第2話 インセクト・タブー
ソルボンヌ大学でもトップクラスの叡智の持ち主と言われる昆虫学者で、十二か国語を話すcosmopolitanでもあるアンジェラ・ファーブル女史の「ヒョウゴロシ」分析は、外殻の構成物質の組成から生体メカニズムの遺伝子レベルの解析にまでおよび、程なくして、この「ミュータント生物兵器」の、生態、発生、蔓延そのほかのあらゆるメカニズムがほぼ明らかになった。
”昆虫禍”の巨大な渦は、すでに南アメリカの2/3を完全に無人地帯化していた。
緊急に対策を講じないと、アメリカが滅亡する。海を渡れるかどうかまでは予測不能だったが、悪いことには甲虫には羽根がある。そういうすさまじい生命力のミュータントが、手をこまねいて飢え死にするまで待っているという保証は全くなかった。
何としても今のうちに食い止めなくてはならなかった。
「…つまり、少なくとも完全な突然変異とかではなく、何らかの未知の要因が関与しているのは疑いないです」
アンジェラはジュネーブの、壮麗な国連ビルに設けられた対策本部でレクチャーしていた。世界の要人や軍関係者が勢ぞろいしていた。
「ハンミョウは、通常地面に堅穴を掘ってその中に卵を産んで、幼虫も穴に潜んで他の虫を捕食する。成虫になるまでインタバルがある。このミュータントの場合は今のところどうやって殖えているのかがよくわからない。死骸を分析して分かったのは、」
そこでアンジェラは少し目を伏せてうつむき、ふーっと深いため息をついた。
「むしろこの綺麗な”ムシ”は、地球の従来の生物とは根本的に違った存在形態で生存していて、もっと言えばおよそ異質な、”エイリアン”のような何者かである、ということです。地球外から来たのかはわからない。異星人の侵略であるとすればこれほどに地球に確実に打撃や損害を与える、滅亡へと追い込むのに周到で失敗する恐れの少ないやり方はなかったことになる。で、ここで肝心なのはこの厄介な”ムシ”の駆除の仕方です。専門家として、昆虫学の権威として、私なりに懸命に頭をひねりました。その結果…」
全員が水を打ったように静まり返って、博士の次の言葉を待った…
<続く>
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