第9話 三人寄ればなんとやら

ーーー放課後

「お風呂ぉ、一緒にお風呂はぁ、夫婦のコミニュケーションですわよぉ……」

Aクラスの教室で、ぐずっているのは蓬生つづみである。

席に着いて、能面の様な顔で帰り支度をしている紫紺。

その肩を、だだっこのように揺さぶるつづみ。

ーーー合同訓練後、さくらは足取りもおぼつかぬまま、ミハトに連れられて寮に帰ったらしい。

Aクラスの女子からも、恋人がいる女へのアピールが気持ち悪いと、せっかく上がった評価が下がった様で踏んだり蹴ったりだろう。


「蓬生、諦めて嫁さんと仲良くしろよー。風呂場で」

クラスメイトのヤジを、ギロリと睨んで黙らせる紫紺。

「いや、『一緒にお風呂で洗いっこ』のカードを、墓地に捨ててまで勝ち取りたい欲望が蓬生旦那にあると見た……まったく、彼はとんでもない男ですよ」

こっちがとんでもない風評被害である。そんなことを言うクラスメイトもギロリと睨んで黙らせる。


「つづみ」

「なんでしょう?」


紫紺の言葉に、嘘泣きをやめ、コロっと表情を変えるつづみ。

「あの澪標に俺が勝てたのが、そんなに嬉しいか?」

大きな目を見開き、パァっとつづみの顔が笑顔に華やぐ。

「もちろんです」

その笑顔に、つられて頬が緩みそうになるのを紫紺は咳払い一つしてごまかす。

「要」

女子達と仲良く話をしていた要が、はいと返事をした。

「つづみから、『話』がある。一緒に本邸に来い」

その言葉に、つづみは猫の様に目を細めた。


*****


蓬生家本邸の、紫紺の部屋。

和室で、アンティークの机や本棚が並び、今時の男子生徒の部屋とは思えない古風な書斎となっていた。

「つづみ様、これ自分とつづみ様が集めた貝殻ですよ」

「まぁ、懐かしい、どっちが綺麗な貝殻を紫紺様に貢げるか勝負しましたわね」

「ふふ、昔の貝殻を小瓶に入れて飾るなんて、ロマンチストですね」

人の机の上を見て、好き勝手言うつづみと要。

「話をすすめるぞ」

部屋の中央に置かれた座卓に、制服のまま三人が座る。

「つづみ、先読みした事を全て話せ」

真面目な紫紺の顔に、ほぅ、とつづみはうっとりと見惚れながら溜息をついて頷いた。


ーーーさすが紫紺様。今日のやりとりで『つづみはもっと重要な情報をまだ隠し持ってる』と判断したのですね。


つづみは座を正して深々と頭を下げる。

「まずはご報告遅れた事をお詫びします。初めての『予知夢』なるものだったため、真偽の判断が遅れました」

「構わない」

「はい、私が見た予知夢は」

つづみは少し目を伏せて、静かに告げる。


「『最強能力を持つ俺はハーレムを作らないといけないそうです』」


「………そうか」

平静を装いつつも、予想外の単語に内心、大変混乱している紫紺。

とりあえず、つづみの次の言葉を待つ。

「まず、夢の中に、そんなタイトルのハーレムラノベが出てきました」

「はぁれむらのべ」

「そのラノベは澪標さくらが主人公で、彼を中心として話がすすんでいきます。

彼には幼馴染枠の橋姫ミハト、ツンデレ枠薄雲蓮華、薄幸美少女枠の蓬生つづみ、ミステリアス枠の帚木からたちがハーレム要員として侍ります」

「はっこうびしょうじょ」

「その中の、蓬生紫紺は、つづみのタイツを破ったり、首筋に噛み跡つけたり、つづみを四つん這いにしてしゃぶらせたりします(指を)」

「しゃぶらせた………?!」

紫紺が目に見えて動揺する。

「はい、おにぎりと一緒に」

「おにぎり」

一拍おいてから、「はぁっ!?」とここ一番の間抜けな声を出す紫紺

「おにぎりと一緒にしゃぶらせた!?ど、どういう状況なんだそれは!?えっ!おにぎり?おにぎり!?」

今までにないぐらい紫紺が動揺し、要に至っては無の表情である。

「あ、確か、おにぎりを握りつぶして、『お前のエサだぞ』って指ごとしゃぶらせてましたわ」

指か……と聞いて紫紺は天を仰ぐ、要は石像の様に固まったままである。

「紫紺様、大丈夫です。自分も同じ想像してました。てっきり、おにぎり貫通してしゃぶらせたのかと」

穏やかな要の声に、紫紺は乙女の様に真っ赤な顔を両手で覆って震える声で呻いた。

「俺は、そんな事しない!したいとも思ってない!」

「えっ……」

紫紺の言葉に、何故か残念そうな顔をするつづみ。

「何故、本の中の俺は!そんな奇行を!」

「それは私にもわからなくて……予知夢の内容は実際の私達とかけ離れておりました」

まず、順番に整理してお話しますと、つづみは一回目と二回目の夢について話し始めた。

始めこそ紫紺は狼狽えていたが、話を聞きはじめると神妙な顔となって黙って聞いていた。

「……私が覚えている内容は以上です」

話を終えた後には、紫紺はそれはそれは苦々しい顔をしていた。

「澪標は、Sクラスの女子全員を侍らせたい。そのためには俺とお前が婚約を解消する必要がある。ゆえに、俺は敗北し、無様を晒して退場、つづみは晴れて自由の身と言う話か」

なんとも馬鹿馬鹿しい話だと、紫紺は呆れた、を、通り越して疲れ切った顔をしていた。

「現時点での疑問点だが、まずは澪標がなぜ、ハーレムを作る必要があるのか。なぜつづみでないといけないのか。つづみ、その本の結末はどうなっている?」

つづみが言いにくそうに口をモゴモゴとさせるが、観念したようにポツリと呟く。

「わかりませんの。その、本当にこんなことになるなんて思わなくて流し読みしてて……」

1回目は、『つづみ』とさくらが『紫紺』の目の前でキスするシーンで目が覚めた。

2回目は『紫紺』と『つづみ』がイチャイチャ……もとい、『紫紺』のドSシーンを読み込んでいるうちに目が覚めたのだと伝える。

「言葉責めしながら、タイツにハサミを入れていくシーンがなんとも倒錯的で……」

「語るな」

読み込んでしまった理由を必死に伝えようとしたが、紫紺に却下されて、つづみは唇を尖らせて拗ねてしまう。

「澪標が何を目的としているかはまだ分かりませんが、紫紺様のかませ犬シーンはまだまだあると考えた方がいいでしょう」

1度目は入学の日のクラス分け、これはつづみが体を張って止めた。

2度目は今日の合同練習だろう。本来なら、紫紺はさくらに敗北するはずだった。

「本来ならば、次はつづみ様を奪われた紫紺様と『取り巻き』がさくらに勝負を仕掛けるシーンがあるのでしたね。おそらく、この取り巻きというのは自分だと思いますが、どうでしょうか?」

「ラノベの中では。取り巻きは二人はいたと思います、ただ名前などは出ていなくて」

「でしたら、もう一人は藤袴殿の可能性が高いかと。最近よく行動しますし。後、もう一点気になるのは『訓練人形の暴走』これが起きなかった理由ですかね」

つづみの予知では訓練人形が暴走し、つづみを襲い、それをさくらが助けるというイベントが起きるはずだった。

だが、特に止めるという行動も起こしていないのに、そのイベントは潰されている。

「篝火が操作を誤るとは考えにくい。暴走の理由は、第三者が人形に仕掛けをしていたのではないか?」

「何らかの理由で、仕掛けが作動できなくなったか、する必要がなくなったか。明日、訓練人形の安全確認を教師か篝火さんにお願いしましょう。既に証拠が消されている可能性もありますが」

それと、と要は真面目な顔でつづみをみる。

「無礼を承知でお聞きします、つづみ様。我が主人へのお気持ちにお変わりはございませんか?」

刹那、その言葉に、つづみは花のような少女の顔から、氷の刃のごとき冷たい目を要に向ける。不愉快心外極まりないと言わんばかりだ。

「それは、私が、心変わりしていると、お考えなのかしら?」

怒気を孕みつつも、ゆっくりと、言葉を噛み締めるようにつづみが要を問い詰める。

「はい。つづみ様の予知では、そのお心が紫紺様以外に向かっている様子が描かれています。」

つづみの怒りにも動じず、淡々と要は言葉を続ける。

「ありえません。小さい頃から、私が悪夢を見た時、ずっと側にいてくれたのはどなた?」

「癇癪を起こすような私を、見捨てず、慰めてくださったのはどなた?」

「予知が制御できず、自らの肌を予言の言葉で焼いても、見放す事なかったのはどなた?」

つづみはぐつぐつと煮える感情を胸に、言葉を絞り出す。


「紫紺様にして頂いたご恩も愛も忘れて、他の男に恋慕?ありえないことです」


つづみは、要を見据えて、強い意志を持って断言する。


「私が心からこの身に宿したいのは、紫紺様のお胤だけです!」

「お胤いうな」


いきなり俗な言葉を言われ、再度真顔になる紫紺。

いいえ!大事なことですわ!とつづみはむきになって紫紺に噛み付く。

「大変な御無礼をどうかお許しください。つづみ様の紫紺様を想うお心、しかとこの要、理解いたしました。今後もお二人のお役に立てるよう身を尽くさせていただきます。つづみ様がお胤を受け入れる際のお人払いはお任せください!!!」

「んんーーー!要ぇ!お前、ほんと、そういうとこあるよなぁ!!!」

そういうとこさぁ、どうかと思うよ俺ぇ!と紫紺が声を荒げるが、要は『またまたぁ、わかってますから』と言わんばかりのいい笑顔である。

はっ、とつづみは身を乗り出す。

「そう、そこも矛盾してますの!!私は『紫紺様がしゅきしゅき大好きだーいしゅき』なのにラノベの中では『紫紺様を愛してない』と!事実無根ですわ!」

「……それ以外に矛盾点はなかったか?」

いい笑顔を浮かべたままの要の頭をアイアンクローでギリギリと締め付けつつ、紫紺がつづみに再度問う。

「そうですわね。先ほどもお話しした私に無体を働くドS紫紺様がいた……ぐらいでしょうか、今思い出せるのは」

「なるほど、つまり、俺とつづみの情報が大きく異なるということだな。そう言えば、その本の中で、つづみの能力は明確に表現されていたか?」

「い、いえ。学園がほぼ舞台でしたので私が能力を使うシーンはなかったです。澪標も知っているような文章はなかったはずです。少なくとも、私が見たところまでは」

ふむ、と紫紺が考え込む。

「おそらくだが、その『予知』は澪標さくらから見た『未来の物語』なのかもしれないな」

つまり、『澪標さくら』の中では、紫紺とつづみは歪な関係性に見えるのだろう。

本人が下世話な考えをしているだけかもしれないが。

「澪標がつづみの異能に気づいてないから、つづみの能力も描写されていないのだろう。はなんで俺がつづみに無体を働いているのはわからんが、『そういうことをしている』とさくらが深層心理で思いこんでいる可能性はある。」

「ラノベ、という媒体と通して予知されていたので、てっきり、私のお色気シーンの一つなのかと」

「何をどう考えればそういうことになるんだ」

「いえ、ありえぬことではないかと」

アイアンクローをされたまま、要が発言する。

「ぶっちゃけ、こういうラノべヒロインは処女性が重要視されますから、若様がつづみ様を抱けば澪標も諦め……痛タタタタ!!!!若様!お許しください!!!!」

要の頭が変形しかねない勢いで力を込める紫紺。

「ま、まだ情報が少ないので断言できませんが!今までの未来予知に加え、澪標の潜在意識を読み取り、つづみ様自身が認識しやすくした結果、澪標さくらを主人公としたそのハーレムラノベが夢で出てきたのではないでしょうか!!」

早口で見解を述べる要。それ聞いて、紫紺はようやくアイアンクローを止める。

「予知能力として異常じゃないか?」

「予知能力自体が異常ですから!」

はぁ、と紫紺が頭を抱える。

「つづみ、少し整理するが、今、お前の予知能力は二種類あるな」

きょとんとするつづみの顔に、おい、お前の能力だろうが。と紫紺は呆れる。

「一番初めは透視と思われた、『少し先の未来』を見る。これは昔、無差別に起きたが、今は安定している。尚且つ、つづみの近くで起きるものに絞り、好きな時に見れるようコントロールできるようになっている」

初めて知りました、みたいな顔のつづみに紫紺はもう呆れを通り越した顔だ。

「もう一つは『先読みの儀式』で使っている予知。不特定多数、つづみの認識していない人物や出来事すら当てる未来予知だな。体力の消費が激しく、何を予知するか指定できない。しかも焼印のように熱で浮き上がるものだ」

力を制御できない時は、度々つづみの肌に痛々しい赤い文字が浮かんだものだ。

火傷の痛みで泣き叫ぶ幼い頃のつづみの顔を思い出し、紫紺は眉根をよせ、深い皺を作る。

「一つ目と違い、この『先読みの儀式』は文字を焼いてから初めて内容がわかる。遠い未来を語る言葉が出るが、それを知った者次第で変化させることも可能だ。そういう意味では外れることもある占いと考えていいだろう」

しかし、この占いこそが、この短期間で蓬生家をより繁栄させているのだ。

「そして、今回の予知夢が増えた。第三者の視点からみた、いや、この場合『澪標を中心とした未来の出来事』と考えるべきか」

なぜ澪標なのかが全くわからない。

「……本当になんなんだこの予知は」

最初の二つと比べると、本当に、意味がわからない。

「まず大きな違いは視点ですね」

要が自分のノートを手に取ると、主人の言葉をまとめていく。

「一つ目の能力、仮称『予知の目』は現在つづみ様視点。二つ目の能力、仮称『予知の火』はまぁ、神様が見下ろしたような……天の視点とでもいいましょうか。そして今回の『予知の夢』これはつづみ様が『対象を観客席から』見た視点」

要が器用にも、舞台で踊る男の絵と、観客席でそれを眺める少女の絵を描く。

「第四の壁、とか言いますね。澪標の未来をライトノベル風にして読んでいると思われます。なので、主人公を取り巻く環境も描写されていくと」

つづいて、要は的中率は目、火、夢の順番で描く。

「『予知の目』は範囲も狭く、見える未来も短いですが的中率は高い。『予知の火』はランダム性が強いものの、範囲も広く、より先を見れます。『予知の夢』これは範囲を絞り、見える未来もかなり先のもののようですが、どうも信憑性にかける。」

「確かに、澪標が妄想にも近い『紫紺様』像を作るのも意味がわかりませんわね」

うーんと、要はまたも舞台の上で戦う2人の青年を落書きする。

「彼の舞台に、若様は敵として必要とか?『この敵はこんな目に遭っても当然なんだ』と観客に思わせる運命の流れにも見えますね。もしくは」

大変真面目な顔で要がつづみを見据える。

「ドS紫紺様が、観客席にいるつづみ様の、内なる願望の可能性もありますが」

「ぐうの音も出ませんわぁ……」

ドS紫紺様には大変おテンション上がりましてよと、悟ったように微笑むつづみ。

「『予知の夢』は、つづみ様でもコントロールできない。信憑性も低い、ただ、今後どうなるかわかりません。せめて、若様にはその都度ご報告をお願いします」

暗に、他の蓬生家の者に話す必要はないと要は忠告する。

『予知の火』でつづみは蓬生家に貢献している、新しい予知が加わったとすれば嬉々としてその能力を利用しようと動くだろう。

「考え方によっては、つづみは一個人の未来を深く知ることができるようになったのか」

紫紺がさらにさらに眉間に皺を寄せる。

『不確定の未来ではなく、他者の運命を見ることができると知られれば』

つづみの価値は、今まで以上に跳ね上がる。

「澪標を闇討ちして、しばらく休学させるというのはダメなんでしょうか」

美しい顔で蛮族のようなことを言うつづみ。倫理と道徳!と叫ぶ紫紺。


しかし、数日後、紫紺はつづみのいう通り、闇討ちしておくべきだったと後悔することになる。


*****


「くそ、話がちげぇじゃねぇか!!」

その日、紫紺に無様に負けたさくらは、できたばかりの寮の壁を力任せに蹴り続けていた。

人目を避けるように、彼らは寮の裏口近くで作戦会議である。

とはいえ、苛立ちを隠そうともせず、さくらは感情的に壁を蹴り続けるばかりだ。

「そりゃ、あんだけ隙を見せたら蓬生の小僧も逃さないだろうさ」

暴れる弟子を見て、はぁ…と大きなため息をつくのは六条院むつむである。

「きちんと集中すれば十分勝てる相手だったというのに、全くお前ってやつは」

ーーー駒にするにはまだまだ未熟だったかな

むつむの小さな後悔も知らず、息を切らしてさくらが弱音を吐く。

「どうするむつむちゃん。これじゃ、つづみの『透視』は手に入らねぇぞ」

「うぅーん、困ったねぇ」

実を言うと、つづみだけではない、からたちも明らかにさくらを避けている。

薄雲蓮華も、本人も心から協力しているわけではない。

『家』に言われて仕方なくこちらにいるが、駒比べで考えれば最低評価だろう。

「よしよし大丈夫だよさくら。ミハトがいるからね」

暴れたさくらに、とてとてと歩みより、にっこり笑うミハト

「ね、むつむちゃん。一つ提案があるんだけど」

「なんだい、ミハト」

「別の子をスカウトするのはダメなの?」

ミハトのその言葉に、うーんとむつむが悩む。

「今後の『駒比べ』を考えると、あの二人を仲間にするのがベストなんだけどねぇ」

つづみの『透視』に箒木家の力も使える『魅了』のからたち。

「帚木家に協力を要請するのは正直難しいと思うの。あの家、中立気取りでしょう?

あと、からたちちゃん、正直あの子は『使えない』と思うな」

己の能力も未だ制御装置がなければ扱えない半端者だ。下手すれば足を掬われる可能性があるとミハトは考えたのだ。

「からたちちゃんの使い道はあると思うけど、駒にするほどじゃない。

それに私とつづみちゃんが後方支援型だから、前衛がいた方がいいと思うの」

「ほぅ、もう目星はつけているのかい?」

「うん、篝火巴ちゃん!あの子いいんじゃないかな?」

篝火と聞いて、さらにむつむはうぅんと悩ましげな声を上げる。

「篝火かぁ、あんまりおすすめはしないなぁ。薄雲ともなぁ……」

「そうなの?でも大丈夫だよ!私がちゃーんと間に入るから!」

「そういうことなら……仕方ないなぁ、私も弟子に甘くなったものさ」

やれやれと、むつむはさくらそっくりに肩をすくめて見せる。

「いいかい、さくら。あの子たちを仲間にするんだ。お前の能力はそれでより威力を増すんだから」

クスリとむつむは笑ってみせる。

「なぁに、ここまで来たらもう少し手伝ってやる。それに仲間にしたら、お前の好きにするがいいさ」

さくらの頭に、つづみのあの冷たい眼が思い出される。

俺という男が目をかけてやっているのに、別の男に尻尾を振るあさましい雌犬め。

誰が本当の主人なのか躾直してやる。

「大丈夫だよさくら。巴ちゃんはいい方法があるんだぁ。

巴ちゃんはミハトに任せて、残りの二人を仲間にしよっ!」

にっこりとミハトが笑ってみせる。

「それなら蓮華は正直後回しでいいな。あいつは逃げれねぇからな。まずはつづみだ。

あの雌犬をまず落とす。ついでにかませ犬のあの野郎。あいつはただじゃおかねぇ」


ギラギラとしたさくらの眼に、うんうんとミハトが頷く。

むつむはーーー自分の『駒』が暴走していることも含めて楽しんでいるようだった。

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