16.メイド男爵、砦を前代未聞のファンシー仕様にする
「これで……よし、と」
マツとの話し合いの結果、私の仕事は領民を増やすことに決定した。
砦の入り口付近に看板広告を立てることにした。
『領民さんいらっしゃい! 楽しい砦で快適生活! 今なら三食付いて昼寝つき(※)』
いかにも楽し気なキャッチコピーに大満足の私。
しかも、食事までつけるという、正直、赤字覚悟の大サービスなのである。
もちろん、「※ただし、諸事情により中止される場合もあります。ごめんネ」と付け加えておく。
私ってば相変わらずの策士である。うふふ。
立て看板の周りにはそこらへんから草花をむしってきて、花壇まで作ってあげることにした。
見るからにピースフルである。
これなら謎の超古代兵器が隠されているなんて見破る人はいないだろう。
「メイド男爵ぅうう! 偽装工作できましたよぉおっ!」
一人で悦に入っていると、マツが私のところに駆けこんでくる。
仕事が早いね。
さすがは自称・天才魔道具エンジニア。
「すごいのできましたよっ! ここが超古代文明の砦だなんてわかりませんよっ!」
マツは大興奮である。
「こ、これは……!?」
彼女に案内されるままに案内されると、私は口をあんぐり開けることになる。
巨大な赤リボンが砦の外壁にでかでかと飾り付けられているのだ。
石造りの砦の無骨さを真っ正面から否定するようなファンシー感!
真っ赤なリボンの色合いもかわいい!
いいよ、いいよ。
マツ、あんた、やればできる子だったんじゃん!
「すごいよ! 最高じゃん!」
当然、私も大喜びである。
砦という血と鉄と泥のにおいしかしてこなさそうな場所を、めちゃくちゃ平和な場所に変えてくれた。
それに、何よりもかわいい。
心が和むよ、これ。
しかし、砦の中にあんなに発色のいい布があったっけ?
「ちなみに材料は昨日のレッドゴブリンの皮を使いましたっ!」
「わぁーお……、あれ、ゴブリンの皮かぁ」
なぁるほど、あのかわいいのがまさかゴブリンの皮だったとは。
人型のモンスターの解体はさすがに気が引けたので、土の中に埋めておいたのだが、マツはそれを引っ張り出したらしい。
いや、別にいいけどね。有効活用するってことは大事だし。
てか、この子、返り血はダメでもモンスターの解体は平気なのか。
しかし、さっきまでの胸の高鳴りが一気に覚めていく。
ゴブリンにとっては、あのリボン、狂気と恐怖以外のなにものでもないだろうな。
「えへへ! かわいいですよねぇ! 私のリボンとお揃いなんですよぉ! 今度、眼鏡もお揃いのつけようかなって思ってて」
「なぬ!?」
マツは照れた顔でとんでもないことを教えてくれる。
確かにこの砦についているリボンはマツの髪飾りのリボンにそっくりなのだ。
瓜二つと言っていい。
しかも眼鏡を付けるだとかふざけたことまで言っている。
ぐむむ、まずいよ。このままじゃ私の砦がマツ色に染められてしまう!?
「あんただけずるいよ! 私のヘッドドレスもつけてよっ!」
そんなわけでマツに命令を下す私である。
ちなみにヘッドドレスというのはフリルの付いたヘアバンドのことである。
メイドがよく頭に着けているのだが、実用性はあんまりないと思う。
「えぇー!? 砦にそんなひらひらしたのついてたら変ですよっ!?」
「リボンだって変だし! カワイイくなるからいいじゃん!」
「ふぅむ、確かにカワイイかもですね!」
可愛さを前面に押し出して説得すると、マツはなんだかやる気を見せてくれる。
この子、魔道具エンジニアとか言っている割に、案外、乙女なのだろうか。
彼女はさっそく作業に取り掛かり、私のとそっくりなヘッドドレスの飾りを砦にくっつけた。
今度の素材はホワイトオークの皮だとのこと。
あの豚みたいなやつの皮がアレかと思うと微妙な心境だが、フリフリが砦にくっついているのは最高にかわいい。
これでもう絶対にばれないよね、うん!
◇
「砦の屋上にすごいもの作っちゃいましたよ!」
マツが見せてくれたのは、Y字型の木の棒と、それに取り付けられた少し幅広の紐だった。
Y字型の木の棒は砦の屋上の床に取り付け可能だとのこと。
「スリングショットです!」
目をキラキラさせて謎の器具の名前を宣言するマツ。
それにしても、スリングショットってなんなんだ?
「なにこれ? この紐なんのために使うの?」
目を引くのは不思議な触感のひもである。
「それはですね、素材置き場にあった魔獣イノシシの腸です! この適度な弾力が大事なんですよ! 見ててくださいね」
マツはそういうと、拳ほどの大きさの石をその紐の中央付近において、ぐいんと引っ張る。
モンスターの腸でできているという、その紐は私の想像以上に弾力があるようだ。
もともとの長さの数倍にまで伸びる。
「くぅううううう、よぉし、いけっ!」
マツがぎりぎりと引っ張っていた手をぱっと放す。
すると、取り付けられていた石はとんでもない速度で発射され、数十メートル離れた木の幹に直撃。
ばぁきっなどと音がしたかと思うと、木はばっきり折れてしまった。
すごい破壊力だ。
ここで私は思い出す。
どこかで見たことがあると思っていたら、これって領民の悪ガキどもが遊んでた奴だ。
たしか、コンチパとか言ってた玩具にそっくりだ。やたら大きいけど。
「すごいじゃん! でっかいコンチパ!」
「えへへ、どんなもんです! コンチパなんかの玩具じゃありませんよ。しかも、魔石を使って風の魔法を付与してあります!」
短時間に作ったとはいえ、上出来の武器である。
おそらくゴブリンぐらいなら簡単にやっつけられるだろう。
「弾に魔法火石を使えば、敵をどかんと吹っ飛ばせます! ぬはは、子供だましの武器じゃありませんよ!」
褒められたせいか、マツは盛大に調子に乗る。
石を当てて追っ払うのはいいアイデアかもしれない。
彼女が魔道具職人だって言っていたのは嘘じゃなかったみたいだ。
さきほどのゴブリン皮の赤リボンといい、ヘッドドレスといい、この投石器といい、なかなかにいい仕事をしてくれるじゃないか。
「マツのおかげでこの砦の正体を見抜く人はいなさそうだねっ! 武器も作ってくれたし、よくやった! えらい! 褒めてつかわす!」
「えへへぇ~、お褒めに預かり光栄ですぅ、メイド男爵さまぁ!」
そんな風に二人でわいわいやっていた時のことだ。
砦の立て看板の辺りで声をかけてくる人がいる。
「あ、あのぉ、助けて、助けてください……」
それは年端も行かない女の子だった。
彼女は私たちの前でぱたりと地面に突っ伏した。
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