第4話 2度目の夢
気がつくと、つづみはあのSクラスの教室にいた。
誰もいない教室で、机には読めとばかりにあの悍ましい本が置かれている。
「あぁ、また夢ですか……」
夢だとわかる夢を見るのはこれで2回目、意識もはっきりしているし、何より前回見たハーレムラノベのタイトルは記憶の通りのままだ。
見るのも怖いが、見ないで流されていく方がよっぽど怖い。
むしろ2回も見れる機会があるのは素晴らしいと開き直り、つづみはセイヤァ!と気合をいれて読み進める。
つづみは念の為に最初の「紫紺」の噛ませ犬シーンを読み直ししようとしてページを捲る。
どうやら、その噛ませ犬シーンは消滅したらしく、今日の出来事がそのまま描かれていた。
それでも、読み直すに、さくらが「蓬生紫紺」を認識してしまったシーンがいくつかあった。
物語の中では「蓬生紫紺」は「蓬生つづみ」に恋慕し、家の力で無理矢理婚約者にした非道だと語られていた。さくら達とは今後も接触は避けたいところだが、難しいだろう。
読み進めると、さくらとシェアハウスした薄雲蓮華と橋姫ミハトの様子が描かれていた。
『ノックぐらいしなさいよばか!』
と、薄雲蓮華が着替えている部屋の扉を開けたさくらが思いっきりビンタされたり
『さくらー背中流してあげるー』
と入浴中に幼馴染のミハトが乱入したり。
お約束のお色気シーンである。からたちは逃げ切れたようでお色気シーンの描写もなかった。
危なかった。これ下手すれば自分もお色気シーン枠に組み込まれてたのだろうか。
「うぅ、キッツイ」
精神的にきついが、つづみは本を読み進めていく。
確認するのは「紫紺」と「つづみ」が出てくるシーンを優先。
ーーーまず、今後の注意点だ。
通常授業とともに、SクラスAクラス合同の戦闘訓練がある。
戦闘に特に特化している生徒がまず手本として戦闘を行い、非戦闘向け能力の生徒は身体能力の底上げ訓練である。
「紫紺」がAクラスの手本として戦闘を行うが、さくらがそれ以上の威力で戦闘を行なって「紫紺」の面子を潰すシーンだ。
なんか都合よく戦闘用人形がつづみに襲いかかってきて、さくらが助けるシーンもあるがこれも阻止。
つまり今後は、紫紺様とさくらをなるべく接触させない、つづみは襲われないようにする。
うん、どうしよう!!
つづみの未来予知の難点の一つがこれである。
知ったはいいが、回避できるとは限らない。回避方法?自分で考えろ。と言うことである。
ーーーとにかく優先するのは「ハーレム入り回避」と「紫紺様が騒ぎに巻き込まれないようにする」こと
つづみは正直自分さえよければいいので、ミハト、蓮華、からたちは見捨てる気満々だった。
いや、もしかしたら三人ともハーレム入り望んでるかも知れないしね、うん。
先をより知れば、良い案でも浮かぶかも知れないと思い、つづみは本を読み進める。
『俺から離れられると思ったか?』
『こうして「ごっこ」遊びも一興だが、お前の態度次第ではすぐさま家に戻すことだってできるんだ』
『なんなら今夜にでも、お前の体にわからせてもいい』
怯える「つづみ」に脅しをかける「紫紺」のシーンだ。
人の来ない空き教室で。「つづみ」が自分のものだとわからせるかのように「つづみ」の太ももに手を這わせていく「紫紺」
つづみは「紫紺」のシーンを見てふぅと息を吐く。心臓の鼓動が大きくなっているのを落ち着かせるためだ。
紫紺様はこんなことは言わない。
だが、こういうサディズム溢れる「紫紺」様は、割と好きだ!!!大好物だ!!!
「ドS紫紺様とか、そんなんぜっっったい性癖に刺さるぅ‼︎‼︎」
ちょっとこのシーンは是非とも再現したい。が、それをするとハーレム入りに一歩近づきそうだ。
この神シーンの直後にさくらと蓮華が「つづみ」を助けにくるのである。
本来なら、さらに先を読み込みはずだったのだが、気が付けば「ドS紫紺」シーンばかり繰り返し読んでいた。
ーーーなるほど、私と紫紺様の絡みが、いわばこのラノベでの私の「お色気シーン」なのですわね。
つづみはそう分析できる程度には、割と冷静に読み込んでいたのだが、……
内太もも部分のタイツにわざと穴を開ける「紫紺」、それで過ごせと命令される「つづみ」
「つづみ」の首元にわざと噛み痕をつけて辱める「紫紺」
犬のように這いつくばり、「紫紺」の手で握りつぶされたおにぎりを、「紫紺」の手から舐めとる「つづみ」
「紫紺様の!性癖が!!濃ゆい!!!」
高校生の性癖じゃねぇぞコレェ!と続けて叫んだ途端、つづみは夢が揺らぐのを感じだ。
自分の叫び声で意識が覚醒してしまったらしい。
あ!待って、まだ、まだ読み足りないのにぃぃぃぃぃ!!!
焦り虚しく、つづみは目を覚ますのだった。
*****
「まぁ、仲の良い事で」
蓬生家本邸の廊下にて、蓬生桐子は息子の様子を見ると、目を細めて笑った。
罰が悪そうな顔をして言い淀むの紫紺だ。
すやすやと眠っているつづみを背負っているところを、見られたくなかったのだろう。
「なかなか起きなかったので」
言い訳をする紫紺の後ろで、要が優しい笑顔を桐子に向ける。
「(自分はつづみ様を叩き起こそうとしたんですが、若様が「起こすのがかわいそうだから」と言ってました)」
「(オッケーお母さん全て理解した)」
「俺を挟んで目線で会話するのはやめてください!」
あらあらうふふあははと桐子と要が笑い合う
「(自分はお姫様抱っこを提案したんですが、それだと不安定ですし、寝ているつづみ様に負担がかかるかもということでおんぶになりました)」
「(そして背中につづみさんが密着していて、余計気恥ずかしくて照れているところね)」
「だから目線で会話するのやめてください!」
微笑み続ける側近と母親に、再度紫紺が叫んだ。
「それはそうと、つづみさんをどこで寝かせるつもり」
「つづみの部屋のつもりでしたが」
「まぁ、紫紺、つづみさんの部屋に勝手に入るなんていけません。起きるまで自分の部屋に連れて行けばいいじゃない」
「ッシャ!!!自分は先に若様のお部屋で布団敷いていきます!!」
紫紺が止めるのも聞かず、恐ろしく美しい短距離走のフォームで走り去る要。
「それそうと、大変だったみたいね」
桐子が、紫紺を労う。その視線はすやすやと眠っているつづみに向けられていた。
「六条院様の悪い癖が出たと聞いているわ」
異能の天才である、六条院むつむの気まぐれとワガママは今に始まったことではない。
「お気に入りの生徒を集めたみたいね」
「つづみの能力もバレたのでしょうか?」
「可能性はあるわね」
ぐ、と紫紺が唇を噛み締めたのが見えた。
「流石に六条院とはいえ、他の家の事情に口出しは出来ないでしょう。
特にあなたとつづみさんは婚約の発表も行なっています。よほどのことがない限り、彼女も口出しできないはず」
だというのに、お互い嫌な予感がするらしい。
こちらの予想もつかない方法を取られるような気がして、不安で仕方がない。
「つづみが、もし家を出たいというなら、考えなければいけません」
六条院から蓬生家当主に、つづみに「寮生活」をさせるよう「お願い」が来たらしい。
当主である紫紺の父は「つづみの意思を確認したい」と結論を伸ばしていた。
紫紺が先に本邸に戻ったのは、今後の動きを父親と相談するためであった。
「紫紺……」
つづみさんの自由にさせてやりたいと思っているのね。と桐子が続けようとした時。
「紫紺様の!性癖が!!濃ゆい!!!」
大変はっきりとしたつづみの寝言が聞こえた。
その寝言に凍りつく親子。
「高校生の性癖じゃねぇぞコレェ!」
追撃を仕掛けるつづみ。そして自分の寝言で目が覚めたのか、んあっ!と間抜けな声をあげてつづみは目を開く。
「っあーーーーーーーーー!!」
聞いたことない声をあげるつづみ。その大声で鼓膜にダメージを負う紫紺。息子の性癖がやばいかも知れないと危惧する桐子。
「っんぶ!!!紫紺様におんぶされてる!死ぬ!らめぇ、こんなおっきい背中!つづみ死んじゃいますぅぅぅぅ!!!」
という割にはここぞとばかりに紫紺に抱きつき、首元とか髪とか匂いを嗅ぐ、を、通り越して吸いまくるつづみ。
「紫紺様!お布団の準備出来ました!!!」
最悪のタイミングで要が帰ってくる。
「オフトォン!!!なんですの、紫紺様!私をお布団に入れてどうするおつもりでしたの!!!えっちなことですね!!!
そりゃもうえっちなことですね!!待ってまだ夕方ですわよ!そんな、朝まで攻められたらつづみ死んじゃいますぅぅぅぅぅ!!!」
足をピンとそらして大興奮のつづみとは裏腹に、紫紺の眼から光が消えていた。
「つづみ、とりあえず、起きたなら下ろすからな」
「いやーーーーーー!!!ここに住むーーーー!!!」
駄々をこねるつづみ、死んだ目の紫紺、必死につづみを引き剥がす要。
『つづみさんがこんなに大好きだって言ってるのに、紫紺はまだ不安なのねぇ』
その様子をまじまじと見る桐子に、紫紺は慌てて否定する。
「母上!違います!自分の性癖は至ってノーマルです!!!」
どうも、親子で目線での会話はまだできなかったようだ。
「(って言ってるけど、どうなの要くん)」
「(ご安心ください。若様は『清楚だけどちょっと透けてるえっちな下着』で十分興奮されるノーマルです。)」
「(え、紫紺様そうなんですか。私『猫耳猫尻尾付きのスケスケドスケベ黒ラメ下着』準備してしまいました。)」
「(大丈夫です、つづみ様。若様はそれでも十分興奮してくださいます)」
「だから!目線で!会話するのを!やめろ!!」
紫紺の悲痛な叫びに、三人はそれはそれは優しい微笑みを浮かべる。
「あ、そうだ。当主様が話をしたいと」
「当主様が?」
「父が?」
背から降ろされたものの、なおも紫紺の背中の永住権を獲得しようと抱きついてくるつづみ。
それを両腕でぎりぎりと押さえつけながら、紫紺が要に聞き返す。
「えぇ、つづみ様が起きてからでいいとのことでしたが、もう向かいます?」
「もちろんです。参りましょう」
諦めの表情の紫紺に抱きついたまま、キリリとつづみは頷いた。つづみの粘り勝ちである。
*****
「父上、失礼します。紫紺、つづみ。参りました」
「入りなさい」
紫紺が襖を開けると、和室の中央ではちょうど当主、
「早かったね。花を飾るから少し待ちなさい」
紫紺と同じく髪をオールバックにしているが、その髪は短く、痩せたうなじが見えていた。
灰鼠色の着物を着て、紫紺に似て目つきは鋭いものの、こちらはどこか温和な雰囲気をだしている。
「さて、つづみさん。学校はどうだったかな?」
「はい。素晴らしい学舎かと。今回のご当主様の配慮に心より感謝いたします。蓬生家の一族、そして紫紺様のためによりお役に立てるよう精進いたします」
当主である紫檀に深々と頭を下げ、学校に通わせていただけることに感謝する。
「あぁ、そういってもらえるなら嬉しいね。紫紺と同じクラスにできなかったのは残念だが」
「それに関しては私もまっっっったく同じ気持ちです」
真剣な、それどころかちょっと恨めしそうな目でつづみは紫檀を見つめた。
どうして蓬生家の権力パワーをフルで使ってくれなかったんですかと言わんばかりの目である。
「そう。こちらとしては受け入れてもらえると思ったんだがね」
『つづみの能力「透視」は不安定ゆえ、本人の意図せぬものが見える。その精神安定と指導、監視のため紫紺と同じクラスにしてくれないか』
と学校側に要請した。
普通の学校なら問題のある要請かもしれないが、異能者を見てきた学校だ。そういうことに関しては理解があると思ったが。
「蓬生家以上の「家」の要請があったのかもね。どうするつづみさん、うち以上の家から引き抜きがあったら」
冗談めかしてそんなことをいう紫檀に、顔を顰める紫紺。めちゃくちゃ嫌そうな顔をするつづみ。
「つづみを試すようなことをいうのはやめて下さい」
「私、紫紺様と一定期間離れたら爆発する仕様なんで、よその家に行くことはありませんわ」
「つづみも流れるように嘘をつくのはやめろ」
二人のやりとりを紫檀は目を細めて笑う。
「つづみ、寮の話が出たようだね。どうする?うちはかまわないよ」
「イヤです。おはようからおやすみまでの紫紺様を見逃すことになるじゃないですか!ぜっっったいに嫌です!!!」
死ぬほど嫌そうな顔を露骨にするつづみであった。
それに少しホッとしたような、安堵したような表情を一瞬だけ見せる紫紺。
「そう、それならいいよ。うちから学園側には断りの連絡を入れておこう」
あっさりと話を終わらせて、紫檀は微笑む。
「話は終わり。二人とも戻っていい」
「よろしいのですか?」
「あぁ、つづみさんが寮に入るかどうか聞きたかっただけだからね。紫紺はなんで来たの?」
「父上がつづみを呼んだからです。てっきり俺も関係のある話かと」
「あぁ、そっか、つづみさん、紫紺はねぇ。帰って早々僕を責めたんだよ。ひどいよねぇ
『話が違います!』とか『つづみは俺のそばに置いておかねば!』とかクラスが違っててすっごく焦ったみたい」
ほんわかと紫紺の醜態を告げ口する当主。
「御当主様にはご迷惑をおかけして申し訳の言葉もございません。全ては、私が紫紺様に愛されているせいで!!
いえ!相思相愛なばっかりに!!!!比翼連理の仲なばっかりに!!!琴瑟相和なせいで!!!オールウェイズ蜜月なんで仕方ないんです!!」
ここぞとばかりにテンションが上がるつづみ。
「お前の異能が他の家にばれたくないからだ!!」
慌てて否定する紫紺。耳まで赤くなりつつ、つづみの満面の笑顔を睨みつける。その睨みも、恥ずかしさゆえの行動と知っているつづみには意味がない。
「うんうん、仲が良いのは蓬生家にとってもいいことだ。」
父親の言葉に、逆に紫紺は言葉が出ないようで「失礼します!」とつづみを引っ張って出て行ってしまった。
ーーーつづみが蓬生家から逃げ出したがることも予想できたがーーー
「うん、大丈夫そうかな」
廊下の向こうで「紫紺様!初めての登校記念にハグしましょ!ぎゅーっとハグしましょうよぅ‼︎」と叫んでいるつづみの声に苦笑して、蓬生当主はそう一人呟くのであった。
*****
「あーあ、全く災難だぜ」
澪標さくらはそう呟くと自室のベッドに身を投げた。
入学式も終わり、寮に入ってようやく1日が終わった。
幼少期に変な能力に目覚めたかと思えば、むつむちゃんにしごかれて。
挙句の果てにこんな学園に入学だ。
むつむちゃん曰く「家柄には問題ないがちょっと訳あり美少女」たちと交流を深めろという。
橋姫ミハト。むつむちゃんの愛弟子。さくらにとっては姉弟子の少女。
薄雲蓮華。喧嘩っ早い脳筋ツインテゴリラ。
蓬生つづみ。暗い感じのツンケンした座敷童。
帚木からたち。仮面つけたコミュ障。
「ろくな女いねーじゃん」
まぁ、少なくとも3人は顔が良かった。むつむちゃん情報では、帚木も結構な美人らしい。
あの女たちを、全てさくらのものにする。それがむつむちゃんの出した試練だった。
ミハトはさくらに懐いているから攻略は簡単だろう。
蓮華だが、あんな女本来こっちから願い下げだ。下着姿みただけで殴ってくる暴力女だ。
あんなの事故じゃねぇかクソが。減るもんじゃねぇし、何もったいぶってやがる。
「となると、次に落としやすいのはつづみかな」
嫌な男と婚約させられた可哀想な女の子。相手をボコればこっちのものだ。
「婚約破棄させて、真実の愛を見せつけてーってか。あはは、少女漫画にありそう」
とりあえず、ミハトとつづみから攻略していけばいいだろう。
「あんな男より、俺がすげぇとこ見せればいいんだろ?」
ツンと澄ましたあの顔が、淫らに乱れる様を想像して、さくらはにやりと笑った。
*****
「ヤダァァァ!!!紫紺様と一緒に寝るぅぅぅ」
「部屋に戻りなさい!つづみ!こらっ!!」
同日の夜、紫紺の部屋で駄々をこねるつづみがいた。紫紺の部屋の布団に潜り込んで出てこようとしない。
ツンと澄ました顔どころではない。淫らではないが、乱れた表情ではある。主になきべそで。
「ヤダヤダ!!!紫紺様と一緒に寝るーーー!!!」
ふわふわの水色パステルカラーのパジャマを着て、つづみはべそべそと駄々をこねる。
う!と紫紺が折れそうになるが、長年の付き合いでそれがつづみの泣き落とし作戦だともすぐさま理解する。
つづみのこんな喚き声を聞いても他の使用人や紫紺の父母も来ない所を見ると、つづみが紫紺の部屋で寝るのは黙認されたようだ。紫紺としては認めたくはないのだが。
「今夜だけ!!今夜だけぇ!!!つづみは紫紺様と同じクラスになれなくても暴れずに耐えたんですよ!!!」
「暴れるな」
「やーーー!!つづみは「紫紺様と添い寝」ぐらいのオプションつけてもらわないと頑張れないです!!」
「オプションいうな」
「何にもしないから!!ね、何にもしないから!!」
「それなんかする奴のセリフ」
うえぇぇぇうっぐ、びぇぇぇおんごぉぉぉぉとおよそ美少女らしからぬ嘘泣きを始める。
こんなひどい泣き声なのに、泣いてる顔が美少女なので脳が混乱する。
サウンドエフェクト狂ってるぞ。
「つづみ」
そんなつづみを諌めようとして紫紺はわざと厳しい声をかける。
つづみが潤んだ目で見つめ返す。
「……今夜だけだからな」
「ッシャ!」
諦めて紫紺は布団に潜り込む。つづみで温まった布団。そしてニッコニコのつづみがこちらを見てくる。
「紫紺様」
「なんだ」
「本当に何もしなくてよろしいのですか?」
「寝ろ」
「紫紺様」
「なんだ」
「……ありがとうございます」
つづみの言葉に、紫紺は小さく、「ん」と返事だけするとつづみの手をにぎる。
つづみとこうして寝るのは、特に珍しいことではない。
親元を早くから離されたつづみは、寂しくて、心細くて一人で寝るのが怖かった。
異能の影響なのか悪夢を見ることは少なくなかった。
小さい頃、夜がくるたび怖い夢を見るつづみを見て、紫紺が「じゃあ、一緒にいよう」とこっそり部屋に招いたのが始まりだ。
二人、手を握る。肩を寄せ合う。お互いの体温に温まる。
どうしてもつづみが眠れない時は、紫紺はつづみが眠るまで話相手になっていた。
「紫紺様」
「なんだ」
「おっぱい揉みます?」
「寝ろ!!!」
紫紺の必死の我慢も知らずに、つづみがとんでもないことをいうので、手を離して背を向ける。
あぁんと悲しい鳴き声をあげて、それでもつづみは紫紺の背中ににピッタリくっつく。
「紫紺様」
「なんだ」
呼べば必ず返事をする紫紺の生真面目さに、つづみは子供のように嬉しそうに笑う。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
ぶっきらぼうだけど優しい声に、つづみは安心して目を閉じたのだった。
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