7.メイド男爵、ついに仲間をゲットだぜと思いきや波乱の幕開け


「ごめんなさぁああああい! 私が、私がやりましたぁあああ! 出来心だったんです、悪気はなかったんですぅううう」


 かくして。

 マツが目覚めたタイミングで私は勢いよく土下座する。

 なっちゃって土下座ではない。

 床に額をこすりつける奴である。痛い。


「……えぇと、どういうことですか?」


 目を白黒させる彼女。


 私は彼女にあの爆発は私と砦がやったのだと教えることにした。

 土下座じゃすまないってのなら、一発ぐらい殴られてもいいって思っている。

 親にも殴られたことはないけど。


「……あ、あなたのせいなんですか!? あれ、あなたがやったんですかぁああ!?」


 震える声。

 ひぃいい、殴られる!?

 私は拳を固く握り、ぎゅっと目を閉じる。


「すごいですよっ! あんな爆発、見たことありませんよっ! モンスターを狙い撃ちどころか、追尾して大爆発ですよ! すごい! あんたは破壊神! 発射台を見せてくださいよ、きっと巨大だったんでしょ!?」  


 そう、巨大なものが大暴れしたことに大興奮である。

 彼女は自分の荷物のことなんかどうでもよかったのである。

 発掘道具とかいろいろ入っていただろうに、どうでもよかったのである。


「すごい、本当にあったんだ。あの、この砦に足が生えて歩いたりしました!? それとも腕が生えて殴りました!?」


「そ、それはないかなぁ……」


 口角泡を飛ばすマツに若干引き気味の私。

 しかし、私は内心思っていた。


 あぁああ、よかった!

 この子がアホでよかった!


「ん? 今、すっごく失礼なこと考えてません?」


「ないない! すっごく素直で良い子だって思っただけ! それでね、この青い画面に返事をしてたら、初回ログインボーナスとやらで武器が出て、魔物に蜂の巣みたいに穴が開いて……」


「初回ろぐいんぼぉなす?」


 ここにおいて私は起こったことの一部始終を話すのだった。

 つまり、この砦にはすんごい力があること。

 そして、今は10万ゼニーとやらが足りなくて動かせないことを。

 その証左として、例の画面も見せてあげる。


---------------------------------------------------------------


【サラの砦ちゃんのステータス】 


 ランク:ただのメイド砦(最下級)

 素材:頑丈な岩

 領主:サラ・クマサーン

 領民:0(は?)

 武器:なし

 防具:なし

 特殊:なし

 シンクロ率:6%(おまけしといたで)

 

 次の兵器発動までの必要経費:10万ゼニー


 ※この画面は「ステータスオープン」と唱えることでいつでも表示できます。


---------------------------------------------------------------


 あれ、ちょっとだけ表示変わった?

 いや、「は?」って何よ、それ。


「……言いたいことはわかりました。さすがにメイドさんが男爵っていうのは信じられませんけど、私はあの大破壊を目撃した身です。この砦のことは信じられるかもです!」


「でしょでしょ? ……ん、なぬ!?」


「だって、ほら、この摩訶不思議なこれ、画面っていうんですか? こんなのうちの魔道具屋でもこんなもの作れないレベルの代物ですよ」


 マツは画面をまじまじと眺めて、真面目な顔をする。

 確かに私もこんなものは見たことがない。

 そもそも空中に文字が浮かび上がっているだけでも謎なのだ。


「このベンチみたいなのだってすごいです! こんな素材見たことないです! うわぁ、ふにゅふにゅですね! にへへ、気持ちいい!」


 奴はさらに例の人型の窪みのあるベンチを発見し、高い声をあげる。

 挙句の果てにはそこに横たわり、嬉しそうな表情。

 やっぱり、この子、どこか変である。


「すごいっ、やっぱりラプタンはあったんですよ!」


「うぉいっ!?」


 マツはそういうとキラキラとした瞳で私にハグをしてくる。

 伝説と呼ばれたものを発見できて、そうとう嬉しかったようだ。


「お願いがあります! 私をここに住まさせてくださいっ! この砦の謎を解きたいんです! もうこの際、メイドさんを男爵って呼んであげてもいいですからっ! メイド男爵って呼んであげますからっ!」


 マツはずさぁああっと私に土下座を敢行してくる。

 しかも、男爵であることも認めるという。


 ふぅむ、ここに住みたいねぇ。

 まぁ、部屋は10部屋ほどあるみたいだし、モンスターを解体した食料もある。

 寝泊まりする分には困らないかな。

 

 しかし、この子、残念な雰囲気もあるんだよなぁ。

 大丈夫だろうかと不安になってしまう。


 とはいえ、私の返事は最初から決まっていた。

 こんな殺風景な砦に女子一人で暮らすのは物騒だし、何より寂しい。

 メイドとは誰かと暮らしてこそ、能力が活用されるものなのだから。


「よぉし、いいでしょう! 我が、クマサーン男爵領にようこそ! マツ、君は栄えある、領民第一号だよっ!」


「やったぁああ! 大好きです、メイド男爵様!」


 マツは私の手をぎゅうっと掴んでくるのだった。

 長年探し続けた遺跡が見つかったことがそんなにも嬉しいのだろう。


 私はと言えば、領民をゲットできてホクホクである。


「一緒にこの砦の謎を解き明かしていこうね!」


「はいっ! この砦を一緒に動かしましょう!」


 しかし、私たちの握手は長く続くことはなかった。



 なぜなら。



 ぐるがぁああああああ!


 ごるがぁああああああ!


 などと、明らかに頭の悪そうなやつらの声が外から響いてきたからだ。


 窓から外を眺めると、魔物がいるよ、いるいる、いっぱいいる!



「うへぇええ、どうしよぉ、これやばいよね!?」


「あれって凶悪なレッドゴブリンですね……。そう言えば私の武器、誰かさんのおかげで全部、吹っ飛んだんでした。メイドさん、お世話になりました。男爵様にもよろしくお伝えください!」


 マツの方を見ると、彼女は笑顔のまま逃げ出そうとする。

 この女、やっぱり私のこと、男爵だって信じてなかったのね。

  

「でえぇえええ! ちょっと待ってぇええええ! もう囲まれてるし、手遅れでしょ!?」


 初めての領民に必死に縋り付く私。

 そんなこんなで砦の防衛戦、第二戦がスタートするのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る