第6話   矛盾

 ちょうど古代の中国の故事、「矛盾」という熟語の来歴を思わせる究極のパワーVSパワーの激突、勝敗の帰趨が全く予想不能な「ハルマゲドン」の勃発の時が間近に迫っていた。


  最大瞬間風速400メートル毎秒、中心気圧510ヘクトパスカル、ユカタン半島全体の面積に匹敵する規模の、殆ど竜巻10万個分ほどの破壊力を有する超巨大で猛烈な渦巻き。「水没するノアの方舟」作戦の成否を左右する”最終巨神兵・アトラス”は、大西洋の海水をスポンジのようにずぶずぶに吸い込んで、”トランプの壁”付近に接近しつつあった。針路も「FEATHER」本部からの遠隔操作で正確にコントロールされていた。

 人類に残されたたった一つの頼みの綱「アトラス」は、いわば伝説の「龍虎の戦い」の龍、水龍リヴァイアサンのイメージを彷彿させた。相対するヒョウゴロシはだから、牙を剝いた獰猛で巨怪な”猛虎”だった。

「矛盾」という言葉の、本来不可知な謎を解き明かすような、禁忌タブーを侵犯するような、そういう罪や背徳の香りが、この”対決”には伴っていた。

 が、それは壮麗な天文ショーを眺めるような、どこか魅惑的な興奮を全世界の人々に与えてもいた。

 

…”果たして勝つのはどっちか?”


 ”虹色の虫食い”、”ネオゴールドラッシュ”などと呼ばれている、ヒョウゴロシの北進は誰にも止めようの無い、徹底的な「無差別殺戮」を繰り返しつつ恐ろしいスピードで世界地図を塗り替えつつあった。


 …アンジェラ・ファーブルは対策本部でじっと成り行きを見守っていた。

(私の見るところ、「沈没するノアの方舟」作戦の成功する確率は70%。「アトラス」が猛烈な豪雨でヒョウゴロシの大群を食い止めて、それが48時間以上持続すれば地球防衛軍の方に凱歌が上がるでしょう。ただ、上陸したハリケーンがどこまで勢力を保てるかは未知数だ。やはり結果は神のみぞ知る、かもしれない…)


(続く)

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