第11話 それぞれの下準備

「しぃちゃんとあたし、けっこんするんだよ」

「えっ?」

幼い少女の言葉に、同じ年の少年は驚いてトランプを一枚落とす。

「ハートの2」

裏面に落ちたカードを、少女は得意げに当てて見せる。

拾い上げてみれば、その通りの模様だったので、少年は口を尖らす。

「ね?当たってたでしょう?」

少女の異能の練習台として、遊び相手として呼び出されたのは何度目だろう。

この少女に、つまらなそうな目をして見つめられるのが苦手だった。

「俺、つづみとけっこんなんてしないよ。そういうのは好きな人どうしでするんだろ?」

む、と今度は口をへの字にして、少女が睨む。

「するもん」

「おれ、別につづみのこと好きじゃない」

子供ながら、ムキになった咄嗟の言葉だった。

トランプを使うゲームで負け続けていたから、わざとそんな意地悪を言ったのかもしれない。

見る見るうちに少女の目が潤みだす。

涙のせいか、キラキラと光るその目がガラス玉のようで綺麗だった。

「しぃちゃんなんて、つづみも嫌いだもん」

泣いてたまるかと言わんばかりに、鼻を啜りながら少女は己の目を乱暴に拭う。

「けっこん、するけど、しないからいいもん」

「はぁ?」

少女が泣いている様に少年の胸がドキドキと高鳴る。女の子を泣かせてしまった、悪いことをしたという罪悪感。

泣いてこちらを睨みつける少女がなんとも言えず、可愛らしく思えた。

「つづみはね、しぃちゃんと結婚の約束するけど、別の人と一緒に出て行くの」

「いつ」

「もっと大きくなってから」

「おかしいだろ、そんなの。俺とけっこんの約束をしてるのに」

「しぃちゃんが意地悪でよわっちいと、つづみは出ていくの」

「つづみのほうが弱いじゃん」

むぅ、と言い負かされた少女はまたも大粒の涙を浮かべる。

「いじわるなしぃちゃんなんて嫌い。もう遊ぶのやめる!」


トランプを放り投げ、少女は遊び部屋から出ていく。

あぁ、また母さんに怒られる。女の子を泣かすなって。


「つづみ、待って」


少年は自分も遊び部屋から出て、少女を追いかける。

ーーー大人達の声がする。


分家の娘めがこざかしい。いいやあれは金の卵を産む鵞鳥ぞ、未来が読めるのは素晴らしい。我らもぜひ恩恵に。何か情報を得たらしい六条院が娘を買い取りたいと。いやいや、それよりはこの家で長く長く使った方が良い。あぁ、当主様のご子息に嫁がせるなど恐れ多い。我が息子などいかがでしょう、十ばかり年上ですが些細なことです。未だろくに異能を扱えぬではないか、自らの肌を焼くほどだぞ。あれの兄弟は異能持たずらしい。あの娘が変わっているのよ。種の種類を増やして、あれに沢山産ませよう、そうだ殖やしていこう。


気がつけば、少年は長く、大きな影に囲まれていた。

いずれも子供が描いたような不気味な笑顔をしている。


おぉ、紫紺様。おかわいそうに。あの癇癪娘の相手をして偉いですねぇ。

紫紺様からもどうぞお伝えください。あの娘をぜひ我が息子の嫁にと。

殺してしまうべきです。先読みの力など、我らの手に余る。

いやいやまだ子供だ、殺すなら、先読みをとことんさせてからでもいいだろう。


異能も胎も使い潰してしまえ


少年はその化け物たちに怯え、その囲いを抜けて走り出す。


「父上!母上!清護!」


少年は父母と、自分の世話役の名を呼ぶ。

あの三人なら、あの化け物達を黙らせて退治してくれるはずだ。

今まではそうだった。これからもそのはずだ。


「つづみ!どこだ!」

自分の声が、いつもの声に戻っていることに紫紺は気づく。今の、蓬生紫紺だ。


幼いままの姿で泣いているつづみを見つける。

癇癪を起こして泣き始めると、庭の片隅に彼女はいつも隠れてしまう。

そうだ、彼女はその奇妙な能力故に、他人の不幸を、恐怖を、恥辱を、災厄を見続けてしまっていた。時には訳もわからぬお告げが肌を焼いた。

怖いだろう。不快だろう。痛いだろう。

「あぁ、つづみ、すまなかった。」

菫色の着物を着せられた少女をそっと抱き上げる。

「しぃちゃん。ごめんなざぁい」

べそべそとつづみが泣いて謝る。紫紺に八つ当たりをしているとわかっているのだ。

そんな彼女が哀れで、とても愛しかった。

「大丈夫だ。怖い奴はもういないぞ」

父母達が追い払ってくれたのだろう。

黒い影は遠くからこちらをニタニタと見てくるばかりで、近づこうとはしない。

震えながらキュッと自分の袖を掴むつづみを見て、紫紺は気づく。


あぁそうか。俺が弱いと。この子は誰かに取られてしまうんだ。


黒い人影がつづみに手を伸ばし、何かを囁く。

「触るな」

ニタニタと貼り付けたような笑みを浮かべるソレを、紫紺は振り向きもせず、自らの異能で焼き払った。


「俺の妻だ」


泣いて喚いて癇癪持ちだった幼いつづみも、素直で従順で、たまにわがままな今のつづみも、俺のものだ。


ーーー奪うなら、全て黒焦げにしてやる。


*****

「紫紺様」

何度も聞いた甘い声で目が覚める。

ぼんやりとした頭は、まだ両手にあの小さい少女を抱き抱えているように錯覚させていた。

休日の朝、自室で寝ている紫紺を起こしにきたつづみに、んー、と寝ぼけた声で返事をする。

その様がいつもの堅苦しい雰囲気とは真逆な、気の抜けた紫紺の姿で、とても愛らしいとつづみはご機嫌である。

「そろそろ起きてくださいませ」

すでに身支度を整えたいつものつづみがそばに座って、優しく声をかける。

「関屋さんとの鍛錬に遅れますわ」

「ん」

未だ、寝ぼけたままの紫紺に蒸しタオルを差し出して、その寝起きの顔を拭わせる。

「……朝から元気だな」

「うふふ、紫紺様と一緒の時間が増えたせいかもしれませんわ」

最近予知のお勤めもないから、元気が有り余っているのかもと、つづみが笑ってみせる。

「……つづみと喧嘩した夢をみた」

「まぁ」

「小さい頃の夢だ。俺を『しぃちゃん』と呼んでいたから、つづみがここに来てすぐのころか。6歳ぐらいか」

「ふふ、その頃の私、一番わがままな時期でしたわ」

親元から引き離され、いやでも見えてしまう透視や未来予知。

それらの異能が不安定で彼女自身コントロールできなかった時期だ。

癇癪を起こすのも仕方ない。

同時に、蓬生家に巣食う虫を一掃した時期でもある。

「……つづみ」

「はい、なんでしょう」

「たまにはしぃちゃんって呼んでいいからな」

キョトンとしたつづみを見て、なんで驚くんだろうと逆に紫紺は不思議に思う。

しばらくぼうっとした眼でつづみを見つめていたが、徐々に正気に戻ってきたらしい。

紫紺は自分の馬鹿な発言に、なんとも言えないうめき声をあげる。

「すまん、寝ぼけていた。忘れてくれ。気持ち悪いことを言ってしまった」

「いえいえ、とっても可愛らしく、ちょっと意識飛びかけただけですわ」

ふひぃん!とつづみから興奮のあまり、奇妙な笑い声が出ている。

「いいな、忘れろ。絶対だぞ」

紫紺の言葉につづみは返事をせず、あえて満面の笑みを浮かべるのであった。


*****


蓬生邸の小さな古い訓練場に向かうと、これまた聞きなれた怒鳴り声が聞こえてきた。

「要ぇ!!集中せんかぁ!」

「うるせぇじじい!手加減してやってんだ!」

関屋要、その異能は透明な手を発現させ、自由自在に動かすものであった。

最大で6つの手が相手の動きを止めたり、殴りかかったりする。

鉄を曲げるなどの超人的な威力はないが、リンゴを握り潰すぐらいの握力はある。

だが、その手は僅かな光の屈折でしか存在が確認できず、しかも音もなく空中に浮かび、忍び寄るのだ。

「お前は!どうしてこう!ワンパターンなのか!」

そんな見えざる要の手を、素手で全て叩き落とす清護。

ばちばちばちばちーんと、床に全ての手が心地よいリズムと共に叩き落とされる。

「死角を狙わんか!異能を無駄遣いするな!」

「上等だ!老眼かっ開いておけよ!」

今日も祖父と孫の諍いが凄まじい。どうして二人になるとこうも騒がしくなるのか。

とりあえず二人が落ち着くまで、紫紺は軽くストレッチを始める。

「……父上、珍しいですね」

「うん、もうしんどい」

蓬生家当主、紫檀がジャージ姿で床にゴミのように転がっていた。

「関屋さんに誘われて久々に来たんだけど、もう無理。腰がね。さよならバイバイしそう」

全身の筋肉とか関節が悲鳴をあげてると、紫檀は死にかけの声で呟く

「運動不足でしょうね」

息子の冷静な声に、当主はぐぅの音も出ない。

「『駒比べ』に巻き込まれているって?」

「ご存じでしたか」

関屋たちの喧嘩を横目に、紫紺が父を見る。

「いっそ紫紺が選ばれれば良かったんだけどね」

「はっ。俺がですか」

自分が澪標と協力するなんて、あり得ないと紫紺は鼻で笑い飛ばす。

「父上、一つ質問してもよろしいでしょうか」

「なんだい」

ぐったりと横になったまま、しかし顔はキリリとして紫檀が息子の言葉を待つ。

「もしも、『駒比べ』の駒が、『駒比べ』とは無関係の第三者に倒されたらどうなるのでしょうか」

紫紺の言葉に、父親ははっはっはと軽い笑い声を返す。

「倒されたら、というのは曖昧だねぇ」

蓬生家当主は目を細めて、穏やかに告げる。

「そうだねぇ。例えばだが、第三者によってその後の『駒比べ』への参加が不可能と判断されるほど、行動不能状態に陥ったとしよう」

天井を見上げる紫檀はまるでこれからする悪戯でも語るようだった。

「結論から言うと『問題ない』かな」

どっこいしょ、とようやく紫檀が起き上がり、伸びをする。

「六条院家としてはただの遊びだからね。自分の指導した駒が誰かに壊されるようならそれまで。駒を壊した子供を叱ることはない。『壊れるような駒だったんだ』でお終い」

「そうですか」

紫紺の顔に笑みが浮かぶ。つづみに向ける穏やかな笑みではない。

「それは、良いことを聞きました。」

悪巧みをする、邪悪としか言いようのない笑顔を浮かべる紫紺。

我が息子ながらすごい悪人面の笑顔だなぁと、紫檀はしみじみと眺める。

「おぉ!若様!ご準備が出来ましたか!!」

孫を容赦なく指導した清護がニコニコと紫紺の元にやってくる。

なお、孫は疲れ果てて紫檀と同じくゴミのように床に転がっていた。

「それじゃあ、頑張りなさい」

紫檀は息子を応援すると、痛む体を引きづりながら訓練場から逃げることにする。

「それでは若様!始めますぞ!む?なにやら上機嫌ですなぁ!」

「あぁ」

それはそれは機嫌良く笑う紫紺。


「つづみにいい土産話ができそうだからな」


*****


「はぁ……すっごい」

篝火巴は唖然としてその戦いを眺めていた。

寮のそばにある野外訓練場。

ミハトに言われ見学していたが目の前で起こっているのが嘘のようだ。

「くっ!!」

薄雲蓮華の身体強化した上段蹴りを、軽々と交わす澪標さくら。

蓮華は決して弱くない。薄雲家は特に身体強化の異能に特化している一族だ。

彼女の蹴りだけでコンクリートぐらいは軽く砕けるだろう。

「ね、さくら、ほんとは強いんだよ」

嬉しそうにミハトが巴を見てくる。

「人の異能を模倣するの。それだけなのにすごいでしょ!」

「模倣だけじゃねえわ!ちゃんと実力もあるわ!」

さくらがミハトの言葉に反論する。

「なるほど、今は薄雲さんの異能を模倣してるってわけ?」

「そう!それにミハトの「増幅術」もコピーしてるから威力マシマシ!」

おぉーと巴が感嘆の声をあげる。

その一方で、ぜぇぜぇと肩で息をする蓮華をみて、やれやれとさくらが笑う。

「ちょっと運動不足じゃないですかぁ?お嬢様」

「うっさい死ね」

人の異能を模倣?人の努力を掠め取るような真似で、偉そうにしてくれるものだ。

『でも、こいつ単純に強い』

蓮華は異能はもちろん、自分の戦闘技術にもそれなりの自信を持っていた。

なのに、一撃も当てられない。当てたとしても、自分以上に身体強化された肉体にダメージが入らないのだ。

「でもねーさくらの『異能』には難点があって、相手に触らないとコピーできないし、すぐにコピーできない場合があるんだよねー」

「おい、余計なこと言うんじゃねぇよ」

あわわわ!そうだね!とミハトは大げさに両手を口に当ててお喋りをやめた。

「蓮華、あんがとな、練習助かったわ」

肩貸すよ、と言われてほぼ無理矢理肩を抱き寄せられる。

遠慮のない距離感に、反射的に身を捩らせて逃げようとしたが

「おっと、あっぶね」

肩を掴んでいたさくらの手が下に移動し、蓮華の腰を掴むようにして自らに抱き寄せる。

ぞくっとした悪寒に、蓮華は思わず声を上げそうになる。

「じゃあ、次は私ねーっても。あはは、訓練用人形だから味気ないよね」

巴がさくらの前に立ち、にっこりと笑う。

巴の背後には、学園側に用意された訓練人形が3体すでに起動している。

「薄雲さん休んでなよ。さくらはほら、構えて構えて」

さくらがようやく蓮華を解放してやる。

「……汗かいたからシャワー浴びてくる」

「うん、行ってらっしゃい」

優しく穏やかで、しかし憐れむような巴の声に、蓮華は少しだけ頷く。

気分良く話しているさくらの声を聞きたくはなかった。


『悔しい』


幼少期から鍛えてきた体術と異能。

それがあの男に負けたのも悔しいが、いいように使われているのが何より悔しい。

気安く触れる『女』として見られているのが、悔しい。

蓮華はシャワールームへと急ぐ。

自分の目からこぼれる涙を、一刻も早く洗い流したかった。


ーーー「でもさ、どうするの?蓬生さんは諦めた方が良くない?」

巴の言葉に、さくらがあぁん?と不機嫌そうに反応する。

「だって透視能力より、他の異能持を『模倣』したほうが有利じゃない?それに何度も触ってるけどコピーもできないんでしょう?諦めた方がいいって」

この学園なら、もっと攻撃向きの異能を持っている子がいるはずだ。

「あー、もしかして女の子の裸見れるかもとか考えてるー?」

巴が悪い顔をしてくすくすと笑う。

「蓬生家は最近不自然に力をつけてきてるんだよね」

巴の問いに答えるのは、ミハトだった。

「現当主は蓬生紫檀。ここ数年、彼が大企業の重鎮と会食を行っている機会が増えてるし、管理局へ蓬生家の者の出入りも増えてきているみたい。帚木家とも情報のやりとりと、交流が盛んなのも不思議。それに合わせて、蓬生家に入る金も増えてきているの」

ミハトは巴の目を真っ直ぐに見て、話を続ける。

「橋姫家の霊薬、これ、結構高価なんだけど、蓬生家から大体十年ぐらい前から定期的に注文が入ってるの。それが『異能抑制』の霊薬なの」

それがなんだ、と言わんばかりの顔をするさくらに、黙って真剣な顔で話を聞く巴。

「発火能力に目覚めた子がいて、コントロールできないからっていう名目だけどね。

それが今も注文が続いているの」

「じゃあ、あのシコンサマが飲んでるんだろ?はは、ダッセェ」

さくらが嘲笑うが、ふるふるとミハトは首を横に振る。

「ううん、おそらくつづみちゃんじゃないかな?つづみちゃんが来た時期、薬の注文されている時期はほぼ同じだし、その数ヶ月後に当主である蓬生紫檀の動きが活発になってるんだよね」

ミハトがにっこりと、まるで子供のように無邪気に笑う。

「つまり、つづみちゃんの透視はお金になるってことだね」

『駒比べ』で勝ち抜くには、そういう物資も人脈も必要になるだろう。

つづみを手に入れれば、つづみの能力を手放したくない蓬生家もさくらに従うしかないし、帚木も協力的になるだろう。


つづみはさくらのものなのに、返してくれと紫紺が頭を下げて懇願する様が目に浮かぶ。


「うふふ、蓬生家のお姫様とその金脈、まるっとミハトたちで貰っちゃおう!」


ミハトの可愛らしい囀り声。

その声の孕む毒々しい野望に、巴は顔色を変えぬよう精一杯努めるのだった。


*****


「では、お前はお前ノ意思で、蓬生側につくノだね」

帚木邸の一室、帚木岩澄が娘に問う。

背の高い痩せ型の男で、質の良い黒いスーツを着ている。

奇妙なのは、その口元に鎧武者がつけるような面頬をつけているところだろうか。

鳥の嘴を模したそれはまるで自らを『異形である』と周囲に知らしめているようだった。

面頬の中には、ボイスチェンジャーが組み込まれていて、時折不自然に声色が変わる。

その厳しい面頬に対して、垂れ目がちなその目はひどく優しい目をしていた。

「はい、お父様」

帚木からたちが返事をする。

上品なグレーのワンピース、まとめ上げられた銀髪。顔にはいつもの仮面が付けられている。

「お前を欲しいとの誘イを、全て断らなイといけないのか。うわぁパパしんどイ」

帚木家のからたちは他の『駒比べ』の駒たちから、すでに誘いを受けていた。

澪標さくらとは違い、帚木家への交渉として色良い条件をつけた誘いばかりだ。

「まぁ、それも『駒比べ』の一興だネ。いいヨ、パパが頑張ればいいもんネー」

「はい、お父様。それに、決して悪い話ではありません」

からたちが、もう一押しとばかりに、父親を説得する。

「蓬生家にここで恩を売れば、今後の関係もより良好になるでしょう」

学園側にすら秘匿されるつづみの異能。

蓬生家との協力関係にあるとはいえ、その異能を帚木家と蓬生家で独占できている現状は手放し難い。

「だが、失敗すレば。からたちちゃん、『しゃぶり尽くされるよ』」

娘を心配するというよりは、馬鹿な遊びをする子供を咎めるような口調だった。

「からたちちゃん。仮面を外すのはからたちちゃんのタイミング次第だ。

君の判断デ外しなさい。ただ、それがどんな結果になるか、良く考えてネ」

「はい、お父様。ありがとうございます」

「しかし、からたちちゃんにそんナ良いお友達ができるなんで、パパ感動。

ちょっと今度おうちに呼んデよ。パパめちゃくちゃモてなすよ。

あ、でも、男の子連れてキたら、泣いちゃウかも」

岩澄がそんな冗談を言うが、その目は笑っていない。

「いいかい、からたちちゃん。君が学園に通う意味はわかっているネ?」

白い仮面の奥の目が父親を見つめた。


「はい。お任せください」


娘の言葉に、岩澄は満足そうに目を細めるのであった。

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