第5話 ゴールド・クラッシュ   

 衛星画像は、古今未曾有、前代未聞、空前絶後の、不可思議な「対決」の構図を精細に映写していた。

 北上しつつある”ヒョウゴロシ”の津波は、二万分の一の縮尺の視界にも、それと分かる”玉虫色”にキラキラと輝いている。夢のような美しさ…だがそれは真実紛れもない恐怖の「殺傷兵器」であり、纏っている輝きは、匿名のテロリストのアイロニカルな”モルヒネ”的メッセージなのかもしれない。

 これを、「新しいゴールド・ラッシュ」と、皮肉に呼ぶものもあった。

 一方、バミューダ・トライアングル辺に「FEATHER」のおよそ想像不可能な謎のハイテクで”醸成”された超大型台風「アトラス」の縮尺画像は、これも地球最終決戦の一方の雄と呼ぶにふさわしい、まさにそれ自体が”この世の終わり”という言葉の具現化に見えた。。 

 夏空に聳える雲の峰、あの積乱雲を何十万個も凝集させたような巨大な雲の渦巻き。すさまじいエネルギーを蔵する生きた水蒸気の塊。そこには、それだけでも大西洋を根こそぎにできそうな、不気味で異様な、莫大な「力」のニュアンスが見て取れるのだった。

何年か前に、「フロイト」というハリケーンが、ニューオリンズという南部の古都を壊滅させたのは記憶に新しいが、「アトラス」は規模も、ヘクトパスカルも、既成のハリケーンを遥かに凌駕する、敢えて形容するなら新種の「怪物」、もはや別種の気象現象で、「FEATHER」にしても地球の存亡が争われる事態でなければとてもこんな危険な賭けに、極限まで〝レイズ〟する勇気はなかっただろう…が、とにかく〝賽は投げられた〟のだ。


<続く>

   

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