8.メイド男爵、砦ちゃんから領民ボーナスをもらうも、なにこれ状態
「あれってレッドゴブリンですよ! 囲まれてるし、もう逃げられないようですね。ど、どうします!?」
外にいたのは赤い色の皮膚をしたモンスター、レッドゴブリンというやつだった。
サイズは人間の子供ぐらいで、サルっぽい見た目。
ゴブリンの中では凶暴なモンスターだとのこと。
とにかく数が多くてしつこくて、一度、恨みを買うと徹底的に攻撃してくるらしい。
「ぎきゃ、ぎきゃ、ぎきゃああ!」
しかも、そのうちの一匹と目が合ったのだが、何が嬉しいのか小躍りしてる。
邪悪な笑みが怖すぎるし、捕まったら絶対にタダじゃすまない。
奴らの目論見は鬼畜の所業であることは間違いない。
やだやだ、どうしよう。
「お願い、神様、砦様! どうにかしてよぉおおおっ! ステータスオープン!」
こうなったら神頼みならぬ、砦頼みである。
さっきはぎりぎりのところで助けてもらったのだ。
今回もとびきりの武器で追っ払ってくれるのではないだろうか。
なんとも情けないことを考えながら砦の画面を呼び出すと、こんなことが浮かび上がっていた。
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【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】
ランク:ただのメイド砦(最下級)
素材:頑丈な岩
領主:サラ・クマサーン
領民:1(変なの来た)
武器:なし
防具:なし
特殊:なし
シンクロ率:6%(ざこ)
『領民獲得記念! 以下のいずれかのボーナスを選べます。
1.けんろう
2.のびる
3.かがやく』
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「変なの来た」とか、「ざこ」とか、言いたいことはいっぱいある。
だけど、今はそんなことよりも命の方が大事だ。
私たちの目はとある文字に注がれていた。
「ボーナス……!?」
なんということでしょう。
マツを領民として認めたからだろうか、砦が正体不明のボーナスをくれた。
10万ゼニーを貯めてなくても大丈夫らしい。
「けんろう」って、堅牢ってことだよね?
「のびる」と「かがやく」はそのままの意味っぽい。
普通に考えたら、堅牢一択に決まってる。
頑丈な要塞になれば、閉じこもっていればいいわけだし。
ゴブリンが攻めあぐねて飽きるのを待っていればいいのだ。
「決まりだね!」
「決まりですね!」
私がマツの顔を見ると、彼女はコクリとうなづいた。
そりゃそうだよね、ここは「けんろう」一択だよね。
まともな頭を持ってたら、迷う余地なんかないよね。
「それじゃ、けん……」
「のびる、キミに決めましたっ!」
だが、しかし。
私の領民一号との意思疎通は一切できていなかったのだ。
マツのにゃろうはあろうことか、一番使えなさそうな「のびる」を選択。
バカなんじゃないの、この子!?
いや、バカだけどもぉおおおお!?
「えへへ、やっぱりのびるですよね! だって、この砦、動くってことですよ!? デュフフ」
「このバカツナギ女ぁあああ!」
「ひえぇええ、なに怒ってるんですか!? ひぐぐぅ」
この期に及んで、ふざけた選択肢を選びやがったので、とりあえず首を絞める。
いや、客観的に見て悪いのは私だ。
この子がアホの子だっていうのは、なんとなく分かっていたはずなのに。
私のばかばかばかばか!
「ちょっとぉお、キャンセルぅうううう! 砦ちゃん、今のは冗談だよぉおおお!? エスプリの効いたやつぅううう!」
魂の叫び。
だがそれもむなしく、画面には以下のように映し出される。
『了解しました。のびます』
マツの言葉を聞いた砦は青い画面にそんなメッセージを出す。
このバカ砦、何で、冷静に命令を聞いちゃうわけよ!?
そもそも、私が主だって話だったじゃんよ。
「伸びるって何なのよぉおおお!?」
狭い小部屋に私の叫びがこだまする。
次の瞬間。
ごごごっごごごごっごごごごごごっごご……。
地震のような振動が私たちを襲う。
「ひきゃあああああ!?」
「う、動いてる! この砦、動いてりゅうううううう! すごひっ!」
あんまりにも恐ろしいのでマツに抱きついてしまう私。
マツはと言えば、興奮しているのか変な声をあげる。このバカ女!
ひぇええ、何が起きてるの!?
これが伸びるってことなの!?
一体全体、どこが伸びているの!?
その後、十秒ほどたつと轟音と振動はぴたりと止まる。
「お、終わったのかな?」
「ひへへへ、私を収納したまま動いてりゅううう……。はぁはぁ、私としたことが取り乱してしまいました、えへへ、ちょっとびっくりした」
私はすぐさまマツから離れる。
この変態といつまでも抱き合っているわけにはいかない。
そうだよ、まずするべきは現状把握だ。
優秀な男爵様はそこらへんが違うのである。
「うわ、マジ!?」
「ひぇえええ!?」
そして。
窓から外を眺めた私たちは驚きの声をあげる。
砦が高くなっているのだ。
これまでは地上二階建てだったのが、四階建てぐらいになっている。
伸びるって、こういうことだったのか。
これって悪いことじゃないかもしれない。
砦の窓には鉄格子がついているし、扉はさっき補強した。
ぬはは、塔みたいに高くなれば登ってこれまいよ!
「すごいよ! お城みたい!」
「なかなか高いですよ!」
屋上に上った私たちは見晴らしのいい景色を楽しむ。
青い空にはお日様が上り、ゴブリンの襲来なんて忘れてしまいそうだ。
後は連中が諦めるのをのんびり待てばいいさ。
あはは、のびるも案外、役に立つ!
「ん? なんだかチクチクするんだけど……」
ふぅと安堵の息を漏らした時のことだ。
唐突に私の体がチクチクし始めるのだ。
なんというか、ちっちゃい虫が張り付いている感覚と言うか。
恐る恐る服の内側に手を入れてみるも、もちろん、何の異常もなし。
「何やってるんですか、メイドさん。オーバードーズですか? 肌に虫が這う感覚ってもろにソレですけど?」
「んなわけあるか! 私は品行方正メイドで通ってるんだからね!」
私が違和感を訴えると、マツは突拍子もないことを言ってくる。
言っておくけど私は秩序側の人間である。
不良たちみたいに魔法薬を乱用することなんてないわけで。
じゃあ、一体、このちくちくは何なのよ!?
……ん、次第に体がべたべたしてきた気がするんだけど!?
「あわわわわ、連中が登って来てますよ! ほらぁあああ!」
マツが砦の屋上の縁から下を指さして、大きな声で叫ぶ。
恐る恐る覗き込んでみると、あろうことか砦の外壁を登ってくるゴブリンを発見。
ひぇええ、わずかな突起を利用して這い上がってくるなんて、木登り名人とかいう次元じゃない。
しかもかなりの数のゴブリンが登ってきている。
砦のモノを投げたとしても、全部を撃退できるかは分からない。
ひぇええ、これどうすんのよっ!?
私とマツは顔を見合わせるのだった。
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