24.メイド男爵、ご褒美タイムだよ!
「じゃあ、ドラゴンを解体するよっ!」
とりいそぎ、するべきことはモンスターの処理である。
なんせでっかいドラゴンが二体も転がっているのだ。
死骸をあさるためにモンスターが集まってきてもおかしくないわけで。
「男爵様! お話があります!」
そんなときのこと、純粋無垢な瞳をした少女が私の方に駆けてきた。
彼女の名前はメイメイ。
ドラゴンを素手で殴る女の子。
もんのすごい気迫だけど、何の用だろうか。
村人になれて嬉しいです、とか?
お願いだから、一発殴らせてとか言わないでほしい。
「……な、なにかな?」
「男爵様! メイメイを弟子にして下さい!」
「……弟子?」
彼女は私の前で土下座を敢行。
その目的はなんと弟子入り志願だった。
「はいっ! メイメイは思いました! 最強への道はメイドの道に見つけたりです!」
ぐぅむ、領主を志してはいるものの、まさか弟子入り志願者が現れるとは。
彼女は私が二度にわたってドラゴンを撃退したことを大きく評価してくれているらしい。
確かに一度目の撃退は毒キノコによるポイズンアタックだったし、褒めてもらうのもやぶさかでない。
しかし、二度目は完全に砦ちゃんのおかげなんだよなぁ。
「ふふ、OKに決まってるじゃないの! あんた、メイドは心で負けたら終わりだよ。泣き言言ったら許さないからねっ!」
とはいえ、メイドの道に踏み出すというのなら、歓迎する以外に答えはない。
そもそも、メイドというものは来るもの拒まずなのだ。
メイド業は何人いたって人手不足なのである。
メイメイの分のメイド服はないけれど、いつか街に行ったときに買ってあげたい。
そんなわけで私はドラゴンの解体をメイメイと一緒に行うのだった。
まぁ、解体するのは私で、素材を運ぶのがメイメイなんだけど。
「それじゃあ、砦ちゃん! お待ちかねのアレ、行ってみようか!」
「にしし、待ちくたびれましたよっ!」
ドラゴンの片付けたも終わったので、お待ちかねのご褒美タイムである。
青い画面を呼び出す私たちをメイメイはぽかんと見ていたが説明はしない。
だって、私たちもよく分からないし。
「今度は何が出るかな?」
この間は魔法の容器に入ったプリンだった。
さぁ、次は何が出てくるだろうか。
とっても楽しみ。
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【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】
ランク:ただのメイド砦(最下級)
素材:頑丈な岩
領主:サラ・クマサーン
領民:2
武器:なし
防具:なし
特殊:リボン・ヘッドドレス
シンクロ率:20% (やるやん)
※ドラゴン撃退記念! プリンどら焼きがご用意できます。召し上がりますか?
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しかし、私たちが目にしたのは奇妙な文字列だった。
なんせプリンどら焼きである。
なんだどら焼きって?
「ふぅむ、プリン・ド・ら焼きでしょうか? 謎が深まりますね……」
腕組みをして考え込むマツ。
いや、あんたの名前じゃないんだから、そんな風に「ド」が入ることはないでしょ。
「分かりましたっ! プリンどらを焼いたものですよっ!」
メイメイは知った風なことを言うけれど、プリンどらってそもそも何だ。
プリンは分かるのだ、あの甘くてフルフルしてて美味しい奴である。
しかし、焼かれてるのかぁ。
ゲテモノみたいなのが来たら嫌だなぁ。
「とりあえず、食べてみなくちゃ! 砦ちゃん、プリンどら焼き、プリーズ!」
とはいえ、食わず嫌いは主義に反する。
私は神妙な面持ちのまま、キッチンへと向かうのだった。
「ナニコレ?」
そこに置かれていたのは摩訶不思議な食べ物だった。
茶色に何かが皿の上に三つ置かれているのである。
まんまるくて、パンケーキに似ているのだが、どうも上下二枚あるらしい。
「これ、魔物ですか? 念のため、潰しておきますか?」
メイメイはぐるると唸って臨戦態勢にはいる。
しかし、動く素振りはないし、香ばしくて甘い香りからして食べ物だろう。
潰しちゃったらせっかくのお菓子が台無しである。
「じゃ、私から食べるよ」
そういうわけで私が先陣を切ることにした。
領主たるもの、常に領民の盾とならなければならないのだ。
マツは「あ、大きいの取りましたよ、どさくさに紛れて!」などというが、聞こえない。
いいでしょうが、皆の毒見係を引き受けてるんだから!
「ふむむむっ!? ひふぅおおぉおお!」
お行儀が悪いけど、手づかみでがぶっと噛みついてみる。
ナイフとフォークで食べるより、そっちの方が食べやすそうな気がしたから。
そして、それは大正解だった。
口の中に広がる甘い香り!
しっとりした甘い生地とプリンの感触!
ほぇえええ、これはこれはナイスな仕事!
いい仕事してますねぇ、砦ちゃん!
「大丈夫っぽいですね。メイメイ、私たちも食べましょう!」
「毒見ありがとうございます! 大きいの取られた恨みは一生忘れませんよ!」
私が無事に食べているのを見て、マツとメイメイはプリンどら焼きにかぶりつく。
毒見係への感謝の意など持ち合わせていないらしい。
なんて傲慢な連中なんだろう。
領主と領民は手と手をとって協力し合う関係なのに。
「ふわぁああ、これ、美味しいです!」
「ほっぺた落ちちゃいますよぉおおおお!」
二人は大興奮の面持ちで、プリンどら焼きを完食。
メイメイに至っては皿まで舐めてしまうのだった。
私は切れ端部分をメイメイにあげると、彼女は「一生ついていく」と抱き着いてきた。
子どもの一生は安いなぁと苦笑してしまう。
それでも、この砦が彼女にとって安心できる場所になれたらいいなと思う。
メイメイの頭をなでなですると、少し不思議な感触。
うふふ、かわいい。
◇
「ふはははは、これを見給え諸君!」
私がメイメイと食器の片付け作業を終えた時のことだ。
マツがやたらとテンション高く近づいてきた。
彼女が差し出したのは、ズタボロになった辞書のようなものだった。
「何それ?」
「何を隠そう、ラプタンの言語をまとめた、古代ヤパニズ語の研究書ですよ! まぁ、うちの先祖やその周辺の奇人変人が作った素人の本ですし、ヤパニズ語は難解で知られてるので、分からないこともおおいかもですけど」
マツはそう言うと、摩訶不思議な文字の羅列を私たちに示す。
彼女が言うには、ラプタンを運用していた時代にはそのヤパニズ語とやらが話されていたとのこと。
それを彼女の祖先が代々、まとめてきたというではないか。
「見ててくださいよ、これを使って大発見をしてくれますから!」
マツはそう言って例の小部屋へと入っていく。
その目つきは真剣そのもの。
ふざけている素振りは一切なし。
「むぐぐぐぅうう、なるほど。そう来ましたか、やりますね」
奴はその後、小部屋の中で小一時間ほど、唸り声をあげる。
独り言が大きい人って、たまに不気味だよね。
「ふははは、読める! 読めるぞっ!」
さらに、奴は何かが読めると大絶叫。
ちょっと不穏な空気まで漂わせ始めるではないか。
メイメイは「あの人、たまに怖いですよぉ」と声をあげる。
ま、あんたはあんたで似たり寄ったりなんだけどね、言わないけど。
「な、何が読めるって言うのさ!?」
「ふふふ、男爵、これを見てくださいよ」
彼女は不敵な笑みを浮かべながら、例の小部屋の一角を指さす。
そこには明らかに私たちの文化圏とは異なる言葉が彫られていた。
ま、まさか、それってヤパニズ語!?
あんた、読むことができるって言うの!?
「ふくく、耳の穴かっぽじってよぉく聞きなさいですよ! ……この……かべを……ふよういに……さわると……ばくはつ……します、ですよっ! すごい、私、天才!」
マツは翻訳できたことがあんまりにも嬉しかったのか、勢いのまま壁をガツンと殴る。
あほか、こいつ!?
自分で訳した言葉の意味、分かってないじゃん!
「うぉおおおおい!?」
「お師匠様、この人、天才だけどバカですよぉっ!?」
とっさにしゃがみ込んだ私たちであるが、爆発は起こらず。
はぁ、よかった。
爆発するなら、マツがいるときだけにして欲しいよ。
とはいえ、すごいよ。
あんたを仲間に引き入れた甲斐があったってものだよ。
「よぉし、マツはこの砦の謎を一刻も早く解き明かすこと! メイメイは私と一緒にお料理とかお掃除をするよっ!」
「はいっ! 頑張ります!」
「イエッサー、お師匠様!」
とまぁ、そんなわけで領民二人に仕事を割り振る私なのであった。
やるべきことはまだまだ山積みだと思うけど、とりあえずそれぞれが持ち場を持つって大事なことだよね!
◇ ジュピター・ロンドはドラゴンの夢を見る
「あーはっはっはっ! これが私のドラゴン! ドラゴンに敵はいないのよーっ!」
夢を見た。
私のドラゴンが敵をなぎ倒す様子を。
ドラゴンにまたがり、世界最強の王者を名乗る。
それはそれはとても甘美で、うっとりするほど。
私は一刻も早くドラゴンに会いたいと願う。
だけど、その前にするべきことがあるのだ。
待っててね、私の破壊のドラゴンちゃん!
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