2.メイド男爵、(砦が勝手に)敵を殲滅する! そんでもって、禁断の快感に目覚めてしまう
がこぉん、ぶぉん、ずずずずず。
ぼぱぱぱぱぱぱぱ……。
どたたたたたたた……。
ひゅーひゅーひゅーひゅー、ちゅどかぁあああああんっ。
それはもんのすごい大きな音だった
それも立て続けに、ひっきりなしに。
砦が揺れているし、おそらく何かが炸裂したり、何かが爆発する音だとは思う。
だけど、聞いたことのない類いの音。
あまりにも不吉な音なので、私はベンチの上で膝を抱えて縮こまっているのだった。
そして、五分後。
私は生きていた。
そう、モンスターは私を探しに来なかった。
それどころか、砦を荒らしまわる気配すら感じられなかったのである。
「……もしかして、さっきの本当だったの!?」
そう、ひょっとしたら、である。
先ほど表示された「半径5キロ圏内の敵を駆逐します」というのは本当だったのかもしれないのだ。
いつまでもここに縮こまっているわけにはいかない。
ちょっと怖いけど、見てくるしかない。
モンスターが待ち構えている可能性もあり、戦闘力ゼロの私はびっくびくである。
息を殺して、恐る恐る物置から顔を出すと、生き物の気配はなし。
大丈夫そうだ。
物陰に隠れながら、おっかなびっくり歩いていく。
扉は無事でモンスターの侵入した形跡はない。
窓の鉄格子もそのままだ。
ぼぱぱぱぱぱっ!
とたたたたたっ!
ウロウロしていると、先ほどの破裂音が聞こえてくる。
小刻みに振動していることから考えると、この砦が外に向かって何かをしているようだ。
怖いけど、気になる。
砦の屋上から見てやろう。
見晴らしがいい場所なら、外の世界の様子がわかるはず。
「こ、これは……」
屋上から身を乗り出した私は絶句することになる。
砦の壁からにょきにょきと筒のようなものが突き出ていた。しかも、全方向に。
そして、爆音とともにそこから何かを飛ばしているのだ。
なぜそれがわかるかって?
「どごわっ!」
「ひぐしっ!」
「ぶべらっ!」
なぜなら、モンスターたちはその「何か」に当たると、体の一部に穴が開いて死んでしまうからだ。
怪物の断末魔の声が耳に痛い。
「ひぃいいいい、なにこれぇええええ」
目の前の凄惨な光景に絶句してしまう私。
そんな折、上空に翼の生えたトカゲみたいなのが旋回しているのに気づく。
下級竜の一種である、ワイバーンとかいう奴かもしれない。
凶悪なモンスターの一種で、村を襲うことで知られていた。
徐々に旋回のスピードが速くなっている。
嫌な予感がした。
「ま、まさか、襲ってこないよね? あれはやっつけられないのかな? ひぇ!?」
その時である。
砦の床から、がこんと筒のようなものがせり出してくるではないか。
よく見たら、筒だけではない。
台のようなものから金属の筒がにゅうっと伸びた形状をしていた。
『ご要望にお応えしてマニュアル操縦用の対空機関砲をご用意しております』
不思議なことに私の目の前に例の画面が浮かび上がる。
これって魔法か何かなのかしら。
「はえ? え? 操縦? 対空機関砲? これをどうしろっていうの!?」
もちろん、操れるわけがない。
できるはずがない。
これが一体何なのかすら分からないのだ。
オロオロする私を格好の得物だと思ったのだろう。
上空を飛んでいた複数のワイバーンが突如として急降下し始める!
「ちょっとぉおお、待ってよぉおおおお!」
巨大な空飛ぶトカゲの爪とギザギザの歯がぎらりと光る。
そう、連中は朝ご飯にするつもりなのである、この私を!
「ひぃいいいい!? 死ぬ、殺されるっ!」
無我夢中で床からせり出した謎の物体にすがりく私。
恐れと驚きのせいで足元がもつれて盛大に転ぶ。
その時、取っ手のようなものに手をついた。
刹那。
どぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ。
それは、耳をつんざくような音だった。
鼓膜を通して、脳が揺れる。
だけど、バランスを崩した私は手を放すことはできない。
「あきゃあああああああ!?」
振動が体全身に響き、耳が痛い。
だけど、それ以上に驚いたことがある。
その筒状のものから何かが飛び出していき、ワイバーンたちに穴をあけたのだ。
まるでハチの巣のように、めちゃくちゃに。
「ひ、ひぃぇええ………」
突然の惨劇に私の喉から声にならない言葉が漏れてくる。
死体へと化したそれは、バラバラに分解されて地面へ落ちていった。
ううぅ、正当防衛であるとはいえ、ごめんなさい。
モンスターとはいえ、自分が何かの命を奪ったショックは大きかった。
これまでの人生の中で魔物と戦ったことなんかなかったから。
その一方で、私はとある感覚に驚いていた。
気持ちよかったのだ。
砦からせり出してきた謎の武器を操って、モンスターをやっつけたことが。
あの、どぱぱぱぱぱぱぱなどという耳をつんざく音と共に、何かをぶっ放したことが。
じぃんとして、じわじわと胸の奥まで熱くなる。
鼓動は早くなり、薄っすらと涙すらこみ上げてくる。
やばい、これ。すごい快感。
癖になりそう。
もう一回やりたい。
私が感動に打ち震えていると、砦の外が静かになっていることに気づく。
先ほどまでは、どっかんどっかん、ひゅーん、ぼぼぼぼばぁなどと攻撃していたのに今ではぴたりと止んでしまっている。
「うっそぉおおお!?」
屋上から周囲を見回した私は再び絶句することになる。
モンスターたちが死屍累々とばかりに転がっていたのだ。
あの謎の武器は床に吸い込まれたらしく、その姿は見えなくなっていた。
壁から出ていたやつも同じである。
つまり、ここは何の変哲もない古ぼけた石造りの砦に戻っていたのだ。
「……何だったのよ!? これって夢!?」
腕組みをして考えても分かるわけがない。
あんな摩訶不思議なもの、分かる方がおかしい。
ほっぺたをつねってみても、普通に痛い。
つまり、これは現実なのだ。夢じゃない。
いったいどうして、この砦はモンスターをやっつけたのだろうか?
……もしかして!?
素晴らしいアイデアが私の脳裏に降りてくる。
「つまり、私がこの砦に「守って」って伝えたから、助けてくれたってこと!?」
そう、先ほど私はあの物置の奥で叫んだのだ。
結果、この事態が起きたのである。
つまり、私は手に入れたのだ。
モンスターの大群をそれこそ数分でやっつけられる最強の砦を!
すごいよね、これ!
すごくない?
超すごいよね!!
ひょっとしたら、この砦は大昔の文明の兵器だったのかもしれない。
世界を終焉に導いた超古代兵器とか!
世界を火の三日間に陥らせた神様の武器とか!
「よぉしゃぁああああ! これでお家が再興できるぅううううう!」
幸か不幸か、私には男爵の爵位が与えられた。
ついでに、この無敵ともいえる砦も手に入れたのだ。
十四歳で実家が没落して以降、ずーっとメイドに甘んじてきた私である。
だけど、それも今日で終わりってことらしい。
私はこの砦を使って、最強の領地を作るのだ!
そして、クマサーン伯爵家を再興させて見せるっ!
お父様、お母様、私、強く生きるわっ!
お空の上で見ていてねっ!
青い空を眺めながら、亡くなった両親の顔を思い描く。
ここに私、サラ・クマサーンの成り上がりが始まる。
私はそんなことを予感していた。
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