第4話 二人の最後の日常

 朝ごはんを食べたと思うと、次は買い物に行こうと言い出した霧氷むひょう凍花とうか

 どうやら新しい服を探したいとのこと。


「お金はありませんと言ったのは嘘だったりするの?」

「そりゃ嘘じゃないよ。じゃなかったら同じ服を回さないよ。あ、帽子は忘れないでよね」


 そう言うと茶色の丸い形をした帽子を投げてきた。

 こういうのは大事に扱わないとダメだと思うのだが、気にしないタイプらしい。

 まぁ自分も同じだが。


「本当にこれだけで隠せるというの?」

「今の私達にはこれが限界なのよ。それじゃあ、行きますか」

「数秒ぐらい止まることすら出来ないのかしら」


 霧氷むひょう凍花とうかとはそういうのが出来ない人間である。

 もしくは何年も逃走した結果、身体にそういうのが染みついた結果か。

 ……どちらにせよ、しゅうは無関係だが。


 手を引っ張られるながら、また2人で歩道を歩いていた。

 今回は先程と異なり、人々が行き来する表側。

 拳銃はすぐに取り出せる場所にセットして来たのだが、ここまで警戒心無い状態で歩けるいていいのだろうか。

 

(心配ではあるけど、ここでそういう質問するのが1番怪しいという)


 そのまま歩いているが、何も知らない子供達は自分達を見ることなく走って行く。

 割合的に大人の方が多いのに、それですら気付かない。

 というよりも、街の住民として見られているのだろうか。


「……例の服屋まであとどれぐらいかかりそう?」

「この辺りは時計が置かれないからね……ま、歩いていればいずれ辿り着くよ」

「それは全てに言えることなんだが……貴方に関してはよくその髪を隠せているわね」

「何十回も思考策度したのよ? 今の私ならどんなものでもおしゃれに着こなせるのよ」


 そう言うとそのまま一本線を歩き続けた。

 改めて街を見てみると、朝に通った裏道とは別物ように見えた。

 足元は地面と何かを混ぜたようなもので出来ているのは置いといて、とりあえず日光が眩しく感じる。

 何かしらの通りなのだろうか、建物が多く住宅街のようにも見えた。


「……そういえば、夜の時にいた場所とはかなり離れているのよね?」

「というより街外れみたいな? ちょっと田舎みたいに感じる場所なだけ。でも実は品揃えは都市部とそこまで変わらないという、住めば都ってやつよ」


 まただ。

 水色のワンピースに顔全体を隠した白い帽子にある、綺麗な笑顔。

 その笑顔は全てを隠し、周りに安心を与える。


 その後も歩いていくと、さっきまでとは雰囲気が変わる通りまで来た。

 恐らく商店街だろう、色々な種類の店がびっしり並んでいた。

 人も多いし、ここから買い物をするにはいいかもしれない。


「それで、凍花とうかが行きたいと言った服屋ってのはどこ?」

「この通りの丁度中心辺りにあるお店。あ、離れないように手をつないで」

「まぁここまで人が多いとそうなるわね」


 離れてしまっては一緒に成功する意味が無くなってしまうため、手をつなぐことに。

 手が触れた瞬間、嫌でもそれを体験することになった。

 冷たい手のひら。霧氷むひょう凍花とうかの体は何度触っても冷たい。


(死体とかじゃない、能力の関係上だろうけど……)


 そもそも人と触れること自体久々であるため、本来の人肌の温度などとうに忘れてしまった。

 けれど、ここまで冷たかったのだろうか?



 多くの人々が見る景色の中で勢いよく流れていく中、冷たい手の少女は迷いなく走って行く。

 急いで移動する必要性は無いのに、霧氷むひょう凍花とうかは楽しそうに走って行く。


「おっじさーん! 今日もお願い出来る?」

「お前さん、追われてる身と言ったのにそんな声出して大丈夫なのか? ん、今日はもう1人いるな。スパイか?」

「そんな訳ないでしょ! しゅうって言うんだけど、この子の服が欲しいんだよね。ここは『私と同じ子』という扱いでお願い出来る?」

「へぇ、あんちゃんがねぇ……」


 出てきたのは全体的に肥満体型の、顔がいかつい男性だった。

 このお店の店員だろうけど、服装は白の半袖に黒の短パンとオシャレという感覚は無い人のようだ。

 自分より高い身長とゴツゴツしい体からは、威圧感を感じる。


(簡単に殺せそうな人は、別に怖くないけどね)


 けれど、しゅうからにとってはさほど恐怖を抱かなかったようだ。


 店主、リュドは奥からいくつかの服を持って来てくれた。

 自分で着ている服のセンスはあれだが、選んできてくれたのはどれも自分が着たら似合いそうなものだらけだった。

 全体的に動きやすい服で固められており、装飾が少ないシンプルなもので固められていた。


「いくつか持って来た。サイズは知らないが、まぁ大丈夫だろう」

「それは売り物でしょ? 見ず知らずの私にそのまま渡しても大丈夫なの?」


 しゅうは、そこを隠さずに聞いた。

 霧氷むひょう凍花とうかが大丈夫と言うのだから、そこを疑わないのは何の問題も無い。


 相手も今行っていることの意味を理解しているのか、ズボンから煙草を取り出して1本吸い始めた。

 ふぅ、と一息つくとどこか優しさがある眼でしゅうの目をじっと見る。


「誰にでも無料であげてるって話じゃない。俺だって生活があるからな。知ってるのはお前らが、何者かから追われているのを知っているだけ」

「それが事実、と言えば?」

「俺だって元々は訳アリの人間だ。それもあってか、ちょっと手を貸してるだけだ。ま、お前らを売るのに躊躇いは無いけどな」


 そう言うと、持って来た服を押し付けるように渡してきた。

 全体的に薄いのと、数がそこまである訳じゃないので、まとめて渡されても受け取れる量だった。

 これで今日の行きたい場所は行き終わったので、このまま2人で帰ろうとした。


「本当、いつもありがとうね!」

「そいつは俺のセリフになるけどな」

「?」


 バァン!!


「銃砲の音?! ということはバレた、か」

「『氷結者』、ここにいるのは分かっている大人しく出てこい!」


 後ろから来たのは、昨晩一緒に走り回った警察の人だった。

 それが10人、20人、30人と人を増やしてこっちにやって来た。

 ここは細い通りだというのに、それは無駄に多く並んでいた。


「あーもう、ここなら安心して買い物が出来ると思ったのに! なんでなの!」

「なんでって……それは、貴方が私達を売ったからでしょ? アイツらからいくら出されたの?」

「分かったのなら急いで逃げるか殺されることだな。ま、俺は何もしないけどな。俺は俺が生きていればそれでいいからな」

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