第2話 二人が手をつなぐ

 遠くで爆発音がした。

 撃ちぬかれたヘリコプターはバランス感覚を崩したまま落下していき、夜とは思えない程周りを明るく照らす大きな炎が生まれていた。

 正直な感想、信じられなかった。

 あれは本当にこんな拳銃一丁に対して、ここまで弱かったのか。


「……消す能力、か」

「今は訳あって使。さて、今が逃げ時と思うけど?」

「まぁ確かに今は消火に急いでるだろうけどね。住民に避難させておいて、帰ってきたら家が無かったらアイツらの信頼も消えるだろうけどね」

「そう。これは警告だけど、アイツらのことは考えない方がいい」


 警告をしたくせに、顔は下を向いてしまい帽子の影で顔が隠れてしまった。

 どんな表情なのか読み取ることは出来ないが、その様子からある程度考えられる。

 そして気付く。そもそも、だ。


「貴方もあれから逃げているの?」


 霧氷むひょう凍花とうかはそう言いながら、警察の方を指指す。

 今は撃墜したヘリコプターの対応を急いでいる様だが、何も全員がそっちに行くわけではない。

 つまり、残りの部隊がこちらに気付く可能性があるということだ。


「あの様子からしてここに残っていられるのも持って1分程度。それにあれが使っている兵器はヘリコプターだけじゃない」

「と言うと?」

「超光線照明、蜘蛛式特殊スーツ部隊、瞬間真空装置、超適正高温水、軽く上げただけでもこの程度ある。あの様子からして、これらの上位互換オンパレードもありえる」

「全て消滅させればいいじゃない」

「簡単に言うけどね……」


 実際そう言われたらそうなのだが、それが簡単に出来るほど神様は考えずにこの世界を作ったのでは無い。

 自分だって試しにやったことがあるが、どうもそんな簡単に出来るようには作られていないようだ。


 こんな能力を持っているのに、1番簡単な方法である相手の気力を失うと言うことが出来ない。

 更には生活面では絶望的に使えないという、案外不便な能力だ。

 それに関しては物体を消滅出来るしゅうも同じくだろうけど……


「とりあえず、貴方はこの後どうする予定?」

「聞いてどうするの?」

「その前にその話し方を直した方がよさそうね」

「?」


 物質を消滅する能力を手に入れたと同時に人の心も失ったのだろうか。

 さっきから対応も話し方も冷たい。

 能力的にみたら、自分の方が冷たそうに見えるが気にしない。


(けれど互いに追われる身という確認は大切。逃げる時に人の手が多いと、逃げ道ルートの確保が早く出来る。生活用品の問題は……一旦置いておくとして)


 一旦右手で頭を抱えて上を見上げる霧氷むひょう凍花とうか

 別に今の状態でも大丈夫だが、相手の危険度があまりにも高すぎる。

 嘘をついている可能性を浮かべてみる。

 

 そういうのを僅かな動きから読み取る技術は無いが、そうではないと第六感が言っている。

 時に第六感に頼ってみるのも1つ。

 と、霧氷むひょう凍花とうかは自分に例の好きな言葉を言い聞かせる。


「だったら、結局彼女の意見に合わせるとしか……」

「独り言が口から出ていることを教えとく」

「独り言は口から出るものなの。それじゃあ、確認だけさせてくれる?」

「能力の話は本当だけど?」

「そーじゃないの」


 霧氷むひょう凍花とうかは、しゅうを左手で指差ししながら聞く。


「貴方、1人で逃げるつもり?」

霧氷むひょうは自分が寂しいので一緒に逃げて下さいとか言う、寂しがりの可愛いぶりっ子系女子だったんだ」

「そこまで言ってないし、寂しいとか感じる程心は脆くありません!」


 というか質問に答えろーとギャンギャン騒ぐ霧氷むひょう凍花とうかの横で、耳を塞ぎながら知らんぷりのしゅう

 ゴホン、と崩れた空気をなんとか整える。

 どうしてこうも1人の少女と話すだけでこんなにも流れが乱れるのか。


「質問の答えになってないからもう一度聞くけど、しゅうは今後どうする気? このまま逃げ続けるとか?」

「そうね。能力が使えたらすぐに消滅させてたけど、"今は使えない"から逃げるしかないけど」

「その話で1ついいのがあるんだけど?」

「互いに美味しい話がどこから現れたのよ……」



「そりゃ、2人で逃げるのさ。氷を生み出す能力に、物質を消滅する能力。2人いれば、正に無双できる雰囲気じゃない?」

「それは2人の能力が揃ってこそでしょ。それに、貴方の能力だって上手く使えばあの兵器よりも何十倍恐ろしい代物よ」

「使えるかもって考えたけど、人殺しになりそうで辞めたのよ……」

「ふぅん」


 とても軽い返事に、ちょっと呆れてしまう霧氷むひょう凍花とうか

 ひょっとして、今まで何百人も殺してきたのだろうか。

 

 探れば探る程、恐ろしい女だ。

 見た目は結構可愛いし、年齢も自分と近しいと思える。

 居場所も次元も同じはずなのに、どこか遠く感じる。


(なんか、不思議な感覚なんだよねぇ……)


 ゴォォと街の風が2人の間を通る。

 その間の数メートルには見えない壁があり、風がそれを生み出していた。

 

(でも、だからこそ面白いのよ)


 霧氷むひょう凍花とうかなら、この壁をぶち壊す。

 自分が逃げる時もそうだ。

 目の前に壁があるなら、自分で壊せばいいだけなのだ。

 一歩、足を進ませ、


「でもさ、一緒に逃げる方が楽しそうだけど?」

「たのし、そう?」

「そうだけど?」


 しゅうは驚きのあまり口を開いたままになってしまう。

 別に楽しいという単語が身近に無かったわけではない。


「貴方、変な人」

「ようやく笑った。さて、交渉の時間だ。後ろのが来るまであと少し。私と逃げることで逃げ道の確保が格段に容易になる。さて、どうする?」

「……なるほど、これはやられたものだ」


 そして2人は手をつないで逃げ出した。

 空を飛ぶのは2人の少女。

 

 

 〇〇街を担当した、、より報告


 被害状況

 ビルが1つ完全崩壊、ヘリコプター1機

 死者6名


 また、危険因子である「氷結者」の確保は失敗

 近くに逃走の証拠は発見されず

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