具エンジニアを自称する女である。

 椅子の仕組みを理解したようだ。


 私は不思議な気持ちでベルトを使って体を椅子に固定する。


「シートベルト確認しました」


 かたん、かたん、ごががががががががっ! 


 そんな声が響いたかと思うと、けたたましい音を響かせながら、椅子が天井に向かってせりあがって行く。

 

「あきゃあああああああ!?」


「ひぃえぇえええええあ!?」


「ほりゅううううう!?」


 三者三様に叫び声をあげる私たち。

 そりゃそうだ、天井に頭を挟まれたら一発で即死である。

 なんだかよく分からない最期だったなどと、走馬灯らしきものを垣間見る。


 しかし、しかし、しかし!!!



「ひ…、ひへ!?」


 次の瞬間、私たちが目にしたのは外の景色だった。

 そう、私たちは天井をすり抜けて、外に出てしまったのだ。

 しかも、視界の高さから言って、屋上に出ているらしい。


 私たちはその巧妙な魔法に声をあげることはなかった。

 なぜなら、もっと驚くべきものが目の前に出現していたからだ。


 私たちの椅子の下には、巨大な鉄の何かが出来上がっていた。

 それは鉄の台座のようなもので、向こう側には三つの長い棒らしきものが伸びている。


「あ、あれ何!?」


「男爵、あれが46センチ砲なのでは!? にゃはははははぁああ、しゅっごい! もう私、あっちの世界に行っていいですか!? やばい、これ大きい!」


 さすがはマツ。

 こんな時にも正気を保ってられるなんて、あんたはすごいよ。

 いや、そもそも正気じゃないからこそ耐えられるのかな。

 操縦席であへあへ言っている変態(マツ)を見ながら、私はそんなことを考えるのだった。


「ってことは、これをぶっ放すってこと!?」


 そして、私は唖然としてしまう。


 だって、こんなでっかい何かを作動させたら、何が起こるか分からないからだ。

 そもそも、こんな長い棒をどうするのだろうか?

 振り回して、敵に殴りかかるとか?


 いやいや、弾っていうんだから、何かを飛ばすって考えるのが普通だろう。

 ってことはこの長い棒は筒にでもなっているのだろうか。

  

 ぐごがぁああああああ!



「領主様、ドラゴンが近づいてきてますよっ!? 大きいドラゴンと、大きい兵器の戦いですよぉおおおお!」


 思案するも、メイメイが叫んでくれたので、我に返る。

 そうだよ。

 考え込んでいる場合じゃないのだ。

 ドラゴンは叫び声をあげながら、明らかにこちらを威嚇している。

 あっちに炎を吐かれたら、私たち、バーベキューになっちゃうよ!?


「男爵、見てください、これっ何でしょうねっ!? うははっ、動く、動くぞぉっ!」


 私の焦りなんぞ一切通じていないのがマツである。

 彼女は椅子の前に突き出した棒を動かして、嬉しそうな声をあげる。


 ぐごごごご……!


「う、動いてるよ!?」


 すると、驚いたことに私たちの前に突き出た3つの筒が上下に動くではないか。

 ある程度高い位置にあるものも狙えるってことなのだろうか。


「それじゃ、この丸いのはなんでしょうね?」


 ぐごぉおおおおおおん!


 今度はメイメイが自分の前に突き出した棒を操作する。

 すると、どうだろうか、今度は私たちのいる台座そのものが動き始めたのだ。

 正確に言うと、回り始めたというべきだろうか。

 ゆっくりとではあるが、確実に重そうな台座が動き始める。


「わわわわ、すごい! これぞまさしく私の求めていたものです! ぬはは、私は今、でっかいものを動かしている! あったんだ、ラプタンは本当にあったんだぁああ!」


 マツは顔を紅潮させながら、「動く、動くのぉ」と絶叫。変態。

 砦から生えた大きな筒は確かに彼女の操作によって動いていた。


「あはははは! これは面白いですよっ!」


 メイメイもまた嬉しそうな声をあげて操縦棒を動かす。

 今度は台座部分ががくがくと左右に揺れる。

 席から伝わってくる振動もあって、頭がくらくらしてくるよ。

 

「ちょおっと待った、あんたら、一旦、落ち着けっ!」


 ふざけ倒す二人を叱りつけ、カオス状況をいったん落ち着かせる。

 特にマツ、あんたは興奮しすぎ、涎垂らしすぎ。


「こういうときはゆっくりと呼吸をして、現状確認しなきゃだよ!」


 二人の暴挙によって、砦ちゃんの言いたいことはわかった。

 目の前にある棒を操作して、あのドラゴンをやっつけろってことだ。


 ちなみに私の棒には丸いボタンが付いていて、そこには「撃」の文字が彫られていた。

 これはあの筒から何かを発射するためのスイッチなのだろう。

 つまり、私がタイミングを見計らって、射撃することになるわけだ。

 もうこうなったらヤケだ、一発ぶちかましてやらぁ。


『同期開始。46センチ砲:射撃モード起動』


 私の思いに呼応したのか、そんなアナウンスが聞こえる。

 次いで、目の前にはガラス板のようなものが現れる。

 そこには白い線で丸い円が描かれており、左右上下が十字に切られていた。

 画面には赤い点が点滅しており、微妙に動いている。 


 おそらくは魔法か何かだと思うけど、なにこれ。


「分かりました! これ、照準ですよっ! 赤いのがドラゴンで、真ん中に来た時に撃つんです! す、すごい! ねぇ、これ現実? 私があの大きいの操ってるんですよね? やばい、もう、あの棒に抱き着きたい」


 ここでもマツが変態的察知能力、いや、変態ならではの洞察力を働かせる。

 彼女いわく、先進的な魔道具にはこれと似たものが備わっているとのこと。

 

 確かにドラゴンが動くと、赤い点も動く。

 ちなみにマツの変態ムーブは軽く無視しておく。それどころじゃない。


「よぉし、それじゃちょっと微調整して! マツ、もう少し、下向きにして! メイメイはほんの少し右!」


 私はガラス板を出して、二人に指示を出す。

 いくら弾があっても、当たらなかったら何の意味もない。

 はっきり言って、この砦の未来は二人にかかっていると言っていいだろう。



 しかも、青い画面には弾数は1と表示されていたはず。

 つまり、一発で仕留めないと終わりなのだ。


 私は覚悟を決める。

 絶対に、あいつを倒してやるんだって。

 絶対に、この砦を守るんだって。

 私は領主なのだ。

 領主は領地を守らなきゃ!


 赤いボタンを押せば、何かが飛んでいくと思われる。

 自分の指先に運命が託されているのは正直、怖い。

 だけど、たぶん、気持ちいいはず。


 恐怖と焦りと期待で手が震える。


 その時である、マツが声をあげる。


「あいつ、ブレスを吐こうとしてますよっ!?」


 ひぃいいい、やばいよ。

 こっちが死んじゃうじゃん!?


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